24-6 s_jissou75.jpg 「”オテツダイ”テチィ?」

「ああ。仔実装のお前は仔を産むには体力が足りないから、元気がでる薬を偽石に使うんだ。
胸を切り開いて偽石に直接薬を注ぐ」

「テッ!」

「痛いけど我慢できれば丈夫な仔が産めるぞ。どうする?」


「テェェェ……イタイイタイをガマンするテチ。それをやってほしいテチ!」

「わかった。ティーは立派なママだな。偉いぞ」
そう言うが早いか、「」はティーの実装服を素早く脱がせた。

急な行為に驚くティーに構わず、
「」は胸の中央からやや右の位置にカッターの切っ先を浅く突き刺した。
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「テッチャァァア!!」

ティーは鋭い痛みに、たまらず悲鳴を上げてしまった。
その声を聞き、胎の仔達が激しく動揺する。



どうしたのママ?

誰かがママをいじめてるの?

怖いよ


仔達が不安げに鳴くのを聞いて、ティーは我に返った。

この仔達はもうワタシの声が聞こえる。
チイサイ仔に怖い声を聞かせたら、死んじゃうかもしれない。

「……テッテロチェ~テッテロテェ~…」
ティーは悲鳴を上げる代わりに歌った。

しばらく手を止めて様子を見ていた「」が、ニヤリと笑う。

「続けるぞ」


「テッチェロチェ~」

24-8 「」は突き刺した刃を引いた。
チーズを切る時のような滑らかな抵抗とともに、赤と緑の血が流れる。

「チェゲェェェッツ!……テ、テ、テロテェ~……」
ティーは必死に堪えて、愛しい仔の為に”幸せの歌”を歌う。


鮮血が沸きだす傷口を指で広げ、深さを確認しながら、浅く、少しづつ切り進んでゆく。


偽石を傷つけないように。

そして苦痛を長引かせる為に。


「」は指先に神経を集中させ、初めて自分の手でティーを傷つける感触を楽しんだ。



「テッ!テッ!テェロテェ~…テェェ、テェ、…テロレ~…」

ティーを押さえる「」の左手の中で、小さな体がガクガクと跳ねる。

やがて刃は肋骨に達した。
それまでより、ほんの僅かに力を込めると、プツプツと骨が断たれた。

「テェェェェェッ!!!テ、テッ!テロッ!テロッ!…テエェ、テロレェェ…!」
「」はカッターの背で肉を押し開き中を覗くと、血まみれの肉穴の奥にティーの偽石を見つけた。
素早く用意した活性剤の希釈液を偽石に注ぐと、濃緑色だった偽石が見る間に透明感のあるエメラルドグリーンに変った。
アルミ缶を切ってU字に曲げて作った即席の開胸器を差し込み、傷が閉じたり再生しないようにする。

「これで偽石に栄養が直接送れる。良く頑張ったなあ」

「テ・テェロテェ~…テェッ…テロレ~」
ティーは偽石に直接送られる力の為、痛みがだんだん落ち着いてきた。


「ティー、口を大きく開けて」

ようやく事が終わったと思い、ホッとしていたティーに「」が声をかけた。
「」が口を開けるように言うときは、アメをくれる時だった。


がんばったときの”ゴホウビ”をもらえるのかな?

ティーはそう思った。
歌うのを止め、ワクワクしながら口を開けると、
「」はティーの口に硬く丸めたティッシュを押し込んだ。


「ンッ!?ン~!」

「ティー、実はまだ仔にしてあげられる事があるんだ」

「…?」

「お前は立派なママだから、きっと断らないだろう」
「」はティーにこれからする事を囁いた。

ティーの顔面が蒼白になり汗が滴る。


「…じゃあ、いくよ」
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部屋にくぐもった、長い叫びが響いた。


胎内でその声を聞いた胎児達は気を失い、
一番小さな体の仔は恐怖のあまり、偽嚢を破裂させて死んだ。

24-9





「テヂ…テ…ヂッ…」

「」は痛みと、行われた事のショックで、ガクガクと震えているティーを優しく掴み、
活性剤の満ちたタッパーに、顔だけ出るようにして寝かせた。

そして口から涎と血の付いたティッシュを引っ張り出し、
代わりに氷砂糖を口に押し込んだ。



「ティー、そこまで頑張ったんだ。絶対元気な仔が生まれるよ」
「」はそう言って部屋から出て行った。
25-1

俺は自宅の台所に向かった。



とうとう我慢できずに、やってしまった。

嬉しさに浮かぶ笑顔を隠す事もせず、ティーを傷つけた。



俺はティーの肉を切り裂く感触と、痛みに跳ねる小さな体を思い出した。

目がせわしなく動き、ネオンのように目の色が変っていた。
緑の涙も一杯流していた。

強い痛みを与えられたとき、実装石はあんな風になるんだな。


ティーは俺の気持ちに、少しは気付いただろうか。

庭を横切り縁側から家に上がると、家の中から物音がした。

25-2

足音を忍ばせて音のする台所に向かうと、会社に行っている筈の母さんが居た。

「今日は随分早いんだね。どうかした?」

「ああ、丁度よかったわ。仕事で近くまで来たから寄ったの。明日の夜まで帰れないから、お金置いておくわね」
そう言って母さんは札の入った封筒をテーブルに置いた。


それを見た時、テーブルの上に写真が何枚か置かれてるのに気が付いた。
ちょっとオシャレな服を着た、仔実装の写真だった。

「わかった。忙しそうだね――ところで、これは?」

「それね、うちの会社の仔実装服。母さんが作ったのよ。
ティーが気に入ったのがあれば持ってくるから、見せてあげて」

母さんは以前、服飾会社でパターンナーという仕事をしていた。
5年前にその会社を辞めたが、2ヶ月程前から、ペット用品メーカーの友人の誘いで、
ペット服のデザイナーとして勤める事になった。

最初の頃に母さん作の犬の服を見せてもらったが、実装の服も作っていたとは思わなかった。

「凄くかわいいね。きっと全部欲しがるよ」
写真は正式な広告用の物ではなく、もう少しアバウトに撮ってある。
きっと社内向けのものだろう。

見ているうちにふと、写真の仔実装が全部違う個体だと気が付いた。
実装の顔は同じようなものだが、写真の仔達は前髪の生え際の形が違っていた。

「これ全部違う仔だね。」

「よく分かったわね。そうよ、仔実装は一週間でかなり大きくなっちゃうから、いつまでも同じ仔は借りられないの」

それを聞いて疑問が湧いた。
ティーは家にやってきて3ヶ月程経つが、大きさはほとんど変っていない。

「そのわりに、ティーは大きくならないね」

「ティーは未熟児だったそうだから、元々あまり大きくなれないの。それにね――」

俺は、支度をしながら話す母さんの説明を聞いて、
ティーの大きな望みが最初から叶わない物だった事を知り、笑った。

25-3

「?――じゃあ行くわね。…それ、なあに?」
母さんが俺が持っているものを見て言った。

「チーカマ。あげないよ」

「要らないわよ、口が臭くなっちゃう。じゃあよろしくね」

「わかった。気をつけてね」

玄関の鍵が閉まる音が聞こえた後、
俺は台所でタッパーを出し、それに氷と水を入れた。

少々遅れたが、まだ腐りはしないだろう

俺は手に持った”ティーから切り取ったもの”をビニール袋に入れ、
タッパーの氷水に沈めてフタをし、冷蔵庫の一番奥に仕舞った。

25-4

ティーは「」が部屋を出てから10分後、ようやく痛みと恐怖によるショックから回復した。


「テェーー……テェーーーェェ……」
ティーは無意識に何度も繰り返し鳴いた。
助けを呼ぶ声ではない。
自分が在る事を確認する事で、安心するのだ。


落ち着くとともに、自分の体の状態を把握しはじめる。
口の中がヌルヌルして、甘い。
左の頬の中が突っ張る。

コロ…

舌で探ると「」が押し込んだ氷砂糖があった。

「甘いテチュ…」
コロコロと氷砂糖を舐めていると、舌に小さな異物が纏い付いてくる。
口をすぼめて、手に異物を吐き出してみると、白い粒だった。
痛みを堪え、歯を食いしばった時に折れた、ティーの奥歯だ。

「テェェ……ハがとれちゃったテチィ…」
ティーはそう言って、自分がもっと大きな物を失った事を思い出した。

25-5




足。

今、ティーには両足が無い。


「ティー、お前が食べたご飯は”栄養”っていう元気の元になるんだ。
お腹の仔は、その栄養をお前の体から分けて貰ってるんだよ」
「だから、ティーのお腹以外を取ってしまって、体が必要な栄養が少なくなれば、その分お腹の仔が栄養を沢山貰える」

「お腹の仔を撫でているその”手”は無いと困るだろう。でも、ティーは子供を産むまでここで寝ていていい。動く必要は無い」


「だから、それまで使わない足を取ろうよ」


「」はそう言って、ティーの足の根元を糸できつく縛り、その先を切った。
妊娠期に分泌されるホルモンと、活性剤のお陰でだいぶ痛みは抑えられているが、
足に意識を向けるとガンガンとした痛みを感じた。


「テェ、アンヨが無いんテチ。テェェ…イタイテチィ…イタイ、イタイテチ……テェェェェン…テェェエエン…」


オニイチャンサマがアンヨを取っちゃった
オニイチャンサマにイタイ事された
オニイチャンサマ、ワタシが痛いのに笑ってた。
笑ってアンヨ取った。

ティーは体の一部を失った事と、信じていた「」に酷い事をされたのを思い出して、泣いた。

25-6

「テウック……」
ティーはひとしきり泣いた後、恐る恐る、無くなった部分を見ようとした。

だが、大きなお腹があって足を見ることが出来なかった。
大きなお腹――その中には自分の仔が居て、外の世界へ産まれ出る時の為にどんどん大きく育っている。

ティーはお腹をゆっくりと、何度も撫でた。
外からの刺激で意識を取り戻した仔達が、それに応じるように元気に動き出す。
元気な仔達の存在を体で感じて、ティーは自分の悪い考えを反省した。


「オニイチャンサマはこの仔達の為にイタイイタイをしたんテチ。ワタシがウジチャを助けた時と同じテチ」
「きっと、ティーの仔達が元気になるって、笑って喜んでいたテチ。ワタシは本当にバカテチ…バカジッソウテチ…」

ティーは笑顔を浮かべた。
痛みはあったが、それを上回る喜びに溢れていた。


ティーは歌った。


ワタシの可愛い仔供たち
ワタシは小さいママだけど
どうか元気に育つテチ

フツウの仔にオヤユビちゃん
大きなウジちゃん、小さいウジちゃん
小さい、小さい、ウジちゃんも、もっと小さなウジちゃんも
みんな大事なワタシの仔供
みんな元気に産まれたら
いい事イッパイ待ってるテチ

ゴシュジンサマとボール遊び
イモウトサマはイイニオイ
オニイチャンサマは大きなオテテで優しく撫でてくれるテチ…


母の心地よい歌声を聞いて胎仔達は喜びの声を上げ、保護膜の中で小さな体を躍らせる。

ティーはお腹の中に元気な我が仔の命を感じていると、心に母としての強い気持ちが沸いてくる。

絶対、ちゃんと産んであげる

 「イモウトチャも、がんばったら助けられたテチ」
「今度はオニイチャンサマがそばに居るテチ。きっとだいじょうぶテチ」

「」の言った通りに治療して、妹の命を救えたと、ティーは思い込んでいる。
「」が自ら”元気な仔が生まれる手伝い”をしてくれた今、出産に不安は無かった。

産まれた仔をわが手に抱く、その時を夢見て
ティーは歌い続けた。

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