13−8
「ふっ…!あはははは!」
今日も護衛のお仕事お疲れさまでした、と。いつも通り早々に野営を始めた我々は、またしてもこれまで通り、夕食までの休憩時間を各々が潰していた。
この時ばかりは忙しくあれやこれやと手を動かす食事係の私の横で、それとなく料理を手伝っていた幼なじみのイシュルカさんが、急に声を張り上げる。
「ちょ、どーしたんです?急に笑って」
油にお肉を浮かせたままで、不審な彼の態度を問えば。
「いやぁ、なかなか傑作だよ。楽しみにしてて、最終日」
と、ズイっと体を近づけて私だけに小声で語る。
——うん、まぁ、言えないことだし。
これは話し続けちゃマズい、と。イシュってば、持ってるスキル知られたくないのなら、もっと行動に気を使いなよ。全くもう、な視線を返して唐揚げ作りに復帰する。
今晩の主なおかずは唐揚げ、肉じゃが、出し巻き卵。合わないかな?と思ったけれど、パン食用にコーンスープを用意しておしまいだ。
昼間、あれだけ巨大な敵を相手にした影響か、シュシュちゃんとソロルくんが調理場所に寄って来たので、それぞれ焦げ付き防止にと、かき混ぜ役を言いつけた。蓋を開け、肉じゃがが入っているのに気付いたら。シュシュちゃんは食い入るようにそこから動かなくなって、私は思わず微笑ましさに口元を緩めてしまう。
空腹には打ち勝てないのか反抗期の色を薄めた緑の髪の少年も、真面目にスープを混ぜ混ぜしてて何だかニヤリと笑ってしまう。
——二人とも可愛いな〜(*´∇`*)
なんて思って、実はイシュが言っていた“深入り”の気持ちとか、こっちの子にも芽生え始めているらしい、と。一人、あーあ、と空笑いして出来たおかずを並べ出す。
次第に寄り集まってきた大人な人達に、次々とご飯かパンを手渡して。和やかな夕食時間の始まりだ。
「それにしても、皆さんお強いですね」
よそ行き仮面の幼なじみが人の好い顔をして話題を振ると、「見た時は驚いたけど、それほどレベルが高くなくて助かったよ」、「今まで戦った事が無かったモンスターでござるから、良い経験になったでござる」とライスさんやレプスさんが穏やかに返事する。
「あんなモンスター引っ張ってくるなんて、あんたどんだけ危ない荷物運んでるんだよ」
若干トゲのあるソロルくんの言い分に、イシュは少し困ったような綺麗な苦笑を顔に張りつけ。
「すみません。実は僕も中身は知らないんですよ」
と、誠実な商人の回答をした。
そこで「おかわり」と差し出されたイシュ用茶碗を受け取って、さっくりよそい、自然と返せば。
何故かちょっと静かになって、ん?と私は視線をあげた。
「…あんたらやっぱ、仲、良過ぎるよね」
ジト目で見てくるソロル氏に。
「まぁ、手を取り合って孤児院を逃げ出した仲ですからね」
とイシュはあっけらかんと言う。
途端、逃げ出した!?と叫んだ少年(かれ)はギョッとこちらに意見を求め。
「自主卒業です」
返した私に、それもどうなの!?な視線を寄越す。
「環境の悪い孤児院なんて、探せばいくらでもありますよ。僕はベルと一緒なら、外へ出たって生きて行けると思ったんです」
微笑をたたえ、続けたイシュに、皆の視線が集まって。
——あぁ、うん。そうですね。私のスキルとイシュのスキル、合わせれば無敵です!と思わなくもないですし。
そう考えたこちらの顔を肯定と取ったのだろう。
何となくその場の空気が労りムードに変化して、「…おまえ、苦労したんだな」とソロルくんに同情された。
——ん?何だ?この空気…。
呆気に取られた不可思議顔で思わず周りを見渡すと、近くには居たものの視線を合わせることの無かった勇者様と目が合って、その灰色の瞳の中にもの言いたげな色を見る。
——や、違っ…!現実はそこまで憐れまれるような話では無いんですけど…!
いやいやいや、とその流れをフォローしようと開いた口は。
「幸い、良い人達と出会う事ができまして、こうして無事に生きてますけど。街に出てからも暫く一緒に暮らしていたので。仲の良さはその名残です。———ご理解頂けました?」
な、丁寧なイシュの言葉運びに、完全にタイミングを逸してしまう。
「なるほど、そうでござったか」と、うんうん頷くレプスさん。「そうだねぇ」としみじみ頷くライスさん。何故か苦めに「うわぁ」な顔を浮かべてしまったソロルくんに、チラッと横目を走らせた無表情なシュシュちゃん、と。これって否定すればするほど憐憫をかってしまう雰囲気か!?と、微妙な気分になったので、私はそっと開いた口を閉じたのだった。
確かにあれは“脱走”に分類されるかもしれませんけど!
むしろイシュと共謀して出てきたって話だし!
これから好きに生きようぜ?なノリでしたしね!
しかも、その後は結構恵まれた生活環境だったんですよ!?
拾ってくれたお貴族さまには多少…じゃなくて、だいぶ甘やかしてもらいましたし!おじさまとおばさまの実の息子ご三方にもそこそこ可愛がってもらいましたしね!勉強したいって言ってみたなら帝都滞在をプレゼントされたんです!いっそ準家族と言っていいほどの扱いだったんですからね!!
私、全然、これっぽっちも、可哀想じゃないですよ!?
それなのに…!!
——い、居たたまれない…っ!
この視線。
落とした視線の先にある唐揚げさんをつまみ取り、口に運んでごっくんと。もぐもぐしている間にも気まずい視線を感じていたので、食事が続く間中、私は何も言うまいと俯いて。暫く口を閉ざして過ごしたのである。
※よそい:よそう。ご飯を盛る。方言だったらどうしよう…!?なので、一応説明入れときます。