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日本は悪と叩いた米鉄鋼企業CEO発言 アメリカでの反応は?

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
イメージ写真。(写真:イメージマート)

13日、アメリカの記者会見という公の場で「日本は邪悪だ」などと辛辣な言葉を畳み掛け痛烈に批判した米鉄鋼企業クリーブランド-クリフスのCEO、ローレンソ・ゴンサルベス(C. Lourenço Gonçalves)氏。

一般の日本人に敵意はなく、あくまでも日本製鉄や政府に対しての敵対心から出た暴言のようだが、マフィアの親分と表現されたことに腹を立て、それが証明できなければ日鉄のCEOのすべてを奪ってやると脅しのようなことを言ったり、「日本は1945年以来何も学んでいない」など太平洋戦争の話を持ち出したりして関係者を罵った。

筆者が15日に発信した関連記事にも多くの反応があった。アメリカで影響力のあるCEOという立場の人が、公の場であのような不遜な言動を見せたことに、日本の多くの人が心を痛め、感情がかき乱されたことだろう。

このようなジャパンバッシングとも取れる発言を、アメリカはどのように受け止めただろうか。英語の関連記事やSNSで人々のリアクションや感想を探ってみた。

  • 注:公の世論調査結果ではない。またこれらは英語話者による反応であり書き込んでいる人が必ずしもアメリカ人とは限らないが、アメリカのメディアやプラットフォームに基づいた大まかな人々の反応や空気感を紹介できればと思う。

まずこの暴言や問題行動自体を、多くの権威ある名門メディアがこぞって取り上げているわけではない。筆者の周りの友人にも数名聞いてみたが、アメリカで大々的に報じられているわけではないから誰もこのニュース自体を知らなかった。

このニュースを報じたいくつかの米主要メディアはこちら。

  • CNBC

Cleveland-Cliffs CEO attacks Japan as he reiterates interest in acquiring U.S. Steel(クリーブランド-クリフスのCEO、USS買収への関心を改めて表明し日本を攻撃)

  • フォーチュンおよび米ヤフー!ファイナンス

Cleveland-Cliffs CEO blasts ‘evil’ Japan, home of rival Nippon Steel: ‘You did not learn anything since 1945’(クリーブランド-クリフスのCEOがライバルの日鉄の本拠地、日本を「邪悪」「あなた方は1945年以来何も学んでいない」と非難)

これらのメディアでは記者のオピニオン的なものは書かれておらず、事実に基づき淡々と報じられている。

後者の記事は「今や100年以上の歴史を持つUSスチール(USS)を買収する新たな機会を見出しているクリフス社はアメリカの同盟国である日本に対して激しい批判を浴びせた」などと伝えた。

そして興味深いのはコメント欄(米版ヤフコメ)。後者の記事に対して58件のコメントが読者から寄せられている。

ここではいくつかピックアップして紹介する。

米版ヤフコメの反応

競争に負けたアメリカ人が相手が悪であると主張している。

この人はもっと冷静になるべき。CEOが誰かを邪悪と呼んでいることは馬鹿げていて笑える。

(クリフスは)ひどく不誠実。USSの不安定な立場を利用して低価格のオファーを提示し日鉄がクリフスのほぼ2倍の提示額をオファーしたことを受け、今度は不正を訴えているんだから。

もし私がクリフスの株の所有者だったら、このCEOの発言に深く懸念を抱くだろう。

CEOは日鉄と日本全体に敵意を抱いているように見える。彼は歴史教育を受けるべきだと思うのは私だけだろうか?これはビジネスの取引なのであるが、彼はなぜ度を越えた発言をしているのだろうか。果たして彼とクリフスがUSSにどのようなオファーをするだろうか、見てみることにしよう。

(そんなに言うならば)日鉄が支払うと言っている140億ドル*を上回る額で打ち負かせばよいではないか。

  • 報道では「141億ドル(約2兆円)」と言われています。

これだから世界中の多くの人々が我々をますます不快に感じることになるのです。

品がない!!! 日本についてあんなことを言ったのだからこのCEOはUSSから何も受け取る資格はない。こんな人がまだCEOであることが驚き。Xの株主として私はクリフスによる買収にノーと言う…たとえ彼らが1株55ドル以上を提示したとしても。…彼は企業界の恥さらしだ。

この方程式におけるブラジルの貢献は何だったかな?

ねぇお願い。アメリカは第二次大戦後に親切心から日本を助けたのではないんだけど。ソビエトそして今は属国となった中国に対抗するためにアメリカは日本を必要としていた。(中略)もしアメリカと中国/ロシアの間で戦争が勃発したら日本が最初に攻撃を受けるだろう。日本なしではアメリカは完全に無防備になり、真珠湾攻撃2.0を見ることになるだろう。

Xでは主に個人発信の投稿に多くのコメントが上がっている。

Xでの反応

誰だこの男は。完全に狂っている。

クリーブランド(クリフス)は日鉄よりも高い価格を提示すべきだった。USSを安く買うためにCEOは政治力を使って日鉄の購入を台無しにした。

>1945 年から何も学んでいない?

CEOは自分の過去を振り返って(自らのことを言って)いるに違いない。

ブラジル生まれの年配のCEOが言う(絵文字)。

1945年はほぼ100年前。今は2025年。

彼の会社(クリフス)は苦戦していて、施設や設備が古く、USSのアップグレードや成長に投資することはできない。

米ソーシャルニュースサイトのReddit(レディット)でも多くのコメントが寄せられている。

Redditの反応

なんて恥ずかしい。

今まで見た中で最も狂ったものの一つ。

奇妙

アドリブで会見をしていたのでなければ、クリフスの誰かがあのような内容を記者会見で許可したとは到底信じがたい。

この男はブラジル出身だぞ。

これに対してリプライは

カルロス・ゴーンのように!?

(前略)ブラジルはほかの第三世界(開発途上国)と同じくらい腐敗している。(中略)ローレンソ(CEO)はブラジル人そのものだ。怠惰、そして人種差別主義。裏政治で一気にトップに上り詰め、責任を取らずして他人を責めるのが好きな人。(後略)

この天才は日本を悪者にすることで、USSの買収で自社の立場が何とか良くなると考えているようだ。この哀れな怒鳴り声が誰の耳にも響かないことを願う一方で、メディアがくだらないことを喜んで取り上げるので、彼の愚かさと無知が知れ渡ることになる。

ルイジ*よ、どこ?

  • 昨年12月ニューヨークで発生した保険会社CEOの射殺犯

以上が全体の一部ではあるが、筆者が現時点で目にしたネット上の人々のリアクションだ。アメリカ特有のジョークや皮肉的な表現が含まれてはいるが、ゴンサルベスCEOを擁護する人は一人も見当たらなかった。多くのコメントを読んで、大半の人が筆者自身が感じた違和感を同じように抱いたことがわかり、またこのようにたくさんの感想を表明してくれたことに救われる気持ちがした。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

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ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、著名ミュージシャンのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をニューヨークに移す。出版社のシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材し、日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。

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