課題はポートフォリオと人材不足
GPIFの改革始動、127兆円が生まれ変わる
2014/10/23
「この先の日本経済がどうなっていくのか」「世界経済はどのように動いているのか」――経営者にとっても、ビジネスパーソンにとっても、日々の経済動向をウォッチすることが不可欠です。本連載では、竹中平蔵氏が、経済の時事テーマやキーワードについて、鋭くわかりやすく読み解きます。
動きだした”GPIF”改革
日本には、世界最大級のファンドがあります。公的年金を運用する基金です。
正確には「年金積立金管理運用独立行政法人」という名称ですが、一般にはGovernment Pension Investment Fund の頭文字をとって、「GPIF」と呼ばれています。その資金運用の規模は127兆円。まさに世界最大のソブリン・ウエルス・ファンド(国家が運用するファンド)です。
昨年の成長戦略第一弾の際、私が強く主張してはじめてGPIFの改革が議論の俎上にのりました。この時は、専門家の委員会を設けてその在り方を検討するという内容だったのですが、伊藤隆敏東大教授を座長とする有識者会議は、昨年11月に前向きな報告書を出しています。
そして今年1月のダボス会議の基調講演で、安倍総理がGPIFの改革を行なうことを明示的に主張。先の内閣改造では、この基金を担当する厚生労働大臣に塩崎恭久氏を指名しました。いうまでもなく塩崎氏は、もっとも政策に精通し、かつ改革志向の強い国会議員です。ちなみに、伊藤教授は私の大学時代の同級生、塩崎大臣は留学時代の同級生で、不思議な縁を感じます。
さて、GPIFの最大の課題は何だったのでしょうか。
第一は、資産運用があまりに国債中心で、硬直的だったことです。
従来から、この巨額資産に関しては、運用の目安が決められていました。それによると、国内債券(国債など)60%、国内株12%、外国債11%、外国株12%などとなっていました。短期的な安定性を重視して、国債中心だったのです。
一般に国債は「安全資産」と考えられがちですが、一種類の資産に集中投資することは決して安全ではありません。ポートフォリオの多様化が必要なのです。とりわけ、株式などリスク資産への分散投資が期待されます。
国内株の場合、目安の12%から上下6%分の幅で運用するのが基本ルールになっているのですが、株価の値上がりもあって6月末時点は保有上限ぎりぎりの17%となっていました。
見直されるポートフォリオ
今回の改革で、資産運用のあり方は大きく見直されます。国債の比率は60%から40%台に下げられる一方で、国内株式での運用比率の目安は、12%から20%台半ばに大幅に引き上げる方向です。
仮に株の運用比率が25%まで高まると、約8兆円の株買いが発生する計算になります。上限ぎりぎりまで活用すれば、国内株を最大30%程度保有することも可能です。国内株とともに、外国債券と外国株式の比率も、合計23%から30%程度まで引き上げられます。
GPIFのもう一つの問題は、組織のガバナンスにあります。実は、このような国家のファンドは海外でも事例がありますが、それらと比べて日本のGPIFの仕組みは大きく見劣りするのです。
日本と比べ約3分の1の規模のシンガポールの基金が有名ですが、そこには1200名の専門家が働いています。資産運用は、極めて高い能力を必要とされる仕事です。しかしその3倍の規模の日本のGPIFには、70数名の職員しかいません。そして、専門家と言える人達の集団とはなっていないのです。
さらに言えば、理事会などで組織的に意思決定するという仕組み、まさにガバナンスが確立されていないのです。政府の成長戦略におけるGPIF改革は、いまだガバナンスについては十分踏み込んでいませんでした。しかし『日本経済新聞』(10月18日付)は、組織の法律改正案を、来年の通常国会に提出する方針を固めた、と報じています。これは、塩崎厚生労働大臣の英断です。
GPIFが変われば、日本の資産市場は大きく活性化するでしょう。同時に、よい大臣が就任すれば改革は進展する……。この事実を、是非見せてほしいと思います。
<今週の経済ニュースの要旨>
「公的年金、国内株運用20%台半ばに 大幅上げへ調整」『日本経済新聞』2014年10月18日付(朝刊第1面)
約130兆円の公的年金を保有する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は17日、国内株式での運用比率の目安を12%から20%台半ばに大幅に引き上げる方向で調整に入り、今月下旬にも運用方針を話し合う運用委員会で決める。麻生太郎財務相との協議を経て塩崎恭久厚生労働相が決定する。
GPIFは運用比率の目安を決めて積立金を運用している。国内株の場合、運用比率の目安を25%まで高めると単純計算で8兆円の株買いが発生する。外国債券と外国株式の比率も合計30%程度まで高める一方、国債の比率は40%台に下げる方向だ。
GPIFは金融の専門家が少なく、リスク管理体制の整備が遅れている。政府は運用見直しだけでなく、GPIFの組織改革案を年内に固め、来年の通常国会に関連法の改正案を提出する模様。
※本連載は毎週木曜日に更新する予定です