灯火の星 〜The One Story of Ours〜 作:蘭沙
天高くに悠然と佇むは、光の化身キーラ。その元には、キーラによって創りだされた作り物の世界が広がっていた。奴が支配下に置いた世界の一部分を模倣し、繋ぎ合わせたパッチワークの世界。
空には雲の流れる天空の国、その同高度に、星の広がる銀河の海。そこには、まるで島のように点在する、お月様よりずっと大きく見える惑星。
火山、雪山、と地形も気候もバラバラなこの世界に命ある者は存在しない。
たった一人の例外を除けば。
キーラの猛攻から、ただ一人逃れたカービィ。キーラへの革命の萌芽となるファイターだ。但し一つの刃だけで、この世界に君臨する皇帝を玉座から下ろすことは出来まい。今はまだ、刃は研ぎ澄ます時期なのだ。共に刃を振るう仲間を助け、そしていつか必ず、この刃はキーラの首元に届かせる。
カービィがここまで深く考えているかは不明だが、友を助けるという意思、キーラを討つという覚悟はその瞳に見られる。みんながどこにいるかもわからないが、彼は例え地の果てでも探して見つけ出すのだろう。
だからカービィは進む。全員で一緒に帰るのだ、と。強い決意を抱いて進む。
道なりに沿って歩くカービィ。自然の形成は不自然な程に安定しており、細工された世界だ。
「ぽよーい?」
目の前にあるのは、これまた異質な存在であった。雰囲気は先程のオーブに似てはいたが、外見は大きく異なり、人の形を模した物体が浮いていた。その周りにはキーラの翼のようなものが付き従うように存在している。
「ぷゆっ!」
恐らくは先程の、新たな仲間と同じようにキーラの被害者なのだろう。同じように、これに触れればステージにワープし、解放する為の戦いが始まる筈だ。なんの戸惑いもなく、カービィはそれに触れた。
暗闇が払われ、カービィの目に入ったのは、まさしく銀河のようであった。カービィがよく目にする静寂に包まれた宇宙とは違う、作り物のように多く散らばるのは、色とりどりの星だった。一点に集約されたり、暗闇全体に拡散したり。この幻想的な世界は『終点』。大乱闘が始まり、終わる場所。シンプルだが、それ故に戦いやすい世界。
ぐっと気合いを入れ、やる気のこもった目を、相手に向ける。だが、その表情はすぐに消えた。
『…』
「まいおっ!?」
目の前の者は確かに先程戦った者と同じ姿をしていた。しかし、違う。ドドロと同じような存在には見えなかった。だって、全くの違和感がなかったのだ。彼から感じたのは、明らかなマリオの心であった。
それでも、彼は正気ではない。ドドロが持っていたキーラの呪縛と同じように、赤い瞳を持ち、白い、光のオーラを纏っていた。
『…!』
「ぷいっ!」
スライディングをジャンプで回避。空中で二度蹴りを入れるが、上手く避けられてしまう。
一旦後ろに下がり距離をとる。
牽制なのか、撃ってきた『ファイヤーボール』をシールドで守り、掴もうとした手をその場で避け、片足でマリオを蹴り上げる。一つダメージが入ったが、二度目の蹴り上げはジャンプで躱され、二発ほど火の玉に当たってしまう。
「ぷっ… やあ! えぇい!」
マリオから離れ、『ファイナルカッター』。
直接刀身に当たることはないが、斬撃は地を這い、衝撃となってマリオを襲う。怯んだ隙を見逃さず、跳び蹴りを放つが、空中で体制を立て直したマリオに避けられてしまう。
「ぷゅ… ぽ〜っ!」
マリオのパンチと蹴りをシールドで守りながら、カービィはあの時のことを考えていた。
タブーが亜空軍を率い、この世界を手中に収めんとした時の話だ。今程、ファイターも多くなかった時の。マリオと戦う時は、必ずあのスタジアムでのことを思い出すのだ。
砲撃で空の彼方へと飛ばされる様を見るだけしか出来なかった挙句、ピーチがフィギュア化されて、連れ去られてしまった。ワリオを追おうとした時に亜空間爆弾が起動して、観客は諦め、ゼルダ、今のシークを連れて逃げるしかなかった。
思えば、亜空間爆弾の危険性を知っていた上で止めようとしたのだろう。それとも、直感だったのか。聞いたことはないけれど。
能天気で済まされないようなことだとはわかっているのだが、だから騙されたりするのだとわかっているのだが、結局は信じてしまう。疑うなんて出来ないのだ。
あの時、リンクとヨッシーを助け、ピットとともに行動していたマリオと合流した時は、嬉しさもあったのだが、同時に申し訳ないとも思った。もう少し冷静でいられたら、ピーチやネスたちも助けることが出来たのか。ゼルダとはぐれたと気づいたのも相当後であった。
カービィは、終わり良ければ全て良しだの、明日は明日の風が吹くだのをしっかりと体現していた。そう、過程を気にしさえしなければ全てを丸く収めていたのだ。
そのことを指摘されたこともあったが、悪役ぶってても、ちゃんと理由あって行動してたデデデの言えたことではない。
結末というのは、カービィにとって、全てそうであった。そして、この世界に限れば、始まりも同じ。始まりはいつも君だった。自分と同じく、最初からこの世界に呼ばれているマリオと乱闘していた。
ここで彼と戦うのは、必然なのだろう。
亜空軍との戦いだって、火蓋を切ったのはマリオとカービィの乱闘だった。それならば、光の化身を陥とす戦いだって、彼らの乱闘で始まる。
後ろに回避し、一つ跳び蹴りを入れる。
そして、見えないキーラを全力でにらめつけた。
─ぼくとマリオを最初に戦わせた時点で、君の負けは決まってるのだ!
しかし、マリオだって強い。
足払いをジャンプで躱したカービィに合わせ、拳を振り下ろした。
「ぷぃっ!」
『…』
「うわああっ!?」
地面に叩きつけられたカービィは一つバウンド。視界が一転二転して、理解が追い付かないカービィに、マリオの上体を反らして勢いをつけたパンチがまともに入る。
ジャンプ、そして一回転の蹴りと『スーパージャンプパンチ』で追撃される。
カービィはまともに受け、地面に倒れてしまった。
「ぷぃ…」
強い。
今のカービィが知る由もないが、大乱闘やこの世界のルールにすら干渉できるキーラは、スピリットや囚われたファイター達のリミットを解除している。
だが、どうやら元の世界の能力をそのまま使えるようではないらしい。
そこまでしては、フィギュア化のシステムまで停止してしまい、この世界で本当に死んでしまう。スピリットの体となる母体を得られなくなるため、キーラにとっても利にならない。
とどめを刺さんべく、跳び上がって近づいてきたマリオの後ろをとり、『すいこみ』。ごくん、と飲み込んだカービィの頭には赤い帽子を被っていた。カービィの得意技。相手を吸い込んで相手の持つ能力をコピーする、コピー能力だ。
「ぷよっ!」
『…』
軽快な音をたてて、カービィの短い手から火の玉が生み出される。 マリオの『ファイヤーボール』の技を会得した。
だが、それを的確に『スーパーマント』で跳ね返す。そこまではカービィの計算の内であった。跳ね返った火の玉をジャンプでかわし、背後にまわり、マリオを思いっきり蹴ろうとした。
『…!』
「ぷい!?」
しかし、ばさっと布を振るう音が聞こえたかと思うと、カービィの目の前にはマリオではなく崖があった。『スーパーマント』でカービィの体は反転していた。
「ぷいやっ〜!」
大きな隙が出来たところを炎を纏った強烈な一撃をくらってしまい、コピーしたマリオの力は星となって消えていった。
「…ぷ…」
何とか崖に右手が届いた。ステージ上はマリオが出張っているので、崖を掴んだ。
ここまでの激戦でカービィの体はボロボロであった。攻撃を食らった体躯がジンジンと痛む。頭に敗北の二文字がちらつきながらも逆転への道を探っていた時であった。
空を見上げるカービィの視界に、確かに七色の魂が入った。突然のことに状況も忘れて呆気にとられるカービィ。瞬間、体が自分の物ではなくなったかのような浮遊感を感じた後、左手に魂とは違う確かな質量に気づいた。
「ぷゅ…? たあ!」
崖際に寄っていたマリオを、ステージに上がりながら蹴り払う。吹っ飛んだマリオに、カービィは思いっきり左手の物体…『ウニラ』を投げた。
『…がっ!!』
マリオにぶつかりながら大地に立った『ウニラ』の伸びた突起は思いっきりマリオに突き刺さり、彼を吹っ飛ばした。
元の緑溢れる草原に戻ってきたカービィは思わず尻餅をついてしまった。体はボロボロだったし、疲れもしていたが、それ以上に先程起こったことに頭がついていかなかったのだ。そして、カービィの周りでふよふよと浮かぶ魂。
「…ぽーよ?」
もしかして先程助けてくれたのはこの子ではないのだろうか?
舌足らずな言葉では聞くことすら出来ないけれど、カービィはほぼ確信していた。
カービィが気づくと、魂は倒れたマリオの上に移動する。
「ぽ…」
先程とは違い、鈍色のフィギュアは崩れたりしない。疲れた体を引きずり、何とか跳んで台座に触れた。フィギュアが輝きを増す。
「うっ…カービィ…?」
「ぽ…」
マリオが復活した。
その事実を受け止めると、カービィの両目は涙で潤み始める。
「カービィ? どうしたんだ? うわっ」
「ぷりゃあああ…!」
マリオに抱きついて、無事だったことに嬉しくて泣いた。なんとなく状況を理解したマリオは子供をあやすようにカービィを撫でた。
寂しくなった世界でまた会えた。
マリオ「ここまで一緒にいて言葉通じないのも悲しいな…」
カービィ「ぷゆ…」
マリオ「ちょっと絵で説明できるかい?」
カービィ「はーい!」
マリオ「全くわからない… な、ならボディランゲージだ!」
カービィ「ぽうよ、ぽよぽよ!」
マリオ「腕とかないから余計わからない…」
マリオ「次回、『絶対助けなきゃ』」
マリオ「それより重要なことに気づいた…」
カービィ「ぽ?」
マリオ「この方法… 字だけじゃ余計わからないじゃないか!」