14−3
「そろそろですね」
途中お昼の休憩を入れ、木漏れ日の射す狭い坂道をゆったりと行きながら、ついに今日限定の聖地観光隊な我々は、あと少しの場所まできた。
地図をちらっと見た所、最後のカーブを進んだ所がエルフ族が“聖地”と呼び習う巨石群(メガリス)がある場所で、ライスさんが語ったように全く関係無かったりする純粋人族な自分だけれど、何か神聖なものにあやかれるかも?な期待感が湧いてくる。
最終的に勇者様の隣じゃなくて、やっぱりイシュの隣を歩く事になったのだけど、こちらの体力の限界を何故か悟ったイシュルカさんは、昼食後「馬車に乗りなよ」と荷物を押した一角に私をひとり詰め込んだ。
まぁ、朝、早かったしね、と。何となく越えられない持久力的な限界に、それでも年下のシュシュちゃんは平気で付いていけるのになぁ、と。結局、不向きってやつなのか?とほんの少し凹んでみたり。
荷馬車の端の布の中から顔だけ出した私の声は、イシュだけが受け取って。
最終カーブを曲がり終えると、奥に開けた聖地が見えた。
——わ…素敵…!
牧歌的な雰囲気漂う二頭の馬(?)の足音に、段々と近づいて来る景色を感じ、そこだけ時間が止まったような静謐な空間に、奇妙な模様が走る巨石が遠目に確認できる。まるで、前の世界の世界遺産を、高画質テレビ様でじっくり観賞している様だ。
いやいや。これは現実で、画面越しじゃない生ものだけど、と。
けれど、苔生した表面が木漏れ日に光る様だとか、前の世界じゃ“聖地”といえば最早観光地のノリだったのに、何者にも侵されない清浄な空気を知って。リアルにこんな場所があるのかな?とか、良いとこだけを切り取った一場面なヤツじゃない?とか、疑う気持ちが出るくらい。それくらい、現実離れしたような土地なのだ。
ライスさんやレプスさんとか、心の友…それは心友、な精神的同期生らは同じような感想を抱いたらしく、「綺麗だねぇ」とか「素晴らしいでござるなぁ」と、素直に感嘆と述べている。若人なシュシュちゃん&ソロルくんは割と普通の顔をしていて、やや感動の度合いというのが低めなようだった。
そして一番肝心な勇者様の反応だけど…。
先に進んでいるために後ろ姿しか見えなくて、残念ながらどんな顔をしているかとか、いまいち具合が分からない。
この感動を共有できたら…なんて思うが、よくよくと鑑みて、小さい頃から大陸中を旅している、な“くだり”から、こういう景色はもしや日常茶飯事か?と。いらない事だが変にお互いの差が見えて、若干凹んでみたりして。
——〜〜〜、くそぅ…遠いなぁ…(;へ:)
雑な言葉で勇者様との距離を思えば、今日だけ限定観光隊な勇者パーティ+αは、ついに聖地と呼ばれる場所の巨石群(メガリス)を、間近に臨む場所に出た。
「でっ…かいですねぇ…!」
思わず馬車を飛び降りて、ふらふらと巨石に近づいていく私をほぼスルーして、まぁ、各々が開けた史蹟にそれぞれ想いを馳せてると。イシュルカさんがちょっとゴソゴソ荷馬車をやって、ずた袋風のアイテム袋を手に持ちながら、こちらの方にやってきた。
「ま、僕らは関係ないけど、形でだけでも“巡礼”しないとね」
何故かニヤリな笑みを浮かべる幼なじみを不審に感じ、ずた袋を返して落ちた“奇石”の数々に、あぁ、と思って鞄を探る。
ちょっと離れた所に立って、何やら懐から出した例の小石を巨石の上に積もうとしているソロルくんの姿を知って。
「そういえば私も同じの持ってます。よく見れば、この岩の“欠片”なんですねぇ」
と。
昔、ソロルの森に入れずにウロウロ近くを徘徊してたら、ふと視界に飛び込んだ石ころを拾った記憶が甦る。
聖地巡礼———。
それってつまり、うんと昔にエルフ族の幾人が何かの記念——思い出?——に“聖地”から頂いた小さな欠片を、こうして世代を超えた誰かが元の場所に返しに来るという…何とも壮大で、ロマンティックな巡業(じゅんごう)を…示しているようではないか。
そんな風に空想したら、さらにこの地に「じーん」となって。
——今、帰りましたよー。
な心の声で石を置く。
「さぁ、大地上昇、だよ。エルフ王の帰還の刻だ」
不意に横から聞こえた声に、穏やかな音を拾って。
しかし何か穏やかじゃない言葉の内容に、訝しく「ん?」と首を向ければ。
「何だ!?」
と叫んだ少年の焦りの声に、目も眩む程まばゆく光る強い緑光が満ちるのを見て。
驚いて胸元を辿るシュシュちゃんの姿を影に、現れただろう首輪のチャームがキラリ。
そして私は太陽(ひ)を囲む、美しい虹を見たのだ———。
※巡業:正しくは“じゅんぎょう”、土地を回って興行すること、らしいです。が、ここでの使用は雰囲気で。
※太陽を囲む虹:日暈(ひがさ)と呼ばれる現象だそう。白虹(はっこう)とも呼ぶらしい。