欧州新車アセスメントプログラム「Euro NCAP」は、イーロン・マスク率いるテスラ「サイバートラック」の測定や検査、衝突試験などをまだ実施していない。つまり、欧州の歩行者がこの奇抜なクルマに衝突した場合、無事でいられるかどうかはまだテストされていないのだ。それでもサイバートラックはすでに、各種試験で低い評価を得る可能性が高いと見られている。
「クルマの外観だけを見ても、このクルマが歩行者にとって脅威となりそうな部分がいくつかあります」。Euro NCAPの戦略開発ディレクターであるマシュー・エイブリーはこう語る。「Euro NCAPで不合格になることはありません。でも、低評価を受けることはあります」
Euro NCAPの試験を受けることは、法律で義務づけられていない。しかし、スコアが低いということは単に不名誉なことであるばかりか、消費者に嫌悪感を与えることにもなる。特に安全性を軽視したクルマを買いたくないと考えている人にとっては、なおのことだ。
欧州の安全性評価は米国より厳格
Euro NCAPは1997年に導入された評価プログラムだ。どのクルマに致命的な危険性があり、どのクルマが衝突時に適切な場所で変形して乗員を保護するのか、利用者保護の観点から公平なアドバイスを提供している。また、歩行者保護の視点からも検証をしている。
米国では最近まで、歩行者をクルマから守ることについて、ほとんど重点が置かれていなかった。しかし今月初め、米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)は衝突時の歩行者の頭部損傷のリスクを軽減するための初の規則を発表した。
欧州の規制は米国より厳格だ。そのため車両の内外において、より安全なクルマであることが求められる。衝突時の車両の安全性を検証するためにつくられたEuro NCAPは、厳密な独立試験、客観的な事実、そして分かりやすい五つ星評価システムによって、自動車メーカーの安全性主張を検証している。
したがって欧州では、4つ星や5つ星以外の評価を得たクルマを販売することは難しい。とはいえ、星がゼロの車でも販売できるし、購入することもまったく合法的に可能だ。例えば、ルノー傘下のダチアの電気自動車(EV)である「スプリング」は、米国で販売されるとすると、19,000ドル(約285万円)という魅力的な価格になる。しかし、その低価格が車両の安全性に影響し、Euro NCAPの評価はひとつ星に甘んじている。
とはいえ、安全性評価が低く、車外の人々に対して『マッドマックス』さながらの致命的な危険をもたらしかねないと知りながら、そのクルマを購入する特殊な顧客もいるのかもしれない。サイバートラックを購入しようとする人々は、そういった顧客なのだろうか?
歩行者への危険性を公開書簡で訴え
これまで、少なくとも1台のサイバートラックが、欧州連合(EU)加盟国であるチェコ共和国の都市を走行しているのが目撃されている。交通関連NGOは、開発過程に問題を抱え、物議を醸しているマスクのEVについて、大きすぎて鋭い部分が多すぎることから、欧州の道路での走行を認めるべきではないと警告している。
「EU内でサイバートラックを認証して登録することは、ほかのすべての道路利用者に違法なリスクをもたらします」と、NGOの代表らは、欧州委員会および欧州各国の自動車当局に宛てた公開書簡で主張している。
「EU域内で現在までに登録された少数のサイバートラックについては、登録を抹消し、関係加盟国はそれらの車両が公道から撤去されたことを確認する必要がある」。欧州交通安全評議会、国際歩行者連盟、欧州自転車連盟をはじめとする団体のリーダーらが署名した書簡にはこうある。
「現在、かなり巨大なピックアップトラックの輸入が増えていて、わたしたちの街にも危険をもたらしています」。書簡に署名をした環境団体、トランスポート&エンバイロメント(T&E)のジェームズ・ニックスは警告した。書簡では、米国の消費者擁護非営利団体である自動車安全センターによる、このEVの歩行者への危険性を「誘導ミサイル」に例えた見解も引用されている。
鋭いエッジにゴム縁を施す
EUの自動車指令では、鋭いエッジを車体に採用することを禁止している。チェコ共和国に輸入されたサイバートラックには、鋭いエッジを緩和するために、(剥がれ落ちないかどうか)心配になるほど細いゴムパッドが装着されている。この改造について、公開書簡では次のような指摘がなされている。
「チェコ当局は、7月初旬に認証されたサイバートラックの登録手続きをする際、極細のゴム製スラットを後付けするよう要求しました。しかし、このような後付け作業をしても、そもそも鋭いエッジを禁止するEUの規則を満たすことにはなりません」
自動車番組『トップ・ギア』や『グランド・ツアー』のプレゼンターとして知られるジェームズ・メイは、最新のYouTubeのレビュー動画で、サイバートラックの鋭いエッジを公然と批判している。試乗したEVのフロントコーナーを指さながら、こう語っている。「ここを見てください。あんなクルマに轢かれたくないですね。どのクルマにもぶつかりたくはないけれど、特にこのクルマだけは避けたい。普通こんな風にクルマのフロントにエッジなんてないでしょう」
EUの自動車指令では、満車時の重量が3.5トンを超える車両にはスピードリミッターを義務付けている。テスラの取扱説明書には、スチール車の車両総重量は4トンと記載されている。
「(サイバートラックは)欧州向けに設計されたものではないので、テストはしないでしょう」とEuro NCAPのエイブリーは語る。さらに、サイバートラックがEUの型式認証(EU type approval)を得ていない。これも障壁になっているという。
EU型式認証制度とは、新車が市場に出る前にプロトタイプを使って、そのクルマが欧州委員会の自動車指令で定められた所定の性能基準を満たしていることを確認する制度である。
輸入車は、標準的な型式認証よりも審査が緩い「個別車両認証」(individual vehicle approval)による登録が可能だ。加盟国の認証当局は、販売前の自動車を検査する責任を負っているが、輸入車に何らかの代替要件を課す個別認証の場合、EU規則から逸脱できる余地がある。
軽量車両として登録
今回の公開書簡によると、サイバートラックの所有者である輸入業者が、このクルマをEU法の下で「軽量車両」(light-duty vehicle)として分類しようとしたと交通関連NGOが指摘している。
同書簡はチェコの運輸省に対し、サイバートラックの最大重量を無視し、半トンほど少ない数値を採用して、EUの軽量車両の重量制限に都合よく一致させることを許可しようとした法的根拠を示すように求めている。サイバートラックの最大重量は、メーカーにより申告され、車両識別番号(VIN)プレートにも刻印されている。
「もし型式認証を回避できる大量の個人輸入車などが出回ってしまうのであれば、1回限りでも(サイバートラックのテストを)検討すべきかもしれません」とEuro NCAPのエイブリーは語る。「クルマが“歩行者に優しい”ものになるためには、エネルギーを吸収する構造と調和のとれたフロントエンドが必要です。つまり、バンパーステップのような突起物がなく、基本的に平らな形状でなければなりません」
エイブリーは続ける。「わたしたち(Euro NCAP)は、人体を模した頭部と脚部の形状を使って車両をテストします。これらを、危害を及ぼす可能性が高いとわかっている車体の主要部分に当てていきます。例えば、下肢を想定した形状をバンパー部分に当てるのです」
「(サイバートラックの)サイドステップは衝撃を受けて曲がることで、歩行者にけがをさせる可能性があります。また、脚の上部の衝突試験ではボンネットの端部に当てて検証します。この部分も突起がなく、エネルギーを吸収する構造であることが求められます。しかし、極端に角ばったエッジと、ステンレス鋼の全体的な硬さを見ると、この要件を満たせないことは明らかです」
「サイバートラックのボンネットにもたわみ(変形性能)が必要です。また、Euro NCAPの歩行者保護性能評価で高評価を得るためには、突起物があってはならないのですが、サイバートラックの大きなワイパーとその取り付け部分は危険要素となります」とエイブリーは指摘する。
交通関連NGOによると、サイバートラックの改造車は、7月にチェコ共和国で同国の個別車両認証によって登録された。チェコ運輸省によると、サイバートラックが登録された「N1カテゴリー」に属する(最大重量が3.5トン以下の軽商用車)はすべて、18年以降のEU規制の計算式から重量比を算出しているという。しかし、同省が提供した車両データによると、4人が乗車した場合のサイバートラックは、この計算式を満たしていないことがわかった。
欧州でサイバートラックを合法的に運転するためには、「カテゴリーC」の免許が必要なはずだ。これは車両総重量(GVWR)が3.5トンを超える車両を運転するためのトラック免許だ。
EU全域への波及を懸念
テスラのサイバートラックを輸入して所有しているCybertruck.czの共同創業者であるノートン・スロバックは、車両重量と規制の不一致を認識しているものの、「これらの計算は、チェコ当局による規制の適用や解釈を完全には反映していない可能性があります」と『The Guardian』に語っている。
一方、チェコ運輸省は、重量計算の食い違いを問題視していない。なぜなら、今回の登録は「チェコ共和国領域内でのみ、国内(での走行を基準にして)車両を個別に認証」したものであり、EU全体に対する型式認証ではないからだという。
しかし、サイバートラックの所有者たちが広告キャンペーン用に貸し出している車両は、すでにスロバキアを含むチェコ以外のEU加盟国にも乗り入れている。Instagramの投稿では、ブラチスラバ近郊の湖でサイバートラックの(水中走行を支援する)「ウェイド・モード」機能をテストしている様子を見ることができる。計画通りに走行できずに、全地形対応EVは、水中で立ち往生している。結局、通行人に水から引き揚げてもらって、車輪の下に板を置いてもらうはめになってしまった。
テスラやノートン・スロバック、そしてチェコ共和国運輸省に、本記事向けのコメントを得るために連絡したが、いずれからも回答は得られなかった。
交通関連NGOらは公開書簡のなかで、欧州委員会が行動を起こさなければ、このゴム縁付きのサイバートラック1台の輸入が『欧州へのサイバートラックの大量輸入』につながりかねないと主張している。それは歩行者やサイクリスト、そして同様の装甲を施していない車両の運転者にとって危険であることが判明するだろうと指摘している。この見解にEuro NCAPも同意を示しているようだ。
(Originally published on wired.com, translated by Miki Anzai, edited by Mamiko Nakano)
※『WIRED』によるテスラの関連記事はこちら。電気自動車(EV)の関連記事はこちら。
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