週刊誌の医療記事は正確か 専門家が科学的根拠などを評価すると
週刊誌にはよく医療の話題が多く取り上げられています。もちろん良い記事もたくさんあるのですが、中には正確性に欠ける記事もあります。近年、特に流行しているのは「薬を飲んではいけない」といった論調の記事です。典型的には、さまざまな薬の恐ろし気な副作用がリストアップされ、専門家とされる人が「このまま薬を飲み続けると死ぬ危険性も」などとコメントしています。確かに、薬には副作用がありますし、必要性に乏しい薬が漫然と処方されていることもあります。薬の危険性について適切に注意を促す記事なら有用でしょう。
ですが、総じて週刊誌の医療記事にはかなり問題があります。週刊誌に掲載された「危ないクスリ」に関する記事19件を、2名の評価者が9つの指標で満足(○)または不満足(×)評価したところ、11件で2名とも不満足(×)の評価項目が半数を超えたとする報告があります。評価項目の一つ、科学的根拠では19件のうち2名とも満足(○)とした記事は2件(10.5%)に過ぎませんでした。
なぜ不正確な医療記事が多いのか、それには構造的な問題があります。週刊誌に限らず多くのメディアの記事にも共通することですが、正しいけれど当たり障りのない記事よりも、不正確でも読者の興味をひく驚くような内容の記事の方がよく読まれます。加えて、専門性のある記事の内容を検証し、正確さを担保するには手間がかかります。医療従事者向けの医学雑誌に掲載される論文なら、通常は査読といって他の専門家によるチェックが入りますが、週刊誌ではとてもそんな時間もコストをかけていられません。
専門家とされる人のコメントも、誰に聞くかに大きく依存します。きちんとした専門家に聞けばいいのですが、正確さよりも読者に受けるような、つまり編集者から採用されやすいようなコメントばかりしている常連のコメンテイターもいます。コメントするといくばくかの謝礼をいただけます。コメントする側は謝礼を、編集者側は読者受けするコメントをお互い手軽に得られるという関係が成り立っているのでしょう。
こうした構造的な問題は解消が難しく、読者の側が気を付けて自己防衛するしかありません。いちばんよくないのが自己判断で薬を勝手に止めることです。薬を止めたことで被害が生じても週刊誌は責任を取ってくれません。まずは薬を処方した主治医に相談しましょう。薬の副作用については処方薬と一緒に渡される薬剤情報提供書に記載されていますし、薬剤師も相談に乗ってくれます。
医師側も反省すべき点があります。処方薬について不安をあおるような記事が好んで読まれるのは、我々医療者が患者さんから十分な信頼を得ていないからです。薬についてもきちんと説明し、週刊誌の記事に患者さんが惑わされることがない診療を目指します。
※参考:週刊誌に掲載された「危ないクスリ」に関する情報の整理とその適切性評価(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjdi/24/1/24_1/_pdf/-char/ja)
連載内科医・酒井健司の医心電信
この連載の一覧を見る- 酒井健司(さかい・けんじ)内科医
- 1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。