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14−12



——あ〜、風が気持ちいい…。もうちょっとあっちの方まで行ってみようかな。


 そして私はふらっと一人、果ての島の観光を楽しみにやってきた。

 浮遊都市(エルファンディア)と名が刻まれた元・エルフの居住地は、最も高い場所にある“果ての島”の岬から、辺りに散らばる島々を一望できる配置になっている。

 七つの城を頂く島は、それぞれが微妙な具合に寄り添って出来ており、七つある城の奥から細い通路が延びている。その先には“聖域”という小さな島が浮いており、まぁ、ものすごく部外者な私だが、逆に…というか、だからこそ。そこに何があるかとか、簡単に想像できた。

 エデルさんは聖域について「今まで一度も入った事が無い」と言い、エイダちゃんは「昔探検した時に近くまで行ったけど、扉はちっとも動かなかった」と言っていた。だから「シュシュちゃんと一緒に行ってみて」とエデルさんに提案し、荷馬車から何かの箱を持って来て、エイダちゃんに開いてみせたイシュを横目に——何だかおもちゃの釣り竿のようだったけど、エイダちゃんはもの凄く喜んでいた——、私は「散歩」と城を出た。

 久しぶりに調べものに精を出したりしちゃったために、肩とか腰とか目とかが痛い。一気に情報を詰め込んだがためである頭の横の鈍痛は、何も考えず歩いていたらいつの間にか消えていた。


——私はこういうシリアス展開、あんまり得意じゃないのになぁ。


 うっかりすると歴史に名前が載っちゃうゼ、あぁ、そうだ、不可視化魔道具(インビジブラー)があったなぁ、じゃあ帰りはそれだなぁ…とか、ポツポツと考えて。風がそよめく小高い丘へ、ぽかぽかな日差しを遮るちょっとした立ち木の下に「よっこいせ〜」と腰を下ろした。

 わかりやすく括弧囲いだが、まぁそこは心の声で。これが実際口に乗ったら、そろそろある種の女性的な境というのを越えるのだろう…と空笑いして。眼下に広がる絶景を見る。


——うわ〜、きれい。ちょっと廃墟っぽくなったとことか…蔦囲いも素敵なんだけど…これがあっという間に生きてる人のお家になって、一つの国の城下町とかになるんだろうなぁ。


 割と広めの島に広がる街の痕跡を尻目にし、ちょっと茂り過ぎちゃったかな〜な森と湖を抱く、別の小島に視線を向ける。

 どこを向いても青と白と緑が入るこの場所は、ものすごく目にいいぞ。

 そんな明後日な事を思って、私はしゃきっと姿勢を伸ばし。

 なんでこっち来ちゃったの…?な焦りとかを抱きながら。

 本当に珍しい闖入…じゃなく、来訪者な勇者様とかを、さり気なさを装って迎え入れたりしたのである。




「何か問題ありました?」


 どう声をかけていいか分からずに、取りあえずそっちの流れを作ってみると、勇者様は「いや」と言い、少し離れた所に座る。

 少し離れたと表現しても、せいぜいが前の世界で1メートルな単位である。


——充分近い…(゜゜;)


 そして恥ずい…と、声を噛み締め、足下に生えた草をいじると。


「一人で出て行ったから…少し、心配になったんだ」


 そんな静かな答えが返る。

 内心「お、おぅ」と狼狽し、相変わらず親切ですね…と。

 気持ちを落ち着け草を千切ると。


「だ、大丈夫です。特殊スキルが最強ですし…っ。死ぬ事とかありませんから…!」


 私の口から出て来た返しは、可愛げの皆無な言葉であった。


——何故素直にありがとうとか、言えなかったかなこの口は……orz


 あーあー全く困った奴だゼ。

 お前馬鹿だろ、大馬鹿だろう?

 そう自分を野次りながらも、ぷちぷちと草を千切って、今からでもありがとうとか言った方がいいかなぁ?ともの凄く早く回る頭の中で行ったり来たりしていたが。

 やや沈黙が降りた後。


「…それでも怪我はするだろう?」


 と、上がりきらない語尾を綴って、勇者様が囁いた。


「ええっと…まぁ、たまには…そんな日も」


 どうして今頃怪我の心配をして貰えているのだろう…?

 有り難いけど微妙に謎な話の行方を伺って、秘技☆曖昧な受け答え!で当たり障り無く流してやると。

 やはり殆ど接点のない所詮知人な我々は、呆気なく会話のタネを失った。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


——辛い…!辛い!!辛いです!!?


 おかしいぞ。

 まさに今、私はこの世で最も愛する勇者様のお隣——しかも1メートル圏内——に座っている筈なのだがね!?

 そよぐ穏やかな景観の中、アワアワしながら緑の草をぷちぷちぷちぷち千切っていると、お隣の勇者な人もさすがに気まずかったのだろう。私から135度ほど顔を背けた方向で、ごほっと咳き込み何事かを誤摩化したようだった。

 それからいやにか細い声で「その…」と呟き前を向いたら。


「帰る手段を見つけてくれて、ありがとう。本当に助かった」


 と、今回の事についてのお礼を述べる。

 私は更に内心でアワアワすると、精々「いいえ」と返すくらいだ。

 もともとが身内といえる幼なじみの陰謀なのだし、むしろ巻き込んでスミマセン!だが、当然それをぶっちゃけたりとか出来る仲でもないのだし「どうかお気になさらずに」としか言いようがないのである。

 それに今回の話でいうと、何となくだが後味が悪い…といいますか。どーんとこい、なエイダちゃんを見、エデルさんも最終的には腹をくくった様子だったが、私の方は「悪い事したなぁ…」な罪悪感が消えやらない。

 当たり障り無い「いいえ」の後に、実はまだ気にしているのですけど…な雰囲気を乗せ、その辺の事をポツリと返せば。そこそこ重い話題なだけに「そうだな…」な肯定の後、勇者様も口ごもる。

 そして再び会話が無くなり、内心涙目で私は喘ぐ。

 するとまたしても「その…」と呟き、勇者様は果敢にも、私との会話に挑んで来たのであった。


「前の依頼で…孤児だと聞いたから…」


「ずっと、故郷には家族が居ると勘違いをしていた…」


 と。

 何処かばつが悪そうに細い音のまま囁いて。

 私はそこでハッと気付いて、忘れられた街道の時のイシュの話を思い出し、いやいやいや、と首を振る。


「いえあの私っ、実は結構恵まれた環境でしたし…!」


 ちっとも哀れじゃありませんから!

 心の声が勢い余り、がばっと体をそちらにやると、勇者様は僅かに怯み「そうなのか?」と絞り出す。


「たっ、たまたまですが、コーラステニアの城下町に住む貴族の夫婦と知り合いまして。イシュと一緒にしばらくお世話になったんですよ」


 本当は“たまたま”ではなく、イシュ的策略だったんですが。


「とても優しいご夫婦で、私もイシュもまるで我が子同然に手を掛けて頂きました」


 事実、男子を三人ばかり授かっていた彼等から、勤勉さとか謙虚さとかをもの凄く褒められて、本当は娘が欲しかった、良ければうちの子にならないか、とか本気っぽく言われていたし。

 まぁ、跡継ぎなお三方的に孤児の娘が系譜のうちに入って欲しくはなかったらしく、いつも慌てて止めに来たので——可愛がって貰ってるな〜な感触だったのだけど、それはまた別の問題だったらしい——、なんか申し訳ないな…取りあえず安心して貰おう、とさっさと一人暮らしを始めたのだが。結局6年もの間、お世話になってしまったんだな…と、記憶が遠い所へ飛んだ。


「だから、まぁ、たまにはちょっと寂しいですが、孤児の割にかなり満ち足りた人生だったと思うんです」


 だから全然可哀想ではないんですよ、私ってばね。

 必死に誤解されまいとそんな風に言葉を締めれば、勇者様はふと動き、遠くを眺めて語り出す。

 気のせいか、どこか懐かしむように、彼の纏った硬い空気がどことなく和らいだ気配がしてきて。


「そうだな。俺も孤児の割には満ち足りた人生だっと思う」


 そんなセリフが聞こえて来たのだ。


「あれ。勇者様、一人称って“私”の方じゃなかったでした?」


 ついうっかり突っ込むと。


「…公式の場はそれで通すが」


 私的な場合は自分か俺だ、と彼は言う。

 まぁ、基本的に契約相手が王侯貴族な人達ならば、自然と丁寧な一人称にもなるだろうって話だが。

 実はこれって孤児フレーズにギョッとしたための転換だった、なベルさんの本心さまが、別次元の思いがけない穴とかに突っ込んで行ってしまったのかも…?と何となくドキリと跳ねる。


——え!?今って私的な時間なんですか!?前は私に対しても“私”な対応だったんですが!!?


 うわぁ!!うそうそ!?!?これってまさかの進展ですか!?

 勝手に“前進”を期待して、かあっと顔に熱が集まり、久しぶりに思い出したよ!なイケメン顔を見ていられずに、ふわ〜な調子で顔を逸らすと。まるで「今の何処に照れの要素が?」な思考吹き出しを引っさげて、勇者様は不思議そうにこちらの様子を伺ってくる。


——勇者様!こういう場合は、気の無い相手に、そういう後追いしちゃダメですよっ!!


 くそう、“勇者”め。もれなく“天然タラシ要素”とか通常装備しやがって。

 まぁ、私の照れとかは普通にスルーして頂いて、と。

 コホン、と咳き込み気を取り直すと、私は平静を装って元の話を引き戻す。


「勇者様って貴族ですよね?」


 念のための確認で質問をしてみたが。

 あっさりと彼は首を振り、元々孤児だ、と告げてきた。


「ユーグドリアのリディアの街で路上生活をしている所を、放浪していた養父に拾われて…。グランスルスの貴族の女性と養父(ちち)が結婚したために、その都合で自分も名前だけの貴族になった」


 それって公式プロフィールです…?

 何となく「しーん…」としてしまったが。自国だろうが他国だろうが有力者な人達が知らない訳も無い筈なので、なんだ知らなかったのは一般市民な私だけか…と、うんうんと頷いた。

 それにしたって本人様から貴重な情報提供なので、流れる噂を拾うより余程レアな体験ですよ!と。

 それでセカンドネームとか普通に付いている辺り、この場合の養母様にはしっかり受け入れられたのだろう、良かったね勇者様!と満ち足りたという彼の記憶を何となく想像付ける。


「男一つで勇者様を拾って行かれたお養父(とう)様は、さぞ男気に溢れた方なんでしょうね」


 もの凄く勝手な想像で、熊のような体格を持ち、けれど優しい冒険者とか脳裏のうちに描いていると。

 やや硬い空気を戻し、勇者様は絞り出す。


「…いや」


 と言ったこの辺で、空想から戻って来てれば良かったのだが、相変わらす私の頭は彼方まで飛んでいて。


「しばらく経って、何故自分を拾ったのか聞いた事があるんだが…」


 ここでさらに一拍を置く、妙な感じの話の流れに。


「子連れなら女の誘いを断りやすい、と言っていた」


 な回答が。

 そして、聞き終えた故の妙な気まずさが、私の胸になだれ込む。


「……そ、そうですか。勇者様のお養父様も相当イケメンだったんですね…」


 脳内で熊にバツが付き、瞬時にしなやかな体躯を持った美丈夫とかが描かれる。


「…イケメン、とはどういう意味だ?」

「あっ、はい、そうですね…!?イケメンとは確かグッド・ルッキング・ガイの事ですよ。イケてるメンズ。ようは雰囲気も含めた辺りの、見目麗しい男子の事だと思うのですが…」

「………」

「勇者様も相当なイケメンですよ」


 d(>_・ )ぐっ、と返すと彼は微妙に苦めな表情(かお)を浮かべてみせて、「そうか…」とだけ呟いて。

 ふと思い出すように。


「…顔が良いのか?」


 と問うて来る。

 私はぱちりと瞬きをして、僅かに動きを止めた後。

 たぶん、信じて貰えないけど、と勝ち誇った笑みを浮かべた。

 それからしっかり灰色の波の無い双眸を見て。




「この人だ、って思ったんです。勇者様は私にとって、運命の相手なんですよ」




 そう、私は堂々と、言い放ってやったのだ。

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