灯火の星 〜The One Story of Ours〜 作:蘭沙
一話 始めの一歩
ぼー、と暫く立ち尽くすしかなかった。
あれだけ仲間がいたというのに、今ここにいるのは自分一人なのだ。
「めたないとー!! でででー!!」
親しき者の名前を呼ぶ。
だが、それに答える者はいなかった。
今までだって一人で戦った事はあった。ポップスターを救った時のこと。
でも、形は問わずとも協力してくれた者がいた。安全圏で自分の無事を祈ってくれていた者がいた。
少し前、この世界でも同じ様なことはあった。タブーがファイターの殆どをフィギュアにした時のこと。
でも、何もわからない内だったから実感がなかった。だから何か余計なことを考える前に、一心に前へ進めたのだ。
何もかもが今とは違う。
いくら叫んでも、誰も返事をくれない。小鳥のさえずりすらも聞こえない。寂しく風が草木を揺らすだけ。
命ある者はもう自分だけなのか、と思ってしまう程に、カービィの耳に入る声はなかった。
「ぷぅ…」
そう思ってしまうと、カービィは強烈な孤独感を感じた。何度も銀河の危機を救った英雄であっても、彼の精神は無邪気な子供と大差がない。星を閉じ込めた瞳は途端に涙で潤み始め、耐えきれなくなり、下り坂となった所を走り出す。
「めたぁー! ででぇー!」
ライバルとして、ときに仲間として。一緒に戦ってくれた二人はどこにいるのだろう。
「ま、り、おー!」
この世界に呼ばれてから、今まで一緒に戦ってきた彼の名前を呼ぶ。誰も答えない。
「ふぉっくすー!」
あの時最前線にいた彼は、きっと何も出来ずに倒されたのだろうか。どこかにいてほしい、と期待する。そんなことも無駄だって薄々気づいていた筈なのに。
「しゅる…ぽっ!?」
赤色の足が石につまづき、転んでしまう。
ワンバウンドして、丸い体は転がっていく。
「ぷぃ…」
下り坂が終わって、漸く止まった。
目に涙を浮かべながらゴシゴシと、短い手で土を払う。
「ぽぅ…?」
立ち上がったカービィが視線を少し上に上げると、白いオーブのようなものが浮いているのを見つけた。しかし、それに無機物にある冷たさは感じられなかった。明らかに意思を感じるのだ。
なのに、オーブのような物はまるでこちらを認識したように感じられない。
ここまで相手に気づかれずに近くに寄るのは、たとえそういう意図を持っていてもカービィには不可能だ。できるのはシークやスネークあたりだろうか。
「ぽう… ぷっ!」
まごついていても状況が変わらない。
そう思ったカービィは、背伸びし手を伸ばして、それに触れてみることにした。
「ぽっ!?」
触れた途端、カービィの視界が黒に染まる。
急に地面がなくなり、足はぶらりんと空を蹴る。なのに、落ちていく感覚はなかった。
何処か別の場所に引っ張られるような、そんな感覚だった。
「ぷいっ!」
黒の世界からいきなり違う場所にワープしたカービィは、太陽の日差しが目に入り小さな悲鳴を上げて、目を手で覆った。
ちょっとずつ目が慣れ、手を取り払ったカービィ。見渡した世界は明らかに前の場所とは違う、そしてカービィが何度も見たことがある場所であった。
『とある星』。ファイターの一人、キャプテン・オリマーが遭難した星をイメージして、創造神によって造られたバトルフィールドの一つだった。
ただし、通常のステージとは違い、シンプルで戦い易い『戦場』に近い大地になっていた。
ファイター達に渡されている台座には死を回避するフィギュア化の他にも、その大乱闘に参加する者全員の同意を得て、ステージにワープする力をファイターに与える。
カービィ本人もその力は何度も何度も使用している。だからこそ、思ったのだ。ステージへのワープはここまで禍々しい物であったのか。
「ぽ〜…ぽよっ!?」
カービィの目に入ってきたのは、立派な髭、デニムのオーバーオール。彼は。
「まり…」
『…』
マリオだった。姿形だけは。トレードマークの赤い帽子は黒くなっていたが、そんなレベルの話ではなかった。
創造神がこの世界を作り上げる際に一番始めに呼んだ彼。ファイター達のリーダーとも言える彼は、カービィを視界に入れても再開の言葉一つすら口に出さなかった。なによりカービィを映すその目。キーラの呪縛のかかった赤眼は正気の下のマリオとは思えなかった。
マリオとは思えぬそれはカービィ目掛けて殴りかかってきた。
「ぷい!?」
反射的に後ろに引いて回避するカービィ。
なおも襲ってくる誰かに対して一発回し蹴りを入れ、ジャンプして足場に登る。
『…っ!』
「ぽやっ…!」
体を大の字にしてのスピン。連続して拳が襲い、未だ考えのまとまらないカービィを飛ばす。
「ぷぅ…」
だが、この短い攻防の中でわかったことがある。目の前の彼はマリオではない。姿はマリオだが、違う誰かがマリオの姿で戦っているのだ。
そして、その誰かもキーラによる支配を受けている。このマリオの中にいる誰かが、マリオと同じような人間だったとしても、戸惑いが無いどころか、違う人の体で戦うことによるぎこちなさは払拭できるものではないだろう。
だが、目の前の相手は戦略や戦い方こそ違うものの、マリオの体術を完璧に使いこなしている。
この考察により、カービィは目の前の相手が、自身の意思で戦っているのではないという結論に達した。キーラの支配に抗えず、マリオの体で無理矢理戦っている。目の前の誰かもキーラの被害者なのだ。放って置けない。体の砂を払い、やる気のこもった目を相手に見せつけた。
『…っ!』
「ぷっ… うりゃああ!」
三連続の『ファイアーボール』をシールドで守り、ダッシュ。相手との距離が近くなると、回りながら炎を纏って突撃した。『バーニングアタック』である。まともに食らった相手は吹き飛んだ。が、致命傷にはならず、相手の近くで、体全体を回転させて攻撃する『ティンクルスター』は空中で躱されてしまった。
『…』
「…とおっ!」
先に着地した相手は、カービィの着地隙を狙ってスライディングで攻撃してきた。しかし、この攻撃はカービィにとって想定の範囲内。回避で攻撃を避けながら、上手く相手の背後に回ることが出来た。そして、その背中に思いっきり飛び蹴りを放った。
「ぷっ? ぽよ!?」
ガツンと、カービィの足に違和感のある衝撃が走る。言うなれば壁を蹴ったような硬い感覚。不思議に思って相手の方を見ると、なんと相手の体が金属に覆われていたのだ。木漏れ日に反射し、キラリと輝く金属光沢。
予想外の出来事に、カービィは一瞬体を止めてしまい、隙を突かれ、炎を纏った強力な一撃を食らってしまった。
「ぷぃ…」
丸い体に当たった一撃はとても重い。
傷ついていながらも、ふらつきながら立ち上がるカービィを、相手は待ってくれない。
「ぷぎゃ… うわあああ!」
相手はカービィに組みつき、体を回転しながら真後ろへぶん投げた。遠心力が働き、球体のカービィは大きく飛ばされた。
『…っ!』
宙に浮かんだカービィにとどめを刺すべく、地をジャンプで飛び上がり、カービィ目掛けて握った拳を振り上げる。その時だった。
「はあああ…!」
これを、機と思ったのはカービィも同じだった。空中で体制を立て直したカービィは短い両手に星が刻まれたハンマーを握っていた。
『!』
「とりゃああ!」
グリップを握り、思いっきりハンマーをスイング。攻撃の体制に入っていた相手は、回避に回ることができなかった。
ハンマーに当たった相手は、ステージを挟んで反対側に飛ばされ、光を放った。
一つ瞬きをすると、周りは元居た、作り物の世界に戻っていた。違うのはさっき触ったオーブのような物が消えていたこと。そして、その代わりに、先程まで戦っていた相手が黒いマリオのフィギュアとして横になっていた。
怪しく思い、銅像部分をチョンチョンと触っていると、一瞬にしてフィギュアは溶け、金色の液体のような物になり、消えていった。
そして残ったのは、キーラに体を奪われた者であった。オリマーの不時着した星の原生生物。上手く生まれることが出来なかったとされる者。
「ぽよーい?」
ふわふわとまごつき浮く者。それに、対戦相手であったカービィはそっと手を出した。
本当にこの生物が、カービィの受け取った通りの感情を持っていたか、は不明だ。
でも、彼は、自分と同じ感情を持っていると感じたのだ。
─一緒に来てくれる?
「おいで!」
もうカービィは一人じゃない。
カービィと『ドドロ』。奇妙にして異色なペアが、この物語の始めの一歩だった。
カービィ「ぽよよぱゆゆぽよ… ぷゆいぽよぽよ?(みんなキーラにやられちゃったよ… 誰もいないのかな?)」
カービィ「ぱゆ、ぽよよよい! ぽっゆいぽよよぽよゆよぱーゆ!(でも、負けるもんか! 絶対みんな助けるから待っててね!)」
カービィ「ぽゆい! 『ぱゆやゆゆぱーゆぽよよよ』!(次回! 『始まりはいつだって君だった』!)」
カービィ「ぷぃ…? ぱーゆぽゆ…ぱゆゆいぱっゆぽよよ…?ぽよ、ぽよよぱぷよよ…?(あれ…? こんなこと… 前にもやったような…? でも、卵はないし…?)」