闇バイトに奪われていく若者たち 社会が育てた都合のいい労働者?
日本社会を大きく揺さぶる「闇バイト」。危うい実態が次々浮かび上がり、若い世代に対する未然防止の啓発活動も行われているが、そもそもなぜそんなことを?と首をかしげる人も多いはず。若者たちを取り巻く社会の空気感にくわしい、ノンフィクション作家で写真家のインベカヲリ★さんに寄稿してもらった。
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3年前くらいからだろうか。仕事で知り合う若者たちが、急に「その理由は3つ。まず1つ目は――」という喋(しゃべ)り方をするようになった。最初は、プロっぽい話し方だなと感心したが、2人、3人と続くうちに「またか」と思うようになり、すぐにテンプレ化した話術であることを理解した。おそらく、どこかのインフルエンサーが「頭のいい人の話し方」などと言って教えているのだろう。なんだかなあと思う一方、気の毒ではある。実際、話の中身より、見栄えを評価する風潮が世の中にはあるからだ。勤勉な彼らは、「話が長い」「効率が悪い」と責められながら、懸命に成長しようとしているだけなのだろう。
一緒にご飯を食べる約束をしていた年下の友人から、前日にキャンセルの連絡がきた。「インベさん、本当すみません。月末に支払いがあるのを見落としていて、明日は無理になりました」。金銭的に厳しいということか。私は、気を遣わせないよう「OK、またいつでも」と軽く返信した。ところが、その夜になってまたLINEが来た。「急遽(きゅうきょ)皿洗いのバイト見つかり、金策できました。明日まだ空いてますか?」
あっという間に稼ぐ 新時代の生き方?
展開の速さに驚いた。どうやらスキマバイトで、あっという間に稼いでしまったらしい。そうか、今はそういう働き方ができるのか。新時代の生き方を見たようで、私は少なからずカルチャーショックを受けた。
発達障害の診断を受けて、とある薬を処方されたという話を、2人の女性から聞いたことがある。その薬を飲むと「性格が変わる」と、彼女たちは言う。
一人は、怖(おそ)ろしいほど真面目に仕事をするようになり、空気を読んでいつもニコニコするようになったため、職場での評価が上がったそうだ。もう一人は、長らく散らかり放題だった部屋を一気に片付けてしまい、同棲(どうせい)中の恋人から褒められたという。だが、彼女たちは首をかしげる。「一体、私は誰なの?」「愛されているのは私じゃなくて薬のほうでしょう?」と。確かに、その薬によって恩恵を受けているのは、当人ではなくまわりのほうだ。他者が理想とする人間になるべく、薬で特性を変えることが推奨される時代であるということだ。
そんな昨今の流れを思い浮かべながら、闇バイトについて考える。実行役として逮捕された若者は、その多くがお金に困っていた。例えば、強盗殺人容疑で逮捕された22歳の青年は、「税金の滞納が数十万円あった」と語り、住居侵入の罪に問われた25歳の元保育士は、詐欺に遭い、多額の借金を背負ったうえで奨学金の返済も重なったという。
彼らにとって最優先事項は、直近の支払いを切り抜けることだ。時間をかけずに高収入バイトを探し、よくわからない仕事でもまずは行ってみる。脅されて、逃げられないとはいえ、強盗や暴力、殺人までもこなしてしまう。犯罪行為すらも、人に雇われるという形で行うのだ。
「組織のコマ」と後悔
ある被告人は裁判で、「組織のコマとなった」と後悔の念を語っていた。しかし、それが特別なことだろうか。たいていの労働者は、会社の指示であれば劣悪な商品でも売るだろう。学校教育だって、従属的な人間を育ててきたはずだ。
闇バイトに引っ掛かる若者を、愚かで倫理観が低いと非難するのはたやすい。しかし、彼らはむしろ、今の社会状況に極めて適応した存在とも言えるのではないか。社会が都合のいい労働者を育て、闇バイトにその人材を奪われていく。そんな側面もあるのではないか。
インベカヲリ★さん略歴
80年生まれ。写真集「理想の猫じゃない」で伊奈信男賞(2018年度)。著書に「家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像」「伴走者は落ち着けない 精神科医斎藤学と治っても通いたい患者たち」「未整理な人類」など。
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