57 『降参』をします
【side ロック】
「ウソだろ」
全く見えなかった。
最後の一撃、お互いに距離を取って構えた上で尋常ならざる奥義の応酬が見られるであろうと観客のテンションも最高潮になり、息を呑んで見守っていた。
そして、先に動いたのはヴァリスタさんだった。
俺の目にはヴァリスタさんの動きはギリギリ見えた。
腰に構えた剣は恐らく必殺技の『ベルンハルト・ドラッヘ』の最高出力。
距離は離れてても届くような本気の一撃……だったのだろう、と思う。
その振り始めは見えた。
僅かにヴァリスタさんの重心が動いて。
だが、次の瞬間にはサザンカさんに一刀のもとに斬り捨てられていた。
「……イレヴン、アレ見えた?」
「…………いえ…………」
ヴァリスタさんが技を放ち切る前に、サザンカさんの神速の居合が飛び、胴払い一閃。
その身に装備していた高級そうな甲冑に思いっきり横一文字に刃傷が描かれ、一瞬置いて鮮血が舞った。
しかし……ヴァリスタさんは死んでない。レベルの高いヴァリスタさんの体力と鎧の防御力のお陰で一撃死を防いだのだろう。
だがこれは勝負ありだ。膝をついたヴァリスタさんに、驚愕の間を開けてから実況のお姉さんがサザンカさんの勝利を宣言した。
「いや~……切り札の応酬は赤カブトさんに軍配が上がりましたね~。尋常の立ち合いで必勝であった理由……不可視の一閃。アレが放てるならなるほど、ヒノクニで勝ち続けていられたわけですね~」
「ノインさんは気楽に言うけど俺は今絶望してますよ。えぇ……アレ勝てんのか俺ら……? どうするよイレヴン……?」
「……仮に私がアレを避け切れずに受け止めたとしても、稼働停止には至らないと思います。胴を両断されるでしょうが、内臓魔力炉が完全に破壊されなければマスターからの魔力供給で再生できますので」
「両断されちまうんか」
「恐らく。そして両断されたうえでのカウンターに全てを賭けるしかないかと。マスタ―はアレを避けられますか?」
「無理」
「ですよね。であれば、私がアレを何とかできなかった場合、マスターは降参した方がいいですね。アレをマスターが喰らったら死にます。ちなみにマスター、アレを捌き斬りで返せますか?」
「やだ。まずタイミング取るのが絶望的」
「ですよね」
『みゃあ……』
一緒に観戦してたノインさんの気の抜けた感想に突っ込みつつ、俺らは次に当たるであろうサザンカさんへの対策を考えざるを得なくなった。
あの構えから放たれる居合抜き。あれをどうにかして撃たせないようにするか、イレヴンが捌くしか勝利の道はないだろう。
イレヴンはアレを受けて胴をぶった切られても死にはしないとのことだが……俺は死ぬ。絶対死ぬ。
捌き斬りも正直成功させられる気がしない。勘でサザンカさんが抜く瞬間を察しても、捌き切るための攻撃が間に合わないかもしれないし。瞬きより速く捌きタイミングが来るんだから、やると思った瞬間に殺られているだろう。
しかも万が一成功させたら今度はサザンカさんが絶対死ぬ。俺へのオーバーキルダメージを全部サザンカさんの鎧貫通してブチ抜くわけだからな。
あれほどの一撃を前にしたら俺に打つ手はない。どうにもならん。
よし。
「イレヴンがやられたら降参するわ!! そうする!! 大会も大切だけど死にたくねーしな!!」
『みゃ!』
「ん~、私もそれがいいと思います~。命あっての物種で、あの赤カブトさんも決して相手を殺したくて大会に出ている雰囲気でもなさそうですし~。ここまでだって頑張りましたよロックくん~。死んだら私びえんびえんになるから無理はしないでくださいね~」
「そうですね。サザンカがあれ程念を押した意味……ようやく理解に至りました。私が出来る限り戦って、それでダメならよしとしましょう」
方針決定! イレヴンが出来るところまでやってダメなら降参しよ!!
そりゃ俺もサザンカさんに宣言した通りで負ける気はさらさらなかったけどさ。あんな技見せられたら判断も変わるわ。
蜻蛉の構えだけだったらイレヴンの遠距離攻撃もあったし、俺も振り下ろす刃を避けてなんなら大太刀盗んだり視界奪ったりなんて考えてもいたが……あの居合抜き。ありゃムリだ。
冒険者の最も大切な才能は、命を捨てる選択肢をしない事。
命知らずで必ず死ぬと分かってるところに飛び込むのは愚かな者がすることだ。そんで結果がイレヴンとノインさんとサザンカさんと美女三人を泣かせるようなことになるんじゃ最低の男になっちまう。
うん。サザンカさんが強かったです。いいものを見れたと思おう。ヒノクニは魔境であった。
「……お、マルカートさんたち回復班がヴァリスタさん回復し終えたな」
「流石に人気トップの冒険者が負けたから観客席もすごい騒めいてますね~。最後の一撃、誰の目にも映らなかったでしょうからね~。いきなりヴァリスタさんの後ろに赤カブトさんが出てきたように見えたんじゃないですかね~」
「……少々心配ですね。実力による決着であることは間違いないので、サザンカへの謂れなき批判などが無いとよいのですが」
さて試合会場を眺めていれば、試合終了の合図の直後にマルカートさんら回復班が飛び込んできて全力の回復魔法をヴァリスタさんにかけ始めて。
あれだけの人数で一気に回復魔法をかけりゃ流石にあのダメージでもすぐに治るようで。出血も収まり、むくりとヴァリスタさんが体を起こした。
そして周りを見渡して、残心をして刀を鞘に納めたサザンカさんを見て、自分が敗北したことを理解したようで……そして。
「……見事っ!! 完敗だった!! サザンカ殿、貴公の技量には感服した!!」
「……紙一重でござった。ただ、その一重の間に全てを放てる技を持っていた拙者が勝利した。それだけの事でござる」
「それこそが実力!! 良いものを見せてもらった! 味わえた!! 感謝するぞサザンカ殿!! これでまた私は強くなれる! 勝利よりも敗北から学べることの方が多いのだからな!!」
「殊勝よな。貴公こそ、よくぞ命を繋がれた。本気の一撃で死なぬは貴公が初めてのこと」
「抱えているものが多くてね!! これからはしぶとさもセールスポイントにするとしよう!!」
まず一言目に大声でサザンカさんを褒めたたえる言葉をかけるヴァリスタさん。
流石だわ。役者が違うね。
そのまま本心からの微笑みを浮かべてサザンカさんに歩み寄り、彼女の手を取って高々と挙げさせて観客に胸を張って。
「───凄まじい実力を見せつけた女傑に!! どうか皆、祝勝の喝采をッ!!!」
己に打ち勝った勝者を称えてほしいという願いを述べて、次の瞬間には観客席から大歓声がサザンカさんに送られたのだった。
※ ※ ※
「サザンカさん一回戦勝利おめでとうございますっ! すごい必殺技でしたねアレ! その鎧でよくまぁあんな速さで動けますね!?」
『みゃあみゃあ!』
「おめでとうございます、サザンカ。これで準々決勝では私達と相対しますね」
「うむ、有難う。とっておきの技でな、初戦で使うことになるとはよもや思っていなかったが……ヴァリスタ殿ならば受け止めきれるとも感じられた故な。実際勝負は紙一重でござったよ」
勝利したサザンカさんが再び迷いだす前に合流する。
別にサザンカさんが想像以上に強かったからって仲良くしない理由ねぇもんな。俺の女だしな(錯乱)。
試合の前も後もノーサイドで行きたいところだわ。このデカパイ大和撫子と仲が悪くなるのだけはいやだい。
もちろん試合だって最初から捨て試合にするつもりもない。
降参と言う選択肢を取る判断は早めるけど、やれる範囲で全力で立ち向かうさ。イレヴンが(他力本願)。
「それにしてもすさまじい一撃でした。その前の動きもあのヴァリスタと互角に立ち回れるほどの俊敏性……その鎧は見た目よりも軽い造りなのでしょうか?」
「
「なるほどなぁ。その呼吸法って頑張れば覚えられたりしますかね? 魔法が使えない俺でも使えたりする?」
「ううむ、ロック殿が覚えるにせよ一朝一夕ではなぁ。少しでも呼吸を乱せば速度が保てぬでござる……数年単位で修練せねば」
「なるほどつまり数年は一緒に暮らして手取り足取り教えてくれるってわけですねサザンカさんが。嬉しいなぁ」
「都合が良すぎるだろマスターの耳」
「
『みゃあ』
試合についての話で、俺が一番気になってた所をそれとなく聞いてみたら素直に教えてもらえた。
明らかに速過ぎるんだよなサザンカさんの動き。加速魔法を唱えている感じもなかったのに加速魔法使ってるヴァリスタさんに並ぶ速さで動いてたし、最後の一撃もそれこそ見たこともない速さだったし。
あれが素で出せてたら怖すぎるわ……ってなって聞いてみたらやっぱり速さを高める技を使ってたんだって。呼吸でそんなことできるんだ。ヒノクニの技ってすげー。
覚えてみたいなー。どんな呼吸の仕方してるんやろな。
※ ※ ※
さてその後。
俺たちは初日に行われるみんなの初戦を一緒に応援することにした。
サザンカさんの次の試合が知らん人たちの試合で、その次がティオの試合だ。
「がんばってー! ティオねーちゃーん!!」
「加速に加速を重ねろー!! 回れー!!」
「ゴーシュート!! ゴーシュートでいこうぜー!!」
「
「滑るように走るあのティオねーちゃんの動きはなかなか見切れないぞー!」
「あいての人、よせんでも光ったモノはなかったから……きっと勝てる……」
ってなわけで孤児院組と観戦です。
俺の試合の時と違ってティオへの熱い歓声がガキ共からかけられてますね。俺も応援しろよお前ら。
「孤児院の子らは……ロック殿に負けず劣らず溌剌としておられるな。
「わんぱくな子ばかりで毎日大変ですよ。サザンカさん……でしたね。どうかロックには手加減してあげてくださいね、死なない程度でいいので」
「恥ずかしいからやめてシスター! 俺も無理するつもりはないから!」
「うむ、ロック殿の命を摘み取るような事はせぬよ。拙者も恩を受けている身でござるしこの子らにも悪い……拙者ももう心に決めている」
『みゃあ』
孤児院組とは初見のサザンカさんが子供たちにかっけーって褒められて、それでシスターとなんかちょっと大人な話をする中でシスターが俺の身を案じてきて……恥ずいわ!
俺だって死にたくねーしそういう所は俺の責任でやるからさぁ! なんか急に母親が仕事を見に来たみたいな感じでなんか……恥ずかしいじゃん!
照れ隠しでミャウをフードから取り出して顔の前に持ってきて隠そう……としたら猫好きのカシム(8歳・女)がその隙をついて俺の手からミャウを奪っていった。将来有能なシーフになるぞコイツ。
「おー!! ティオねーちゃんがいったー!!」
「相手が斧の一撃で回転を止めようとしたけど無駄だぜー!」
「斧の一撃を食らう前にティオねーちゃんなら8発は斬撃を叩き込むことが可能!」
「あの回転を止めるには速度と力の両立が必要だよね……力だけでも速度だけでも止められない」
「むー……わたしのブレスならとめられるもん!」
「リンの場合は当たればっていう前提だけどな」
「
「そのてがあった!」
さて試合に目を向けるが……ティオの回転が始まったのでだいぶ心配なくなった。
相手の銀級冒険者も見事に予選を潜り抜けて来た腕は確かな実力者だが……あのティオの回転攻撃はシンプルに対処が難しいからな。
攻撃判定の塊になってとんでもねぇ勢いで突っ込んできて無限に切り刻んでくるからな。しかも反撃しても弾かれるし。
強力な一撃か圧倒的な防御力が無いと対抗できない。出し得の技なのだ。
『ティオ選手の回転が止まらない!! 徐々に相手を押し切っていくっ!! 強いぞ強いぞ!!』
これは決まったな。
磁石のようにぴったりと相手にくっついて無限の回転で切り刻まれ、相手の冒険者がとうとう膝をついた。
立ち上がる気力も奪われてしまったようでそのまま立ち上がれず、ティオが勝利した。
「ロック殿の次はティオ殿になるな、これは……ふむ、どのようにアレを止めるか」
「既に次の次を考えておられる」
『みゃあ』
サザンカさんも次なる強敵に備えて戦術を考えているようで、面頬の顎に手を添えてふむふむと思案顔。
ティオには手加減してやってくださいね。アイツも俺ほどじゃないけど軽装だからさ。
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