名指しで「騒動の主犯格」 SNS誹謗中傷の実態、兵庫県議の証言

滝坪潤一 鬼原民幸
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 兵庫県の斎藤元彦知事らが内部告発された問題を調査してきた丸尾牧県議(60)は、18日に死亡した竹内英明・前県議(50)と同じく昨年11月の知事選中から、虚偽の内容を含むSNSでの誹謗(ひぼう)中傷にさらされてきた。告発文書問題の「騒動の主犯格」などと名指しされた動画などもあるという。実態はどのようなものなのか聞いた。

     ◇

 県議会の調査特別委員会(百条委員会)の委員として真相解明をやり切ろうと努力してきたつもりです。不正行為をしたとか犯罪をしたとかではないのに、それが攻撃の対象になった。残念としか言いようがありません。

 私も竹内さんも、(約6700人の県職員から回答のあった)アンケートで出た疑惑を確認するために内容に言及しただけなのに、「捏造(ねつぞう)だ」と流布された。「告発文書の作成に関わった」とする動画も拡散された。明らかに虚偽です。

 そうした虚偽の内容を含む動画が出て、「どこまでおもちゃにされるんや」と思いました。ユーチューブの運営会社に虚偽を含む動画の削除請求と発信者情報の開示請求をしましたが、対策を取ろうと思えば、見ざるを得ないんですよね。しんどい作業ですが、やるべきことはやっておかないといけないと思いますから。それでも次々と切り取り動画が出てくる。

 削除請求と開示請求は25件しましたが、削除されたのは5件ぐらい。約20件は開示に応じなくて裁判に移っています。虚偽を含む動画投稿は、やったもん勝ちの世界ですよ。裁判になって時間がかかるうちに再生回数は回り切って、動画作成者は収益を得ているわけです。そしてまた新たな動画を作成する。

 知事選の期間中は電話もメールも批判の声ばかりで、ひとりぼっちでした。1日30件ぐらい着信があって、5件ほどは「死んでまえ。ボケ、アホ」などと留守電に言葉が残っていた。今は1日2~3件ぐらいです。昨年の12月初旬くらいからは応援の電話やメールが増えてきて、救われました。

 竹内さんは友人に、「SNSは見ないようにしていても、支援者から『これは事実か』と確認されるのがつらかった」と話していたそうですが、次々に問いかけされるのもしんどいですよ。私の場合も、応援してくれていた人がいつの間にか、私を「デマ」と断じる切り抜き動画をSNSに投稿していたことがありました。

 竹内さんは知事選直後に県議を辞職された。その後、開示請求を一緒にやらないか、と声をかけたけど、「もういいですわ。しんどいから何もしませんわ」と言われました。しんどい状況が続き、闘う意欲が湧かなくなったのだと感じました。

 自分に向けられた個別具体的な誹謗中傷は、自分が説明してもなかなか納得してもらえない。説明してもネット上で「あれはどうなの?」「これはどうなの?」と問い詰められ、動画もどんどん拡散していく。これが繰り返されるなら口をつぐむしかない状態に追い込まれてしまう。攻撃することが目的の人もいるので、いくら説明しても理解はしてもらえない。個人が要請したらファクトチェックをしてもらえる第三者機関があればいいのですが。

 最初に発信した人だけでなく、リポスト(再投稿)により拡散させた人も責任を負うべきです。誰かの批判をする内容だったら、一次情報を確認するなど慎重に対応してほしいです。

SNSでの誹謗中傷は名誉毀損罪や侮辱罪になりうる

ネット上の誹謗中傷に詳しい清水陽平弁護士の話

 SNS上で誹謗中傷をした場合、刑法上は一般論として名誉毀損(きそん)罪か侮辱罪の対象となり得る。同一人物が同一の対象に繰り返した場合は業務妨害罪なども考えられる。

 亡くなった人に対しても、虚偽の内容で誹謗中傷した場合は名誉毀損罪が認められる場合がある。これらの行為は、民法上も不法行為として認められれば、損害賠償を支払わなければならない。

 リポストや切り取り動画の拡散も同じ。単に拡散目的でリポストなどをしている場合は、自分の投稿と同様の責任を負うと考えるのが一般的だ。誹謗中傷と論評や批評の線引きは難しいが、人格を否定する言葉は権利侵害になりやすいし、虚偽の内容は名誉毀損になりやすいと言える。

 最近はインフルエンサーが真偽不明の情報を拡散する時代になっている。もっともらしく拡散されるため、それが真実だろうと思ってしまう人がいる。発信者が有名人かどうかと、その情報が正しいかどうかはまったく別の話だ。情報が本当に正しいのか、もしうそだった場合、拡散した自分は責任追及されてしまわないだろうか、と立ち止まって考えてほしい。

 被害を受けた場合は、まずはいったんSNSから離れること。被害を受けると、ネット上の声が世界中の声だと思ってしまいがち。でもそうではない。自分の周りの人に話を聞いてもらえば、味方になってくれる人はいるはずだ。

 法的なアクションを起こしたいと思えば、弁護士や警察に相談するほか、法務省のインターネット人権相談などに問い合わせる方法もある。

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この記事を書いた人
鬼原民幸
大阪社会部|社会サブキャップ
専門・関心分野
国内政治、外交安全保障、社会保障政策
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    江川紹子
    (ジャーナリスト・神奈川大学特任教授)
    2025年1月21日19時21分 投稿
    【提案】

     問題は、ユーチューブを運営するグーグルやX社などSNS運営会社が、虚偽情報による誹謗中傷やヘイトスピーチへの対応が鈍いことだ。削除要請をしてもなかなか削除されず、裁判をするにも時間がかかり、記事の中で丸尾県議が言うような「やったもん勝ちの

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