元兵庫県議会議員の竹内英明氏(50)は、18日に姫路市の自宅から救急搬送され、その後死亡が確認されました。
捜査関係者によりますと、自殺とみられています。
元議員は、斎藤知事がパワハラの疑いなどで告発された問題を調査する百条委員会の委員を務めていましたが、去年11月の知事選挙のあと、インターネット上でのひぼう中傷などを理由に議員辞職しました。
亡くなった後の19日、政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏は自身のユーチューブのチャンネルで「竹内氏は県警から任意の事情聴取を受けていた。近く逮捕される予定だった」などと発言する動画を投稿しました。
この動画は現在は見られなくなっていますが、SNS上では同じような情報が拡散されました。
元県議死亡“逮捕予定は事実無根”県警本部長 N党立花氏が謝罪
兵庫県の斎藤知事がパワハラの疑いなどで告発された問題を調査する百条委員会の委員を務めていた元県議会議員が亡くなった後、SNS上では「元議員は逮捕される予定だった」などという情報が拡散されました。
兵庫県警察本部の村井本部長は「全くの事実無根だ」と述べ、拡散されている情報を明確に否定しました。
また、「NHKから国民を守る党」の立花氏は「私が言ったことは事実ではなかった。謝罪したい」と述べました。
こうした中、20日に開かれた県議会の警察常任委員会では、議員から「近く逮捕される」といった情報が事実なのかどうか、質問がありました。
これについて、兵庫県警察本部の村井紀之本部長は「個別案件の捜査で言及することは通常差し控えているが、事案の特殊性をかんがみて私から答弁させていただく」とした上で、「元議員について容疑者として任意の調べをしたことはなく、ましてや逮捕するといったような話は全くない。全くの事実無根だ」と述べ、拡散されている情報を明確に否定しました。
その上で、「明白な虚偽がSNSで拡散されていることについては極めて遺憾だ」と述べました。
N党 立花氏「事実ではなかった 謝罪したい」
政治団体「NHKから国民を守る党」の党首、立花孝志氏はNHKの取材に対し「竹内元議員が亡くなったことは驚いている。県警本部長が否定したので、私が言ったことは事実ではなかった。謝罪したい」と述べました。
斎藤知事 “ひぼう中傷のない社会を目指した取り組みを進める”
斎藤知事は20日午前、県庁で記者団に対し「大変ショックで心からお悔やみを申し上げる。50歳という若さで亡くなったことは、痛恨の極みだ。元議員とはさまざまな県政のテーマで議論を交わし、時には厳しいやりとりもした。深い知識と経験があり尊敬していた」と述べました。
その上で「SNSなどによるひぼう中傷や、人の心を傷つけることはやってはいけない行動で、県民や国民が冷静な使い方をすることが大事だ。県でも条例の制定に向け準備をして、ひぼう中傷のない社会を目指した取り組みを進めていきたい」と述べました。
百条委 奥谷委員長「メンバーもひぼう中傷」
兵庫県議会の百条委員会の委員長を務める奥谷謙一議員はNHKの取材に対し「痛恨の極みで、大変つらいというのが率直な思いだ。元議員は百条委員会でも臆することなく、いろいろなことを入念に調べて質問していて、委員長として頼もしく思っていた。委員会のメンバーだったことは感謝しかない」と述べました。
その上で「私をはじめ百条委員会のメンバーもさまざまなひぼう中傷を受けていて、いち早くやめてもらいたい。百条委員会としては、しっかりとこれまでの証人尋問やさまざまな調査に基づいた結果を県民に報告したい」と述べました。
同じ会派の議員「恐怖心を常に持っていたようだ」
亡くなった元議員が所属していた兵庫県議会の立憲民主党などでつくる会派「ひょうご県民連合」の迎山志保議員はNHKの取材に対し「正義感にあふれ、誠実で一生懸命な人だった。あってはならないことで、無念でことばもない」と述べました。
迎山氏は、元議員が議員辞職してからもたびたび連絡を取っていたということで「元議員はひぼう中傷などの動画がインターネット上で再生され、『なぜこんなことを言われなければならないのか。匿名の人だけでなく、顔の見える人にまで本当なのかと責められることがあり、大変なショックだった』というようなことを話していた」と述べました。
そして「SNS上のひぼう中傷や事実ではないことに基づく攻撃に対処できず、不安な状況だったのではないか。『夜中に少し音がしたら本当に怖くて目が覚める』と恐怖心を常に持っていたようだ」と述べました。
元県議に言及する根拠のない投稿が拡散
NHKが、亡くなった元兵庫県議会議員の竹内英明氏に言及するYouTubeの動画について調べたところ、去年11月以降、竹内氏の名前がタイトルに含まれているものは少なくとも120本投稿されていました。
このうち、再生回数が最も多かったのは「県警から事情聴取を受けていて元局長の告発や自殺などに関与している可能性が高い」などといった根拠ない主張が含まれる動画で、150万回近く再生されています。
こうした根拠のない主張を広める動画はほかにも多くあり、確認できただけでも合わせて500万回再生されていました。
動画のコメント欄には「警察に逮捕されなければいけない人」とか、「どんだけ厚顔無恥なん?」、「人間として悪意そのもの」などといった内容の書き込みがみられました。
また、19日、竹内氏の名前と「逮捕」ということばを含むXの投稿数は急増し、分析ツール「Brandwatch」を使って調べたところ、およそ3万件に上っていました。
19日、亡くなったことが伝えられたあと、政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏は、YouTubeに「竹内元県議はあす、兵庫県警に逮捕される予定だったそうです」などとする動画を投稿していて、19日の午後5時ごろの時点でおよそ13万回再生されていました。
また、Xにも「兵庫県警から任意の取り調べを受けていた。こんなことなら逮捕してあげた方がよかったのに」と投稿していて少なくとも400万回閲覧されていました。このYouTubeの動画やXの投稿はその後、見られなくなっています。
しかし、動画を切り抜いた別のアカウントによるXの投稿は残っていて、20日の午後5時の時点で420万回以上見られています。
一方で、Xでは「兵庫県警の捜査関係者は立花氏の発言を否定した」とする新聞社の投稿が320万回以上見られるなど、立花氏の主張を否定する投稿も拡散されていました。
専門家「ひぼう中傷と批判は明確に違う」
SNSのひぼう中傷に詳しい国際大学の山口真一准教授は兵庫県の斎藤知事がパワハラの疑いなどで告発された問題について「インフルエンサーも関わって様々な情報が発信、引用されて情報が加速する中で、大規模な炎上やひぼう中傷が長期間に渡って続いている特徴がある」と指摘しました。
その上で「公人相手に批判するのはもちろんあるが、ひぼう中傷と批判は明確に違う。言動に対しての意見ではなく、個人や家族に対する攻撃はどんな理由があろうとも決してしてはいけない」と話しています。
また、山口准教授が過去に炎上したケースで書き込んだ人を調べたところ、半数以上が「正義感」が動機だったという調査結果を挙げた上で「自分は正しく、相手は間違っていて、相手が悪いんだから攻撃されて当然だというふうに思っていることが多く、個人の正義感から攻撃している。自分が正しいと思ってひぼう中傷をしていることに気付いていない場合が多い。一呼吸置いて内容を見返して欲しい」と呼びかけています。
対策については「匿名の攻撃者の特定が簡単になるなど法律面の対応は進んでいる。プラットフォーム事業者も問題に迅速に対応していかなければならない。利用者自身も民事や刑事で責任を問われることをよく知って適切に利用すべきだ」と話しています。
不安や悩みを抱える人の相談窓口
不安や悩みを抱える人の相談窓口は、厚生労働省のホームページなどで紹介しています。
インターネットで「まもろうよこころ」で検索することもできます。
URLは「https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/」です。
【電話での主な相談窓口】
▽「よりそいホットライン」0120-279-338
岩手県、宮城県、福島県からかける場合は0120-279-226
▽「こころの健康相談統一ダイヤル」0570-064-556