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世界最古の日曜紙・英オブザーバー紙、売却 新興メディアの買収に抵抗も

小林恭子ジャーナリスト
ロンドンのカフェで新聞を読む男性(写真:アフロ)

 「新聞協会報」(1月1日付)に掲載された、筆者コラムに補足しました。

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 世界最古の日曜紙と言われる英オブザーバーが新興デジタル・メディア「トータスメディア」に売却されることが決まった。

 昨年12月5日夜、同紙と日刊紙ガーディアンを発行するガーディアン・メディア・グループ(GMG)、GMGを所有する慈善組織スコット・トラスト、トータスメディアが原則合意した。

 前日から2日間にわたって全国ジャーナリスト労組(NUJ)に所属する両紙の記者らが売却交渉停止を求めるデモを行っていたが、その声は届かなかった。

 今回の売却は、ソーシャルメディアの普及やデジタル化の進展で伝統的な新聞の所有者が次々と変わっていく流れの1つともいえる。

販売・広告収入減で

 オブザーバー紙は1791年に創刊され、1993年、GMGの傘下に入った。スコット・トラストは36年に設置され、ガーディアンの財政上および編集上の独立性を永遠に維持し、報道の自由とリベラルな価値観を商業的・政治的な干渉から守ることを目的とする。

 両紙は編集室を独自に維持しつつもウェブサイトを共有し、英国の中道左派論壇の一角を担ってきた。

 売却話が最初に報道されたのは2024年9月、GMG社の3月決算の数字が発表された時だった。

 「広告市場の減速と印刷業界に対する持続的な構造的圧力」によって、収入は前年比2.5%減の2億5780万ポンド(約496億円)に。70人の編集スタッフを抱えるオブザーバーは21年時点での発行部数13万部強であったが、現在までに約10万部ほどに落ちていると推測される。

 GMGのアンナ・ベイツン最高経営責任者によると、オブザーバーは「今後3年以内に確実に赤字化する」と予測され、将来を考えざるを得ない状況にあった。

 ここに登場したのがトータルメディアであった。保守系高級紙タイムズの元編集長でBBCのニュース部門の責任者だったジェームズ・ハーデイング氏が19年、元駐英の米大使マシュー・バーザン氏と立ち上げた会員制のデジタルメディアである。「トータス(亀)」という名称が示すように、取材と制作に時間をかける「スローニュース」の発信を柱とする。

反対論、強く

 トータスメディアとの交渉が明るみに出ると、これに反対する機運が広がった。

 9月18日、オブザーバーとガーディアンの約250人の記者が参加してNUJの緊急会議が開かれ、売却に反対する動議を採択した。12月4日と5日にはロンドンのGMG本社の前で両紙の記者、著名人、議員ら100人を超える人々が抗議ストに参加した。左派系知識人、俳優らもスト支持のメッセージを送った。記者らは翌週もストを決行する予定だったが、その矢先に買収確定が発表された。

 スコット・トラストによって守られるはずと認識されてきたオブザーバーの売却話は記者・編集者とって寝耳に水だった。新興のデジタルメディアが新所有者となった場合にオブザーバー職員の雇用が脅かされるのではないか、電子版だけになるのではないかという懸念も出た。

 2023年12月に発表された財務状況によると、トータスメディアは22年12月時点で売り上げが約623万ポンド。これは前年比で15%増加したが、税引き前の損失は463万ポンドで前年比45%増である。赤字メディアが売却先となることへの不安感もあった。

有料化への懸念も

 ハーディング氏は今後5年間で2500万ポンドの投資を行うとしているが、これで紙の発行と独自のウェブサイトの開戦・維持をカバーできるのかどうか不明だ。現在、オブザーバーの記事はウェブサイト上で無料で閲読できるが、ハーディング氏は買収後に有料化する予定だ。

 ガーディアンやオブザーバーはウェブサイト上での記事の閲読を原則無料化しており、オブザーバーの新サイトが有料化されれば、払えない人を阻害することにもなり得るだろう。

 記者らの不信感を取り除くため、トータスメディアはオブザーバー職員の雇用継続を約束し、フリーランス契約の人は25年9月まで契約継続を保証すると述べている。スコット・トラストはオブザーバーとの関係を維持し、トータスメディアへの大手投資者となるほかに締役会にも入る。同メディアの経営陣の上部組織となる「独立編集理事会」にも籍を置く。

 記者らの不信感は消えず、22年12月12日と13日にも抗議ストが決行されたが、18日、買収が正式決定した。移行期間を経て、新オブザーバー紙の発行は今年春の予定だ。

 数年前に生まれたばかりのデジタルメディアが200年余の歴史を持つ新聞を買う。メディア環境の激変を象徴するような話だ。

 ハーディング氏は紙での発行を続けると確約しているが、紙の新聞を買うという習慣が廃れていく中、長期で見て本当に継続できるのかは疑問だ。また、サイトが「有料の壁」に入るとき、社会の中での存在感が薄れてしまうのではないだろうか。

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ありがとうございます。
ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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