1月13日から放送が始まった月9ドラマ『119 エマージェンシーコール』。舞台は通信指令センターだ。119番通報の先にいる指令管制員たちが活躍する。主人公は、横浜市消防局司令課3係に配属になった新人・粕原雪(清野菜名)。耳がよく、一度聞いた声や音は忘れないという特技を持っている。
声で命を繋ぐために必要な想像力
119番の電話の向こうにいる人々。彼らが日々どう働き、何を考えているのかを知る機会はないだろう。
第1話から、さまざまな通報者が描かれた。初っ端から、イタズラ通報が描かれたことには面をくらってしまった。その後、漫画喫茶の火事、商業施設の異臭騒ぎ、電動キックボードによる交通事故など、さまざまな事件が発生する。その一つ一つの事件に真摯に向き合う雪。彼女は現場に行き、自分が受けた電話の先で何が起きていたのかを想像する。
雪は、敏感な聴力を持っているが、それが必ずしも役に立つわけではない。電動キックボードによる交通事故の通報では、相手の不安な思いに寄り添いきることができず、通報者をパニックに陥らせてしまった。もっとこうすればよかった、ああすればよかったという思いを巡らせるために雪は現場に足を運ぶのだ。
指令管制員は繋ぎだ。現場に行くわけでも、直接命を救えるわけでもない。通報者からブツっと切られる電話、被害者が助かったのかどうかも問い合わせなければ知らされることはないという描写から、独特の無力さみたいなものが痛いほど伝わってきた。しかし、確かに指令管制員の誘導は命を繋いでいる。ストーリーの後半では、雪の聴力と想像力が子供の命を救う。
これまでにない音による伏線
異臭騒ぎが起きた商業施設で、同じような異臭騒ぎ、エレベーターでの閉じ込め、防火扉の誤作動、小規模な火事が発生する。雪は、商業施設に訪れたときに出会った少女・莉乃からの通報を受ける。
雪は、優しい声で莉乃を落ち着かせつつ、状況を聞き出していくが、物音がしたあと莉乃との電話は切れてしまう。消防隊員が現場に向かうものの、莉乃の姿はない。雪は、莉乃との電話の録音を聞き直し、「ピコンピコン」という音、「チャリチャリ」という可愛らしい鈴の音に耳をすませ、想像する。雪は、一度目に商業施設に訪れた時に見たお掃除ロボットの「ピコンピコン」という音、莉乃がカバンに付けていた「チャリチャリ」という鈴の音を思い出す。
このお掃除ロボットと莉乃のカバンについた鈴は、どちらも印象的に映し出されていたもので、分かりやすく明示された伏線だった。しかし、音として回収されるのは、このドラマならではと言えるだろう。通信指令センターという舞台、雪の聴力という特技が組み合わさって、これまでにない伏線回収となっていた。
SNSでも「期待以上の面白さ」「指令管制員の俳優陣がみんなしっかりしていていい」など好評の声が集まっている。これまで描かれることのなかった通信指令センターという舞台、音、声を軸に想像力で人を救うこと、万能すぎない主人公の特技、ドキュメンタリーを思わせる緊迫した空気など、ありそうでなかった確かな面白さを味わえるドラマだ。
ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。X(旧Twitter):@k_ar0202