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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
13 忘れられた街道
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13−10



 ビーフシチューを一口含み、じーん、な背景音でしばらく動きを止めた彼女は、ホロホロに溶けたお肉に再度動きを止めた後、心からの尊敬の眼差しをこちらの方に向けてきた。

 いえ、そこまで想われたとて…とタジタジになった私は、お肉以外は時短です、デミグラスソースは既製です…と照れ隠しでも言ってはいけない気がしてしまい、そのまま苦い気持ちとともに言葉を飲み込んだ。


「これくらい作れるなら披露してくれて良かったのに」


 と。ソロル氏なんか、どうせ近くに居たんだから料理できます!と主張して混ざってくれば良かったのに、と。お前、変に気ぃ使いだよな、私にだけ聞こえる音でそんな言葉を呟いた。

 気ぃ使いはお前の方だ!———内心とても雑な言葉で一人憤慨していると、昼間のアレは何だったのか、と話題がふいに逸れて行く。


「見た事の無い魔法?だったでござるから」


 現れた時の雰囲気が魔法陣だったせいだろう。それでも目にした事のない不思議な言葉が連なるそれに、違和感を覚えたらしいレプスさんが問い掛ける。

 イシュは秘密にするほどでも、と先ほどの石を取り出して。


「召喚石というやつです。まぁ、これは遺物の類いなのですが」


 そう言いながら隣の人に手渡した。

 手から手へと渡る小石に合わせるように、元は五個で一つなのです、そんな風に説明付ける。


「行商をやってる傍ら、遺物集めを趣味にしていて。その中の一つだったんですよ」


 役に立って良かったです、と。

 因に昼はベルの魔力で召喚して貰ったんです、そんなフォローも忘れずに。

 全く、よそ行き仮面の優秀なことですな!と呆れにも似た気持ちでいると、ふと勇者様と視線が合って気恥ずかしさにそれを逸らした。


「おかげさまで、明日には目的の街(ティンブル)に着けそうです」


 そう穏やかにお礼を言った昨夜のイシュの姿を思い。

 現在、隣で必死になって笑うのを耐えている、幼なじみにジト目を送る。


「なんですかこれ」


 疑問符無しに呟けば。


「きのこでしょ…っ、ふっ」


 耐えきれず息を零した彼が言う。

 忘れられた街道の、ティンブルまでの最後の道を、これまた巨大な体で塞いできたのは。赤い帽子のイタリア男子もマンマミーアと叫んで見上げる、巨大すぎる、巨大なキノコだったのだ———。




「もうね、何ていうかさぁ。ここまでくると、ちょっとした嫌がらせみたいなものだよね」

「……なるほど、魔気産キノコ(マジック・マッシュルーム)の一種なんですね」

「相手方も、馬鹿。馬鹿、馬鹿だよねっ。巨大モンスターで足止めできなかったから、って。あはは。何これ。あはは。もうダメ」

「……このサイズ、相当、魔石を喰わせたとしか。いえ、逆に言えば巨大なだけで自然物に近いんですから。イシュ、いい加減笑ってないで、遺物(レーザー砲)を出して下さい。遠回りして向かうより焼き切った方が早そうです」

「ぶふっ…!あぁ、だめ。もうちょっと」

「〜〜〜、イシュってば!」

「あ〜、はいはい」


 最後に再びぷふっと漏らし、植物図鑑を開いた私にヒラヒラと手をふると。

 幼なじみは「あのくらいなら問題無いよ」と、勇者様に視線を向ける。

 涙が滲んだ目元を拭い——そんなにか!!——ニヤニヤと見つめていると。

 勇者様はフと背後に控えた仲間を振り返り、どことなく微妙な顔でゆっくりと頷いた。

 すると、それまで気付かなかったが、私以外の人達が訳知り風に頷き返すのを雰囲気で察知したりして。


——え?何?え?


 と、思っていると。

 次の瞬間。

 何気なく巨大キノコに手を掛けたその人が。

 よっこらしょ———までいかないような、ものすごく軽い気配で。


 キノコ、持ち上げちゃいました。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


——って。


「えぇえええっ!!!?!」


——勇者様!!え!?勇者様っ!??


 ぱく、ぱく、と口を開けど、そこから出てくる音もなく。


——勇者がキノコ…!勇者がキノコ…!キノコで巨大化…はしないけど!!あのビジュアルでファンシーキノコを抱き上げる勇者様って…!!!ものすごくシュールです!いささかシュールすぎますよ…!!


 あの、それって、普通の人が持ち上げられるものですか…?

 いえ、確かに分類“人”でも、彼のお方は“勇者”様。

 いける?いけるか。いや、でも、えぇぇ。


——おそろしや、ファンタジー…!!


 ポーンと飛んだ私の意識は暫く戻る事はなく、ファンタジーって凄いジャンルだな!と。心の中でオチがつくまで、御者台で一人現(うつつ)をまどろんでいたらしいです。



*.・*.・*.・*.・*.・*


 勇者の嫁になりたくて。

 異世界からの転生者、ベルリナ・ラコット、18歳。

 私が愛する勇者様、実は“怪力”のスキルを所持する珍しい人でした…!

 そして、因にあのキノコ、後日冒険者ギルドから“キノコ狩り”の通達が発せられたそう。それなりに美味しい味だったとか———は、余談の話…ですかねぇ。

読了お疲れ様でした。

え?荷物は?とモヤッとした方。すみません。

荷物は無事に届けられ、イシュルカさんは誰かさんの陰謀を見事潰してみせました。


色々と説明しなきゃいけないような?と思うのですが。なんだか上手く出て来ないので。

あとはモンスター情報でも載せときます。



オロロ:ハエとアブを掛け合わせたような虫系のモンスター。ベルが居る大陸に存在するのは大きくても体長1メートルほどだが、街道に出て来たやつは別大陸のダンジョンに生息している馬鹿デカいやつ。たぶん、全長で10メートルは軽くある。


アーマード・ボア:鎧を纏ったイノシシっぽいモンスター。体長は8メートルほど、と前日の敵に比べて小型だったが、猪突猛進で追われると迫力満点な恐ろしさ。物理・魔法耐性が高めな外身に対し、中身は結構脆い様。摂取物による状態異常に弱いのか、焼き菓子に含まれていた毒というのがヤバかったのか…。ベルの致死回避率が半端ない(笑)と、お隣のイシュルカさんは内心笑っていたかもしれない。


スコロペンドラ:巨大なムカデ。後ろ足で立った時、超高層ビルくらいの高さあり。体は大きいが、レベルはそれほど高くない。別大陸のダンジョン、熱帯の森に生息しているユニーク・モンスターの一である。


オルゴイコルコイ:巨大な白い肉食芋虫。スコロペンドラの1.5倍の大きさ…か?だがレベルはそれほど高くない。ファンタジーものによく出現するワームみたいなやつである。口が大きく牙がいっぱい。別大陸の大砂漠に生息している。砂に潜る能力有りだが、森だと上手く潜っていけないらしい。

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