厚生労働省の人口動態統計によると、2022年における女性の平均初婚年齢は29.7歳と20年前と比較して約2歳ほど晩婚化している。また、同年における女性の第1子平均出産年齢は30.9歳と、こちらも20年前と比較して約2年ほど晩産化している。さらに、女性が生涯に産む子どもの数を現したひとつの指標である合計特殊出生率は、2023年時点で1.20と過去最低を記録している。
現代の日本では、結婚し子どもを産む選択肢が必ずしも当たり前ではなくなってきた上に、結婚・出産を選択する者においても、自身の学歴やキャリアを優先し社会的基盤を築いてから家族計画をはじめて意識するなどの後ろ倒し傾向が認められている。
この様なライフスタイルの多様化が及ぼす弊害のひとつとして、月経困難症や子宮内膜症などの月経随伴症状の発症リスクが指摘されており、仕事との両立の観点からも無視できない疾患となっている。一方で、これら疾患に対応する日本の治療トレンドも転換期を迎えており、最新の知識をうまく活用すれば女性のQOLを格段に向上させることができる段階にまで来ている。
本稿では、月経困難症や子宮内膜症の機序とその要因、治療トレンドの変遷や治療薬に関する最新知識について概説する。
月経困難症・子宮内膜症 現代女性のリスクとは
1|月経困難症と子宮内膜症
まず、月経困難症とは、月経に付随して生じる病的な症状のことであり、月経時あるいは月経直前より始まる強い下腹部痛や腰痛を主症状として、腹部膨満感や嘔気、頭痛や疲労などの様々な症状が出現することが報告されている。筆者が実施した調査においても月経に付随した症状として23症状が認められており、月経中は下腹部痛が7割、月経前にはイライラ症状が2割強ほど出現することが確認されている。日本産婦人科医会によると、月経困難症は16歳~49歳の生殖年齢女性の25%以上に認められており、若年女性ほどその頻度が高いことが報告されている。
また、月経困難症は、子宮内膜症などに起因する器質性月経困難症と、特定の疾患により起因しない機能性月経困難症に区分される。若年女性では、機能性の発症頻度の方が高いが、稀に子宮内膜症や子宮筋腫、子宮腺筋症などの器質性が隠れていることもあり、近年では10~20歳代の女性において子宮内膜症が増加していることも報告されている。子宮内膜症は、子宮の内膜が本来あるべき場所以外に発生し発育してしまう疾患であり、女性ホルモンの影響で月経周期に合わせて増殖し、月経時に排血されずに蓄積されてしまい、周期の組織と癒着し様々な痛みを引き起こす病状が知られている。加えて、子宮内膜症患者の約30%に不妊症があると報告されており、早期の治療が望まれるものである。
2|未産・晩産・妊娠回数の減少により生涯の月経回数が増加
上述した月経困難症や子宮内膜症が増加している要因のひとつに、現代女性の月経回数の増加が指摘されている。現代の女性は、生涯に経験する月経(生理)が450~500回ほどとされており、平均月経回数が50回であった1900年代と比較すると、実に9~10倍以上の頻度で月経を経験していることとなる。また、1970年代と比べ、2020年代では月経期間が長くなっている。
本来であれば、月経が発来する平均12歳ごろから閉経する平均50歳頃までの約38年間の間に、妊娠により約10カ月×複数回の期間において月経は停止し、女性ホルモンに曝されないはずである。
しかし、現代では、妊娠・出産年齢の後ろ倒し、もしくは妊娠を選択しない、また妊娠・出産回数の減少、さらには産後に人工乳を選択することにより、月経の再開が早くなり、女性ホルモンの長期的な影響を受けることになり、その結果、子宮内膜症や子宮筋腫、卵巣がんや乳がんなどの発症リスクが増大するのである。
