バイデン大統領を提訴 日本製鉄の買収計画の行方は

バイデン大統領を提訴 日本製鉄の買収計画の行方は
日本製鉄が目指すUSスチールの買収は1月3日、バイデン大統領に阻止された。

アメリカと密接な関係にある日本の企業による買収が国家安全保障上の懸念を理由に禁止されたことに衝撃が広がっている。

さらに命令に反発した日本製鉄は違法な政治的介入があったとして、バイデン大統領の提訴に踏み切った。

異例ずくめの事態の今後の展開を探る。

(経済部記者 猪俣英俊)

大統領命令で買収を阻止

1月3日、正月の新年ムードが続く日本に衝撃のニュースが飛び込んだ。

バイデン大統領が、日本製鉄によるUSスチール買収を禁止する命令を発表。
理由については、国家安全保障を損なうおそれがあると信じるのに十分な証拠があるためとしたが、これまで同盟国の日本の企業に対し、大統領の禁止命令が出たことはなく、日本政府や経済界に衝撃が広がった。

とは言え、厳しい結果を予想する向きもあった。

もともと、この買収計画を審査してきたCFIUS=対米外国投資委員会は全会一致に至らず、判断を大統領に委ねていた。

そして、バイデン大統領は一貫して買収に否定的な考えを示し続けていたからだ。

日本製鉄、アメリカ大統領を相手に異例の提訴

この命令に対し、日本製鉄も黙ってはいなかった。
会社はUSスチールの買収にあたって、雇用の維持や追加の設備投資など好条件を提示。

買収はアメリカの鉄鋼業界の強化につながるとして、一貫して強気の姿勢を示してきた。

それだけに禁止命令は不当だとして、バイデン大統領を訴えるという前代未聞の裁判に打って出たのだ。

さらに競合企業と鉄鋼業界の労働組合のトップを相手に別の訴えも起こした。

日本製鉄とUSスチールが起こした裁判の概要は次のとおりだ。
訴訟1
大統領の禁止命令の無効と審査のやり直しを求める裁判

(主張)
大統領の禁止命令やCFIUSの審査はアメリカの憲法上の適正手続きなどに違反し、違法な政治的介入にあたる。
被告は、バイデン大統領やCFIUSの議長を務めるイエレン財務長官など。
訴訟2
競合企業やUSWトップの違法行為の差し止めや損害賠償を求める裁判

(主張)
アメリカの鉄鋼市場の独占やUSスチールの競争力の低下を図るため、日本製鉄の買収を阻止。反競争的かつ組織的な違法活動にあたる。
被告は、現地の鉄鋼大手「クリーブランド・クリフス」とゴンカルベスCEO、買収計画に反対を続けたUSW=全米鉄鋼労働組合のマッコール会長。

橋本会長“決して諦めない”

なぜ、2つの裁判を起こしたのか。

1月7日に会見を開いた日本製鉄の橋本英二会長は、その理由を次のように述べたうえで禁止命令は到底受け入れられないとして強く批判した。
日本製鉄 橋本英二会長
「当社の米国参入を何としても阻止したいクリーブランド・クリフスのゴンカルベスCEOが不可解なことだが、全米鉄鋼労働組合のマッコール組合長と連携し、組合の強大な政治力を利用してバイデン大統領に働きかけた。こともあろうに、この働きかけに政治的な理由から応じたバイデン大統領の違法な政治的介入により、CFIUSの審査手続きも適正に実施されないまま、今回の大統領令に至った」
民主党のバイデン大統領にとってUSWは重要な支持基盤で、選挙での集票力もある。

橋本会長は、大統領の決定は国家安全保障上の懸念からではなく、自身の政治的目的のために行われたとしたうえで、「アメリカの事業遂行を決して諦めることはない。諦める理由も必要も無いというのが私の考え方で、両社で一致した考え方だ」と述べ、徹底抗戦の姿勢を改めて鮮明にした。

クリーブランド・クリフスとの“複雑な関係”

日本製鉄が提訴したクリーブランド・クリフスは単なる同業他社ではなく、USスチールの買収で競合する関係にあった。
クリフスはアメリカの鉄鋼大手で、USスチールのライバルメーカーでもある。

USスチールと同様に高炉を持ち、2023年の粗鋼生産量は1730万トンで世界22位だ。(USスチールは1580万トンで世界24位)

2023年に業績が悪化したUSスチールが経営立て直しに向けて買い手を求める入札を実施すると、クリフスは日本製鉄とともに入札に参加し、競り合った。

50を超える企業が入札に参加する中、日本製鉄だけが唯一、USスチールを独立した高炉一貫製鉄会社のまま維持することを約束したという。

買収で支払う対価はクリフスよりも高額で、独占禁止法上の問題点もないとして、最終的にこの案件は日本製鉄に軍配があがった。

そして、日本製鉄とUSスチールは2023年12月に買収に合意した。

日本製鉄は、このクリフスと、クリフスによるUSスチール買収を支持していたマッコール会長が手を組み、日本製鉄の買収計画を阻止しようと、バイデン大統領に不当な働きかけを行ったと主張している。

クリフスは反論“恥知らずな試み”

これに対し、クリフスのゴンカルベスCEOとUSWのマッコール会長は即座に反論した。
「クリーブランド・クリフス」ゴンカルベスCEO
「日本製鉄とUSスチールがみずから招いた惨事を他人になすりつけようとする恥知らずな試みだ。彼らの訴えには全く根拠がない」
USW=全米鉄鋼労働組合 マッコール会長
「根拠のない主張に対しては断固として反論していく。バイデン政権は、アメリカの重要な利益や国家安全保障を守り、わが国の重要なサプライチェーンを支える国内の鉄鋼産業を維持することに貢献した」
対立が深まる中、ゴンカルベスCEOは1月13日に記者会見し、「中国は悪だ。だが、日本はもっと悪い。日本が中国に対して過剰生産の方法などを教えた」などと激しく日本を批判した。

この日、クリフスが別のアメリカ鉄鋼大手ニューコアと協力してUSスチールを買収する可能性があると現地のメディアが報じた。

ゴンカルベスCEOは、報道には直接コメントしなかったものの、「私たちはアメリカ流の解決策がある。アメリカがUSスチールを救うのだ」と述べ、アメリカ企業による買収が望ましいとの意向をにじませた。

未知の領域を進む裁判

全面的に争う構図の2つの裁判で、日本製鉄はみずからの主張を裏付ける証拠を集めなければならない。

日本製鉄は裁判を通じて、買収を実現することができるだろうか。

専門家を取材すると、難しい裁判になるという見方が優勢だ。

というのも、国の安全保障に関する大統領の決定は極めて重く、決定そのものは裁判所の審査の対象にならないからだ。

今回の訴訟も憲法や法令上の手続きに違反するという立てつけだ。

アメリカ政府の政策に詳しい丸紅経済研究所の今村卓社長は「未知の領域を進む裁判となる」と指摘する。
丸紅経済研究所 今村卓社長
「有権者を重視するあまり、ルールを軽視、逸脱しているような動きがあれば民主主義を揺るがす動きになる。今回は理由からみても法の支配といったものをバイデン大統領、CFIUSも含め、十分に守ってないと訴えていくことは可能だと思う。一方で、大統領が安全保障という国家の最も大きな問題に関して判定を下したことは確かで、それを覆すのは相当難しい」
過去の判例を調べてみた。

アメリカ議会調査局によると、CFIUSが審査を行い、大統領が取り引きの禁止を命令したケースは8件あり、このうちの1件は企業側が訴訟を起こした。

中国系企業の訴えで、裁判所はアメリカ政府が適正な手続によらずに企業の財産権を剥奪したと結論づけ、両者は最終的に和解した。

ただ、このケースでも大統領命令そのものは覆ってはいない。

また、ニューヨーク州弁護士の資格も持つ慶応大学大学院法務研究科の渡井理佳子教授は、大統領命令を無効とするのは厳しいと指摘する。
慶応大学大学院法務研究科 渡井理佳子教授
「バイデン大統領などを相手取った訴訟では、アメリカの投資規制法が大統領の禁止命令を司法審査の対象から除外しているため、禁止命令の実体面についての審査には限界がある。そこで、手続き面をどう争うかが鍵となる。大統領が買収計画に反対の意向を公にしていたことで適正な手続きによらず契約上の権利を奪われ、十分な反論の機会も与えられなかったという憲法違反の問題と、日本製鉄が安全保障上のリスクを軽減するために行った提案をCFIUSが考慮せず、公正な審査を行わなかったという投資規制法違反の問題を日本製鉄とUSスチールがいかに立証できるかがポイントだ。ただ、仮に手続きに問題があったと認定されても、命令を無効に持っていくのは厳しいとみている」
その上で、渡井教授はトランプ政権のもとで再審査に持ち込む道筋を探ることが有効だと指摘する。
渡井理佳子教授
「日本製鉄は、USスチールの生産能力を対米外国投資委員会の承認なく10年間削減しないとの提案をすでにしているが、この期間を延長することができれば、トランプ政権下での再審査につなげることが考えられる。再審査に持ち込めば買収計画が承認される可能性が残される」

日米関係への影響は?

日本の大手企業がアメリカの大統領を訴えるという異例の事態となった巨額の買収計画。

この買収に対しては「大統領選挙の年にアメリカの象徴的な企業に買収を仕掛けるのは時期が悪い」といった指摘も聞かれる。

しかし、今回は業績が悪化したUSスチールがみずから買い手を求めて動いた経緯もあり、時期を選ぶ選択肢はなかったとする声もある。

いずれにしても買収の実現に向けて、日本製鉄が超えなければならないハードルは高い。

一方、今回の買収は1つの企業の問題にとどまらず、日本の対米投資や日米両国の信頼関係にも影響を及ぼすという懸念が広がっている。

買収計画を審査する過程で、どういう判断がされていたのか。

また、アメリカの保護主義が強まる中で、自由な競争や投資の環境は守られるのか。

重要な事実が裁判で明らかになるのか、その行方を注視していきたい。

(1月14日「ニュース7」などで放送)
経済部記者
猪俣英俊
2012年入局
函館局、富山局、松江局を経て去年9月から2度目の経済部
財界や重工を担当
バイデン大統領を提訴 日本製鉄の買収計画の行方は

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バイデン大統領を提訴 日本製鉄の買収計画の行方は

日本製鉄が目指すUSスチールの買収は1月3日、バイデン大統領に阻止された。

アメリカと密接な関係にある日本の企業による買収が国家安全保障上の懸念を理由に禁止されたことに衝撃が広がっている。

さらに命令に反発した日本製鉄は違法な政治的介入があったとして、バイデン大統領の提訴に踏み切った。

異例ずくめの事態の今後の展開を探る。

(経済部記者 猪俣英俊)

大統領命令で買収を阻止

1月3日、正月の新年ムードが続く日本に衝撃のニュースが飛び込んだ。

バイデン大統領が、日本製鉄によるUSスチール買収を禁止する命令を発表。
理由については、国家安全保障を損なうおそれがあると信じるのに十分な証拠があるためとしたが、これまで同盟国の日本の企業に対し、大統領の禁止命令が出たことはなく、日本政府や経済界に衝撃が広がった。

とは言え、厳しい結果を予想する向きもあった。

もともと、この買収計画を審査してきたCFIUS=対米外国投資委員会は全会一致に至らず、判断を大統領に委ねていた。

そして、バイデン大統領は一貫して買収に否定的な考えを示し続けていたからだ。

日本製鉄、アメリカ大統領を相手に異例の提訴

この命令に対し、日本製鉄も黙ってはいなかった。
会社はUSスチールの買収にあたって、雇用の維持や追加の設備投資など好条件を提示。

買収はアメリカの鉄鋼業界の強化につながるとして、一貫して強気の姿勢を示してきた。

それだけに禁止命令は不当だとして、バイデン大統領を訴えるという前代未聞の裁判に打って出たのだ。

さらに競合企業と鉄鋼業界の労働組合のトップを相手に別の訴えも起こした。

日本製鉄とUSスチールが起こした裁判の概要は次のとおりだ。
訴訟1
大統領の禁止命令の無効と審査のやり直しを求める裁判

(主張)
大統領の禁止命令やCFIUSの審査はアメリカの憲法上の適正手続きなどに違反し、違法な政治的介入にあたる。
被告は、バイデン大統領やCFIUSの議長を務めるイエレン財務長官など。
訴訟2
競合企業やUSWトップの違法行為の差し止めや損害賠償を求める裁判

(主張)
アメリカの鉄鋼市場の独占やUSスチールの競争力の低下を図るため、日本製鉄の買収を阻止。反競争的かつ組織的な違法活動にあたる。
被告は、現地の鉄鋼大手「クリーブランド・クリフス」とゴンカルベスCEO、買収計画に反対を続けたUSW=全米鉄鋼労働組合のマッコール会長。

橋本会長“決して諦めない”

橋本会長“決して諦めない”
なぜ、2つの裁判を起こしたのか。

1月7日に会見を開いた日本製鉄の橋本英二会長は、その理由を次のように述べたうえで禁止命令は到底受け入れられないとして強く批判した。
日本製鉄 橋本英二会長
「当社の米国参入を何としても阻止したいクリーブランド・クリフスのゴンカルベスCEOが不可解なことだが、全米鉄鋼労働組合のマッコール組合長と連携し、組合の強大な政治力を利用してバイデン大統領に働きかけた。こともあろうに、この働きかけに政治的な理由から応じたバイデン大統領の違法な政治的介入により、CFIUSの審査手続きも適正に実施されないまま、今回の大統領令に至った」
民主党のバイデン大統領にとってUSWは重要な支持基盤で、選挙での集票力もある。

橋本会長は、大統領の決定は国家安全保障上の懸念からではなく、自身の政治的目的のために行われたとしたうえで、「アメリカの事業遂行を決して諦めることはない。諦める理由も必要も無いというのが私の考え方で、両社で一致した考え方だ」と述べ、徹底抗戦の姿勢を改めて鮮明にした。

クリーブランド・クリフスとの“複雑な関係”

日本製鉄が提訴したクリーブランド・クリフスは単なる同業他社ではなく、USスチールの買収で競合する関係にあった。
クリフスはアメリカの鉄鋼大手で、USスチールのライバルメーカーでもある。

USスチールと同様に高炉を持ち、2023年の粗鋼生産量は1730万トンで世界22位だ。(USスチールは1580万トンで世界24位)

2023年に業績が悪化したUSスチールが経営立て直しに向けて買い手を求める入札を実施すると、クリフスは日本製鉄とともに入札に参加し、競り合った。

50を超える企業が入札に参加する中、日本製鉄だけが唯一、USスチールを独立した高炉一貫製鉄会社のまま維持することを約束したという。

買収で支払う対価はクリフスよりも高額で、独占禁止法上の問題点もないとして、最終的にこの案件は日本製鉄に軍配があがった。

そして、日本製鉄とUSスチールは2023年12月に買収に合意した。

日本製鉄は、このクリフスと、クリフスによるUSスチール買収を支持していたマッコール会長が手を組み、日本製鉄の買収計画を阻止しようと、バイデン大統領に不当な働きかけを行ったと主張している。

クリフスは反論“恥知らずな試み”

これに対し、クリフスのゴンカルベスCEOとUSWのマッコール会長は即座に反論した。
「クリーブランド・クリフス」ゴンカルベスCEO
「日本製鉄とUSスチールがみずから招いた惨事を他人になすりつけようとする恥知らずな試みだ。彼らの訴えには全く根拠がない」
USW=全米鉄鋼労働組合 マッコール会長
「根拠のない主張に対しては断固として反論していく。バイデン政権は、アメリカの重要な利益や国家安全保障を守り、わが国の重要なサプライチェーンを支える国内の鉄鋼産業を維持することに貢献した」
対立が深まる中、ゴンカルベスCEOは1月13日に記者会見し、「中国は悪だ。だが、日本はもっと悪い。日本が中国に対して過剰生産の方法などを教えた」などと激しく日本を批判した。

この日、クリフスが別のアメリカ鉄鋼大手ニューコアと協力してUSスチールを買収する可能性があると現地のメディアが報じた。

ゴンカルベスCEOは、報道には直接コメントしなかったものの、「私たちはアメリカ流の解決策がある。アメリカがUSスチールを救うのだ」と述べ、アメリカ企業による買収が望ましいとの意向をにじませた。

未知の領域を進む裁判

全面的に争う構図の2つの裁判で、日本製鉄はみずからの主張を裏付ける証拠を集めなければならない。

日本製鉄は裁判を通じて、買収を実現することができるだろうか。

専門家を取材すると、難しい裁判になるという見方が優勢だ。

というのも、国の安全保障に関する大統領の決定は極めて重く、決定そのものは裁判所の審査の対象にならないからだ。

今回の訴訟も憲法や法令上の手続きに違反するという立てつけだ。

アメリカ政府の政策に詳しい丸紅経済研究所の今村卓社長は「未知の領域を進む裁判となる」と指摘する。
丸紅経済研究所 今村卓社長
「有権者を重視するあまり、ルールを軽視、逸脱しているような動きがあれば民主主義を揺るがす動きになる。今回は理由からみても法の支配といったものをバイデン大統領、CFIUSも含め、十分に守ってないと訴えていくことは可能だと思う。一方で、大統領が安全保障という国家の最も大きな問題に関して判定を下したことは確かで、それを覆すのは相当難しい」
過去の判例を調べてみた。

アメリカ議会調査局によると、CFIUSが審査を行い、大統領が取り引きの禁止を命令したケースは8件あり、このうちの1件は企業側が訴訟を起こした。

中国系企業の訴えで、裁判所はアメリカ政府が適正な手続によらずに企業の財産権を剥奪したと結論づけ、両者は最終的に和解した。

ただ、このケースでも大統領命令そのものは覆ってはいない。

また、ニューヨーク州弁護士の資格も持つ慶応大学大学院法務研究科の渡井理佳子教授は、大統領命令を無効とするのは厳しいと指摘する。
慶応大学大学院法務研究科 渡井理佳子教授
「バイデン大統領などを相手取った訴訟では、アメリカの投資規制法が大統領の禁止命令を司法審査の対象から除外しているため、禁止命令の実体面についての審査には限界がある。そこで、手続き面をどう争うかが鍵となる。大統領が買収計画に反対の意向を公にしていたことで適正な手続きによらず契約上の権利を奪われ、十分な反論の機会も与えられなかったという憲法違反の問題と、日本製鉄が安全保障上のリスクを軽減するために行った提案をCFIUSが考慮せず、公正な審査を行わなかったという投資規制法違反の問題を日本製鉄とUSスチールがいかに立証できるかがポイントだ。ただ、仮に手続きに問題があったと認定されても、命令を無効に持っていくのは厳しいとみている」
その上で、渡井教授はトランプ政権のもとで再審査に持ち込む道筋を探ることが有効だと指摘する。
渡井理佳子教授
「日本製鉄は、USスチールの生産能力を対米外国投資委員会の承認なく10年間削減しないとの提案をすでにしているが、この期間を延長することができれば、トランプ政権下での再審査につなげることが考えられる。再審査に持ち込めば買収計画が承認される可能性が残される」

日米関係への影響は?

日米関係への影響は?
日本の大手企業がアメリカの大統領を訴えるという異例の事態となった巨額の買収計画。

この買収に対しては「大統領選挙の年にアメリカの象徴的な企業に買収を仕掛けるのは時期が悪い」といった指摘も聞かれる。

しかし、今回は業績が悪化したUSスチールがみずから買い手を求めて動いた経緯もあり、時期を選ぶ選択肢はなかったとする声もある。

いずれにしても買収の実現に向けて、日本製鉄が超えなければならないハードルは高い。

一方、今回の買収は1つの企業の問題にとどまらず、日本の対米投資や日米両国の信頼関係にも影響を及ぼすという懸念が広がっている。

買収計画を審査する過程で、どういう判断がされていたのか。

また、アメリカの保護主義が強まる中で、自由な競争や投資の環境は守られるのか。

重要な事実が裁判で明らかになるのか、その行方を注視していきたい。

(1月14日「ニュース7」などで放送)
経済部記者
猪俣英俊
2012年入局
函館局、富山局、松江局を経て去年9月から2度目の経済部
財界や重工を担当

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