原発推進に大転換 「エネルギー基本計画」Q&A10
1:40年度の電源構成はどうなる?
40年度の国内の発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合を4〜5割へと引き上げ、初めて火力発電を上回る最大の電源とする。第6次計画では再エネは30年度に「36〜38%程度を見込む」としていた。原子力は第6次計画で30年度に「20〜22%」としていた割合を維持、40年度も2割とする。23年度実績は再エネが22.9%、原子力が8.5%だった。再エネ・原子力とも40年度に向けて大幅な拡大が必要となる。
2:第7次エネルギー基本計画のポイントは?
電力需要が増える前提で作られ、エネルギー安全保障を重視している点だ。
生成AI(人工知能)やデータセンター(DC)需要の増加により、電力需要は拡大すると見る。原案では、40年の発電電力量は1.1兆〜1.2兆キロワット時とし、22年度実績より1〜2割増えるとした。エネ基で発電量の想定が増えるのは約20年ぶりとなる。
全体としてエネルギー安全保障を重視するのは、22年に起きたウクライナ侵略によって現状のエネルギー政策における安全保障上の課題が浮き彫りになったからだ。液化天然ガス(LNG)のかつてない高騰により電力会社が打撃を受け、発電燃料を輸入に依存することへの懸念が高まっている。第7次エネ基では、わずか3年の間に日本を取り巻くエネルギー情勢が大きく変化したことにも言及しており、電力中央研究所の田頭直人・社会経済研究所長は「(エネルギー安全保障は)これまでも重要な要素ではあったが、明らかにトーンが変わった」と話す。
「原発への依存度低減」を削除
3:原発政策はどうなる?
原子力については、福島事故後から第6次計画まであった「可能な限り依存度を低減する」との文言を削除し、脱原発を目指してきた従来方針から大きく転換する。「再エネ、原子力などエネルギー安全保障に寄与し、脱炭素効果の高い電源を最大限活用することにより、エネルギー自給率を向上させる必要」があるとし、経済安全保障の観点から脱炭素電源の活用を進める。
原発に対する捉え方の変化も見て取れる。「再エネか原子力かといった二項対立的な議論ではなく、脱炭素電源を最大限活用すべき」だとして、世間で対立軸として語られがちな2つのエネルギーを共に推進していく考えも明確にした。
40年度の電源構成のうち約2割を占める目標を掲げた原子力は、目標達成のために再稼働や新増設が不可欠となる。既存の原発を最大限活用することに加え、原発の建て替えに関しても、同じ電力会社であれば、別の原発の敷地内に建て替えを行うことも可能との考えを示した。
4:なぜ原発政策を転換するのか?
電力需要増加に伴い、安価な脱炭素電源である原発が見直されているからだ。原発は比較的安価に発電でき、安定供給ができるベースロード(基調電源)としての役割が大きい。LNG価格の高騰で火力発電のコストが高まる中、経団連が24年10月に原子力の最大限活用を求める提言を発表するなど、原発活用を求める声は大きくなっている。
米国ではビッグテックを中心に、安価な脱炭素電源を求め、原発に回帰する動きもある。米電力大手コンステレーション・エナジーは24年9月、既に廃炉が決定していたスリーマイル島原発の1号機を再稼働させ、米マイクロソフトのデータセンターに電力供給することを決めた。2号機では1979年に、炉心溶融(メルトダウン)が起きている。米アマゾンや米グーグルは、小型モジュール炉(SMR)を手掛ける新興企業に積極投資を行っている。再エネだけでは賄いきれない電力を、原発で補う考えだ。
5:再エネ拡大のポイントは?
電源構成に占める再エネの割合について、第6次計画では30年度目標として36〜38%としていたが、第7次では40年度目標として4〜5割程度としている。全体のエネルギー需要が増加する見通しであることから、今後15年で再エネの発電量を最低でも2倍程度に増やす必要がある。
再エネは開発が進み国内の適地が減りつつある。次の課題は地域と共生しつつ導入量をどう増やすか、という点だ。新たな立地で発電できる再エネ電源として、ペロブスカイト型太陽電池、浮体式洋上風力発電、次世代型地熱発電などに期待が集まる。
一方で、再エネは気象条件などにより出力が大きく変動するため、主力電源化にあたっては需給に応じて電気を充放電する「調整力」の確保も重要だ。蓄電池、再エネによる水素製造プラント、揚水発電などの活用拡大が急がれる。
6:ペロブスカイト型太陽電池への注力の程度は?
再エネの中でも、薄く折り曲げられ、既存の太陽光パネルが設けられない場所にも設置できるペロブスカイト型太陽電池は日本での研究が先行しており、原材料となるヨウ素が国内で確保できるため、量産できればエネルギー安全保障の観点からも意義がある。
政府はペロブスカイト型太陽電池の国内導入量の想定を40年に20ギガワットとしている。「発電量全体としては決して多い数字ではないものの、産業政策として期待されている」(田頭氏)。ただ目標達成には大規模な投資が不可欠となりそうだ。
7:そもそも、エネルギー基本計画とは何か?
企業や国民に対し、日本のエネルギーに関する政策方針を示すものだ。02年に制定されたエネルギー政策基本法に基づき、少なくとも3年ごとに内容を検討し、閣議決定することが定められている。現行の第6次計画は21年に策定された。
経営判断に大きな影響
8:企業にとってエネ基にはどんな意味があるのか?
エネ基は企業の経営判断に大きな影響を与える。例えばエネ基によって示される電源構成目標は、電力会社などの業界内だけでなく、電気を用いて事業を行うすべての企業に影響する。美浜原子力発電所(福井県美浜町)での新増設の可能性が注目されている関西電力は24年12月17日、「我が国のエネルギー政策の強い決意が示されており、大変意義あるものと受け止めている」とコメントした。また、電源ごとの発電所の導入目標などは、金融機関の投資判断も左右する。
9:脱炭素化はどう進めるか?
第7次エネ基では、脱炭素化はあくまで日本経済の成長が前提との考えに立ち、「脱炭素電源の確保ができなかったために、日本経済が成長機会を失うことは決してあってはならない」としている。
資材高騰などの観点から世界的に脱炭素化を進めることが困難になってきている。欧州はそうした壁に直面しており、特に全原発を停止したドイツ経済の停滞は著しい。電気代が高騰し、独企業が国内投資の規模を縮小。第7次エネ基では事業成長やコスト低減を目指しながら、経済性の観点からも現実的な脱炭素化を推進する。
10:正式な第7次エネ基はいつ公表される?
経済産業省は24年12月17日、「第7次エネルギー基本計画」の原案を公表した。日本はパリ協定の下で、35年の温暖化ガス削減目標(13年比)を提出する必要があり、それまでにエネ基を閣議決定する。
(日経ビジネス 佐々木大智、馬塲貴子、中山玲子)
[日経ビジネス電子版 2024年12月18日付の記事を再構成]
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