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「技能」受け継ぎ土俵を沸かす 安青錦

■初場所、十両5枚目で新入幕を狙う安治川部屋の安青錦(あおにしき)、ウクライナ出身の20歳です。 SOON相撲部・能町みね子部長は令和7年に必ず来る力士!として注目しています。 その相撲は、「技能派」。様々な珍しい技をくりだし、土俵を沸かせています。 かつてヨーロッパ出身の力士は琴欧州(ブルガリア)や栃ノ心(ジョージア)など、パワー系力士が多かったものの、安青錦は技能相撲。 その相撲に重なるのは、師匠の安治川親方“元関脇安美錦”の姿です。 現役時代「土俵際の魔術師」とも呼ばれた、技能派力士“安美錦” その技能は着実に、弟子に受け継がれています。 安青錦はどのようにその相撲を学んだのか。本人、そして親方の言葉から探ります。

取材・文=赤井麻衣子(SOON相撲部副部長)

以下 安青錦=安  安治川親方(元関脇安美錦)=安治川


――安青錦関、相撲の取り口が、師匠の安治川親方によく似ていますね。

安「まだまだじゃないですか、皆さんそう思ってくれているのはうれしいですけど、なかなか自分ではそう思っていないですよ。いつかはそうなれたらいいなって感じですね」

――ご自身が一番目指している相撲は、どういう相撲ですか。

安「立ち合い、しっかり当たって相手を起こしてから前まわしを取って、そこから出し投げを打つとか、師匠みたいな感じですね」

――師匠は出し投げの名手ですよね。どんな風に打てと言われていますか?

安「出し投げでもいろいろなパターンがあるじゃないですか。そうすると自分は出し投げで勝負を決めるというのはあまり意識せずに、とりあえず相手を崩してから、もう一回攻めるか、足を取るか。決める技というよりは、相手を崩す感じでやっています」

――師匠の相撲を見ることはありますか?

安「親方の昔からの取組映像が詰まったDVDを、ご飯を食べるときによく見るんですよ。自分は、ご飯を一気に食べられるタイプじゃなくて、結構時間がかかるんです。なので、その時間に相撲を見ることでプラスにするようにしています。子どもの頃からYouTubeで相撲を見て、やってみる、技を盗むことはよくやっていましたね。師匠の相撲を見るときは、もし自分が対戦したらどうしたら勝てるだろうといつも考えています。(赤井:勝てそうですか?)まだ一度も、これで勝つなって思えたことは、ないですね」

――最近はどんなことを師匠から教わりましたか?

安「親方は稽古場でたくさん言うタイプじゃないので、自分から、何かできないこととか、師匠に聞くようにしています。聞くと、全部教えてくれるので。最近はまわしの切り方を教わりました」

――きょうの稽古中も、師匠に質問をよくしていましたね。

「師匠も分からないことがあったらすぐ俺に聞けと言ってくれるんで。分からないことはすぐ聞いた方が、知っているふりをしているよりいいですね。

強くなるために相撲を取っているんで、もちろん自分よりは師匠の方が色々知っているので、そこのアドバイスをちゃんと聞いた方が、早く覚えるじゃないですか。師匠には同じことを何度も指摘されないように気を付けています。あんまりずっと同じことばかり言われたら成長していないということだと思うので」

■九州場所では、若碇戦で切り返し(相手のひざの外側に自分のひざを当てて後ろにひねるように倒す)大奄美戦で内無双(相手の内ももを下から手で払い体をひねって相手を倒す)と、見事な技能相撲で魅せました。

――若碇戦の切り返しなどは、どういうことを考えていたのでしょうか?

安「当たってから、もう投げられそうになってやばいなと思って。もう勝手に動いたんで。負けたと思ったんです、若碇関は投げがうまいので。これで負けたら絶対親方に言われるんだろうな…って考えていました(笑)。危なかったですね」

――大奄美戦の内無双もすごかったですね

安「体が動くだけなので、内無双なんかは、狙っていく技ではないですね」

――今、自分で強くなるために頑張っていることは何かありますか?

安「ご飯を食べることと、体を作るためにウエイトトレーニングをしていますね。関取になってからちょっと体重は増えたんですけど、これからもっと増やしていきたいなと思っています。幕内で戦うんだったら、みんな結構体でかいので…」

――少しだけ前のことも聞きたいのですけれども、相撲を始めたのはいつですか?

安「7歳くらいです。ウクライナで始めました。子どもだったので、勝負がすぐ決まるし分かりやすかったので、面白いなと。見ていたら簡単なんですけど、今となってはほんとに難しいですね」

――日本に来たきっかけは何ですか?

安「18歳の時、2019年の世界大会に出場して、関西大学の学生と知り合ったんです。日本に行きたいっていう気持ちがあったので、彼に連絡して、日本に行っても大丈夫ですか?と聞くと、全然いいよ、きて!って。ホストファミリーみたいな感じで、ずっと一緒に生活して、関西大学で練習していました」

――関西大学からは十両に昇進して、化粧まわしも贈られましたね。

「そうですね。留学していたわけではなく、練習に参加させてもらっていただけで、(化粧まわしを)いただけたので、本当にありがたいですね」

――今ご家族はどう過ごされているのですか

安「自分の両親はドイツに住んでいますね。ウクライナには知り合いや友達、おばあちゃんがいます。状況は前と変わらない感じですね」

――目標にしている力士はいますか?

安「自分は自分なんで、目標はないんですけど、こういう相撲を取れたらいいなっていうのは、もちろん師匠、あと若隆景関ですね。まだ幕下だったころに稽古をつけに部屋に来てくれて。そしたら“おまえ絶対上がるから、心配しなくて大丈夫”と声をかけてくれたんです。それで自信がつきましたね。自分と体型も似ているんですよね。若隆景関が幕内優勝した時(令和4年春場所)ウクライナにいたので、自分と同じ体型の人が幕内優勝できるんだったら、自分もできるじゃないかなという気持ちになりました」

――少しプライベートについて伺いますと、「時代遅れ」(河島英五)という曲が好きだって聞いたんですけど…

安「そうです(笑)。格好いいなって。こんな顔でこういう曲歌ったら渋いなぁと思って(笑)。
(赤井:ちょっと狙って?)そうです(笑)。日本の曲はこれしか歌えないんですけど。力士はパーティなどで歌を歌うことが多いので、親方に一曲覚えたほうがいいよって言われて、YouTubeで見て、これ良いなあって」

――あとは、今日ここまでお話伺っていて、とても日本語が上手という印象なのですが、どう覚えていったのですか?

安「部屋に入ってからが一番勉強になりましたね。部屋の力士は日本語しか分からないし、こちらに気を使わずに、どんどん日本語でぱっと話して、みんなで笑っているじゃないですか。自分だけ分からない。こっちもしゃべりたいんで、だったら、覚えるしかないなと。わからない言葉があれば、すぐどういう意味か聞いて。それをメモして、その日にその言葉を3、4回ぐらいは使うという感じで、それが一番覚えやすいですね。使わずに覚えたなと思っていても絶対忘れるので、やっぱり使った方が覚えやすいです」

――そのあたりも相撲の稽古に通じるものがありますね

安「早く成長したいんだったら、できる人からアドバイス聞いた方がいいかなって。自分はそういう考え方ですね。何事も自分ができないことを聞くことは恥ずかしくないんで」

――すごく素敵だと思います。今、関取の原動力は何ですか?

安「もっと上へ行きたい気持ちもありますし、家族にも恩返ししたいなという部分もあります。家族に、前はできなかったこと、今は関取になって色々とできるようになったので、色々食べさせたいし買ってあげたいし、どっか連れて行きたいですね」

――最後に今年の目標を教えてもらえますか。

安「もっと体を作って幕内に昇進して、そこで活躍できるように頑張りたいです。後はとりあえず三賞取りたいですね!これからもっといろんな技出していこうかな、まだまだ、あります(笑)」

【安治川親方(元関脇・安美錦)】

――今、安青錦のことをどう評価されていますか。

安治川「良くやっているんじゃないですか。これからもっとどんどん関取としてみんなを引っ張っていく立場になっていくと思うので、そこを本人も意識はしていると思います」

――安青錦関は安治川部屋として初めての関取誕生となりました。弟子が十両の土俵に上がるというのはどういう気持ちでしたか?

安治川「そうね、通過点ですから、私にとっても初めてのことでもありますし、私も勉強しながら、自分が関取に上がった時を思い出しながら、当時の師匠の気持ちになって、どういうところに気をつけさせた方がいいかなとか考えながらやっているところですね。
私は、21歳で上がりましたから、やっぱり少し調子に乗っていた部分もあったと思うし。若さというのは、一つの武器でもあるし、危険なところでもあるので、そういう面を自分の師匠に言われたことを思い出してやっていますね」

――安青錦関の稽古に向かう姿勢はどうですか?

安治川「稽古でも分からないことがあれば聞いてくるし、ひとつひとつ理解しながら稽古していくって言う姿勢で。そこから自分の限界まで追い込むこともできるので、そんなにうるさく言う必要はないかな」

――稽古中に土俵上の力士から質問が飛んで来ることは、他の部屋をみてもそう多くないと思います。

安治川「分からないことあったらね、聞いてくれればいいし、どういうイメージでやっているのかとか、そういうことをも共有しながら、それに合った伝え方をするようにしていますよ」

――具体的にどういう質問が安青錦関からはあるのですか?

安治川「それ言っちゃうと、安青錦はどこが弱いかが分かっちゃうんじゃない?(笑)まあ、まわしの切り方や取る位置、そういう細かいことから本当に大ざっぱにこれどうなんですか?っていうことまで、聞かれれば、教えますよ」

――やはり、「技能派」安美錦(安治川親方)がどう技を伝授しているのか気になります。

安治川「私はそんなにモノを教えませんよ。技って教えるものじゃないからね。私の相撲が好きで、よく昔から映像を見ているみたいで、見たことをやってみて、質問が来る。その繰り返しで、たまにまわしつけるときにね、こういう打ち方あるよと実際に何パターンか体感させたりするので、それで自分に合ったところをうまく吸収していってくれればと思ってるね」

――安美錦のようなお相撲さんはそうそう出てくるものではないと思っていたら、弟子がまるで安美錦になってきたので、能町さんといつも驚いているんです。

(平成30年秋場所・琴勇輝戦で決めた珍手“とっくり投げ”)

安「ふふ、そうね、そんな話がふたりの中で膨らんでいるとはね(笑)。弟子じゃなかったら、逆におかしいけどね (笑)。やっぱり体も、押す力もまだまだですから、技が生きるようにそういう部分を今強化しているところなので、技の部分はそのうちいくらでも出てくると思うので、楽しみにしていてください。ま、実は夜な夜なビデオを見ながら手取り足取り教えてるかもしれないよ~?(笑)」

――ほんとにこれからも楽しみです。先場所の内無双や切り返しは親方から見てどうでしたか?

「まだまだだね?(赤井:安美錦に言わせれば?)ちょっと並べられても困るからねぇ(笑)。俺よりすごかったってって言っちゃうとね、あれなんで、そういう風には言っておきます。すべてにおいてね、成長してきているので、見守っているところですよ」

――相撲部屋は外国出身者は1人までと規定もありますが、安青錦との出会いはどういったものだったんですか?

安治川「部屋も新しかったですし、言葉の問題もあるし、私はそこまで指導できるかどうかというのを不安に思っていたので、はじめは、外国出身の力士はとる気持ちはなかったんです。1度、ご縁あって会ったんですけど、会ったその場で、じゃあおいでよ!って、言っちゃったっていう。ははは(笑)。そこで言っちゃうくらい、彼はまっすぐな目をしていたので、大丈夫かなというところはあったんですよ。私の見る目は間違ってなかったかなと。まあそう思わせてくれるようにこれからも頑張ってほしいなと思います」

――これからどういうお相撲さんになってもらいたいですか?

安治川「ずっと続いてきた大相撲。これをやはりすごく愛して、理解しようという気持ちは強いので、そこの気持ちを大事にしながら、やっぱり大相撲という中で生きること、その世界の中にいるってことを感謝して頑張ってほしいなと思っています」

☆安青錦関、安治川親方、ありがとうございました!