12−2
「やっぱりいいねぇ、この雰囲気は。ここだけ時間がゆっくり流れているようで、ほっとするなぁ」
「そうでござるなぁ。それに加えて、温泉につかれば旅の疲れが癒えるでござるし、宿で出される料理は見た目も味も格別。昔からこの近くを通った時は必ず立ち寄ったものでござる。遠くにあっても年に一度は無性に訪れたくなるのでござるよ」
「……なんか、それ聞いてるとさ。僕まで一気に老けた気分になるんだけど、何でかな?」
「…おかしい。私はまだ若いのに」
現役だけどやや歳高な二人の呟きに、若い二人が苦く返して「これよりユノマチ温泉郷」と書かれた看板をくぐって進む。少し離れた所から、勇者パーティの面々がそうして通った和風の門を懐かしい気持ちを抱いて私は見上げ、視線を下ろした所に立った門番の様相に、心がパアッと浮き立った。
——着物に草履…そして大事な腰に刺さった日本刀…頭上が髷(まげ)でないことだけが残念でなりませんっ…!!
実はわたくし、時代劇モノ大好きだったんですよね〜♪勧善懲悪なアレも良いけど、お江戸の町の義理人情モノ、心の奥にグッときます。
——でもまぁ、これも…無くは無いっすね。洋風な人達が着物に草履に日本刀って、なんか不思議で面白い!
と、言う事は、ですよ、お嬢さん。
これなら勇者様とかが日本刀を持っててもあんま違和感無いのかも!!で。
そのまま着物を着せたりして日本刀を持たせたら………ヤバい。それはカッコイイ。カッコ良すぎてホレてまう。はっ。そもそも惚れているのに、これ以上惚れてしまったら…ものすごく大変なことにならないか?世の中が壊れる的な。いや、その前に私が壊れるか。勇者様がカッコ良すぎて。……ん?てことは結果的、壊れるのは私の中の世の中で…他は殆ど影響とか無く済むのかな?損失わたし一人だし?ある意味平和?万歳ウホホ?
な妄想を広げるくらい浮き立った私の足は、彼らに続き少し遅れて温泉郷の土を踏む。
有名な観光地だけあって一歩町に入ったら空気がまるっと変化して、さらに上がった私の心はいつも通りの“お迎え儀式”を通常よりやや下目な気分———つまり、余り気にしない方向で見送った。
東の勇者パーティはこの町で、一人ひとりが牛車(ぎっしゃ)に乗せられ奥の城へと消えて行く。
土産物屋がひしめく門の側の町の景色に、えらく感動しながらも。
——駕篭(かご)じゃなくて牛車の方なんですね…。
なんかちょっと微妙な気分…と、町の景色と現れた乗り物を見比べて、あちらの時代を変な感じに混ぜられた不服感を覚えてしまった私は少し、心の中で突っ込んだ。
しかし。
そんなことより、アレですよ!!
——ユノマチって、まんま“湯の町”のことですよねぇ!?
絶対居たよ。この町に。前の世界の同じ国からのトリッパーさんor転生者さんな人達が!
名前からしてそれなんだから、もしかしたらこの町を起こした人がそうだったのかもしれない、な、すごい期待が涌き起こる。
——うわぁ。うわぁ。探してみたい、その足跡!どこまで文化が根付いているのかものすごく気になりますよ!!
止まる事を知らないワクワクとニヤニヤが、観光地の言葉によってふわふわになる足取りを更に軽いものにする。
取りあえずは宿探し。最悪、寂しい老後のためにと貯めている拾い物系レアアイテムの売却金なんですが…ちょっとだけ切り崩してもいいですよねぇ…?ほんの少しだけ良さげな宿に泊まりたい…とか。思っちゃってもいいですよねぇ…?と、ついでに緩んだ頭のネジがどこかへ飛んだ音がした。
が、こんな時くらい許されるハズ!!とネジ探索を放棄して、宿探しをするためにギルドへ寄ろうと考える。
——良い宿情報をゲットです!
とふわふわの足を進めると、見慣れた紋を掲げたギルドの看板がほどなく見えた。じわじわと近づいてくと、なんと冒険者ギルド様、ユノマチ支部の外装は良い感じの町家風。
なにこれステキ!!こだわってる!!!とさらに上がったテンションは、内部におわした受付嬢の町娘風着物姿に限界突破な洗礼を受けたのだった。
自分でも恐ろしいと感じるほどの興奮は、そのまま普通に第三の目とかを開けちゃうような思いを抱かせるので、こらえろ私!そこを越えたらたぶんこの世は生き難くなりますよ!と、内心必死にクールダウンを促して。深呼吸を五回ほど行った後、ようやくいつもの行動に出る。
——まずい…これはまずいです。こんなのを見てしまったら、うっかり定住したくなりますってば…!
依頼掲示板を流し見しつつ、視界の端にて髪型も完璧な受付嬢らを相当意識していたら、見ず知らずの冒険者さまにぶつかること2回ほど。すみません、ごめんなさい、と謝罪の言葉を返していたら、この状態で掲示板とか難易度高過ぎたんじゃね?な気付きがあって、「仕事は無理だ。やめとこう」とさっさと宿を調べに走る。
ちょっとだけでも良い部屋に泊まりたい。
どうせなら個室に露天風呂付き、的な。
そこから町の景色というのを一望とかできたりしたら、もう何も言うこと無し。
そんなお宿はあるかなぁ?それともやっぱり無理かなぁ?とドキドキしながら待ってると、冒険者用観光窓口の着物美人が「値が張りますが…この辺りのお宿でしょうか」と三件ばかり紹介してくた。
あったよ!しかもお値段が「まぁいいかなぁ?」な範囲内!!お部屋のオススメ紹介文がいかにも新婚旅行向けな雰囲気でちょっとアレだが…部屋に入ってしまったらたぶん隣は気にならない。はず。
——ほら、ソロルくんがやってたみたいに魔法でちょちょっと。防音とかできそうですし。
不安要素はあるものの期待の方が高い私は、ささっと名前を書き写し簡単な位置情報を聞き出すと、お礼を言ってギルドを出発し一件ずつ様子を伺った。
まぁやっぱり景色の点で三件ともに奥まった場所——因にこの町、山を背にして作られてるので入り口から上り坂な感じです——に建ってたり、個室露天風呂付きの条件によりいかにも高級旅館な佇まいをみせてたり、と度胸とかを試される雰囲気があったけど。
幸い、いずれの旅館にも部屋の空きがあったので、一番良いなと思った宿に無事に部屋を確保した。
そして案内された後、部屋散策もほどほどに。
前人の足跡探しに、私は軽い足取りで町の方に繰り出したのだ。