東京・新宿の大学受験予備校「ニチガク」が今月、資金難を理由に突然、教室を閉鎖した。18、19日の大学入学共通テストを直前に控え、受験生に動揺が広がる中、同業者が急遽(きゅうきょ)支援に乗り出す事態に。新型コロナウイルス禍を経て学習環境が変化する中、専門家は「身の丈に合った経営が重要」と指摘する。
突然の張り紙
「債務者は、現在債務の支払いに窮する状態にあるため、破産申し立てを視野に入れ、債務を整理する予定でおります」
今月4日、ニチガク校舎前に、運営する「日本学力振興会」の代理人弁護士名の案内文が張り出された。
ニチガクのウェブサイトによると、令和5年度に大学受験した受講生は165人。うち合格者(第2志望まで)は東大9人を含む155人、合格率は93・9%に上る。
代理人弁護士によると、生徒数減少が止まらず、パソコンの導入や自習室の整備に多額の投資をしたのが重荷となり資金難に陥っていた。日本学力振興会は同10日、東京地裁に破産申請。負債は約1億円とみられる。
閉鎖は約130人の受講生はもとより、講師も「寝耳に水」。受講していた高校2年の女子生徒(17)は「自分もそうだが、とにかく(入試を控えた)先輩たちが心配。今になってなぜこんなことになるのか」と、不安を口にした。
受験生を「救済」
影響が深刻なのは、間近に入試を控えた受験生。同業者が支援に乗り出している。
家庭教師事業などを手掛ける「学研エル・スタッフィング」(東京都豊島区)は、ニチガクに通っていた高校3年生などを対象に無償指導や無料相談窓口設置を表明。共通テストの結果を受けた受験パターンの再考や追い込みなどのアドバイスを行う予定という。
同社取締役の西川衛(まもる)氏は「何とかしてあげたいという思い。人員に限りはあるが、動揺している生徒や保護者に寄り添いたい」と話す。他にも、新宿区の予備校「慧修会」や文京区の学習塾「ヴェリタス」などが支援を表明している。
競争激化が背景
今回の問題は塾業界の厳しい現状を浮き彫りにした。東京商工リサーチによると、昨年の倒産件数は53件(速報値)と、平成12年以降で過去最多を更新。コロナ禍で「オンライン塾」が広がるなど形態が多様化し、競争が激化したことが背景にあるとされる。
塾経営者で教育アドバイザーの清水章弘氏は「業界は不況で、経営が難しくなっているのは間違いない。(ニチガクの閉鎖には)皆、『明日はわが身』と感じたはずだ」と話す。コロナ禍以降は「ユーチューブやアプリなど、安価のオンライン学習が増えた」と指摘。「学習の定着やモチベーション向上のための環境は大切」と従来型の部屋に生徒を集めた授業の重要性も認めた上で、「身の丈に合った経営が重要。地域密着型や、小規模で変化に対応しやすい形などの工夫が求められる」と指摘した。(山本玲)