【詳しく】三菱UFJ銀行の元行員を逮捕 発覚を免れようと工作か

貸金庫から顧客の金塊を盗んだとして14日、警視庁に逮捕された三菱UFJ銀行の元行員が、金庫を開けるために使ったスペアキーを元あった封筒に戻してのり付けしたり、貸金庫の利用者が来店した際にシステムを切断し、部屋に入れないようにしたりして発覚を免れようとしていたことがわかりました。

三菱UFJ銀行の元支店長代理、今村由香理容疑者(46)は練馬支店に勤務していた去年9月、顧客2人の貸金庫をスペアキーで開けて、中にあった金塊およそ20キロ、2億6000万円相当を盗んだとして14日警視庁に逮捕されました。

調べに対し「盗んだことに間違いありません」などと容疑を認めていて、警視庁は、被害にあった貸金庫の利用者が少なくとも60人、被害額は現金や金塊で17億円以上にのぼるとみて調べています。

銀行や捜査関係者によりますと、銀行側が顧客の貸金庫を開ける際に使うスペアキーは、封筒に入れられた状態で管理されていますが、容疑者は金品を盗んだあとスペアキーを元あった封筒に戻した上で、再度のり付けするなどしていたということです。

警視庁の調べに対し「あとでチェックされると思い、封をはがすときにも丁寧にやっていた」という趣旨の供述もしているということです。

また、貸金庫の利用者が想定外のタイミングで来店した際には、部屋に入るためのシステムを意図的に切断し「故障している」などといって中に入れないようにしていたということです。

警視庁はこうした行為や、金品を盗んだ貸金庫の中に、ほかの顧客の金品などを入れて「補てん」する隠ぺい工作を続けながら、容疑者が4年半にわたって盗みを繰り返していたとみて捜査しています。

FX取引や競馬で多額の損失 借金の返済に困り金品盗んだか

これまでの調べによりますと、FX取引や競馬で多額の損失を出して消費者金融からの借金があり、返済に困って貸金庫の金品を盗むようになったということです。

その後は盗みの発覚を免れるため、別の顧客の金庫から盗んだ現金を入れて「補てん」したり、質店に持ち込んだ金塊を現金を払って手元に戻し、もとの金庫に入れたりするなどの行為を繰り返すようになったということです。

貸金庫の客が来店する前に「補てん」が行えるよう、盗む前の金庫の中の状態をスマートフォンで撮影し、画像に残していたということです。

警視庁は元行員が4年半にわたって盗みを繰り返し、被害は少なくとも顧客60人から現金10億円以上、金塊などは時価総額7億円以上になるとみて詳しいいきさつを調べています。

《被害者・貸金庫サービス事業者は》

現金や金盗まれた男性「ばかなことをしたと思う」

三菱UFJ銀行の練馬支店の貸金庫に入れていた現金や金が盗まれたという男性が、NHKの取材に応じました。

去年11月、銀行から「盗難被害にあっている可能性があるので、金庫の中身を確認してほしい」という連絡があったということです。

金庫を開けると封筒に入れて保管していたはずの現金、千数百万円が無くなっていたほか、金の板の一部も無くなっていたということです。

銀行の担当者は盗んだ疑いがある行員のスマートフォンから男性の金庫の中を撮影した写真が見つかったこと、男性が現金を入れていた封筒と紙幣をまとめる帯が行員の自宅から見つかったことを説明したということです。

男性が最後に貸金庫の中身を確認しようとしたのは、去年夏ごろですが、その際、今村容疑者とみられる女性の行員が部屋の前に立っていて、「システムの不具合できょうは利用できない」などと説明したということです。

男性は「何十年も貸金庫を利用してきましたが、部屋に入れなかったことは初めてだったので驚きました。最初に銀行から連絡があった時は、何かの詐欺ではないかと思い、信じられませんでしたが、補償もしてくれるというので今は心配していません。盗んだ行員は、自分の物ではないお金が目の前にあるのでそんな気になったのかもしれませんが、ばかなことをしたと思います」と話していました。

別の貸金庫サービスの事業者「ふつうはありえない」

東京・八王子で貸金庫サービスを提供している事業者を取材しました。

若者から高齢者まで幅広い年代の顧客がいて、現金や貴金属などのほか、思い出の品を保管したいとして契約しにくる人も多くいますが、中に実際に何を入れるかは利用者にしかわからないようになっています。

顧客の貸金庫をスタッフが開けることはありませんが、顧客が鍵を紛失したり、料金を支払わないまま連絡が取れなくなったりした場合などに備えて予備の鍵があり、厳重に管理しているということです。

また、貸金庫がある部屋への入室記録を取ったり、複数の防犯カメラ、警備会社の巡回システムなどによって不審な出入りがないか監視しているということです。

貸金庫サービスが担当の片平正美さんは「顧客の金庫を勝手に開けることなどふつうはありえず、ニュースを聞いて驚きました。私たちの金庫では過去にそういったトラブルはないですが、中身はお客様しか把握していないので、こうした事件が起きると被害を特定することも難しいと思います」と話していました。

《三菱UFJ銀行の対応》

約40人に7億円あまりを補償 残る被害者への補償急ぐ

三菱UFJ銀行は被害にあった人への補償を進めていますが、すでに被害が確認されているおよそ60人に加え、被害にあったと申し出ている人がさらに数十人いるということで、被害状況の確認と残る被害者への補償を急ぐことにしています。

銀行の調査で被害が確認されている人はおよそ60人で、さらに申し出があった数十人が被害にあった可能性があるとしています。

銀行は被害の補償を進めていますが、関係者によりますと現時点で補償が済んでいるのはおよそ40人、7億円あまりで、被害状況の確認と残る被害者への補償を急ぐことにしています。

半沢頭取ら役職員の処分を早急に検討へ

支店長代理だった元行員が貸金庫から金塊を盗んだとして逮捕されたことを受けて、三菱UFJ銀行は責任を明確にするため、半沢淳一頭取をはじめとした役職員の処分を早急に検討することにしています。

銀行は先月、半沢頭取が会見を開いて貸金庫の鍵の管理体制に不備があったことを認めて陳謝するとともに「真因分析と再発防止策をしっかり取り組むことが私の責任だと思っている」と述べました。

支店長代理だった元行員の逮捕を受けて、銀行では責任を明確にするため、半沢頭取をはじめとした役職員の処分について早急に検討することにしています。

また、銀行は貸金庫の「予備鍵」=スペアキーを支店ごとではなく本部で一括管理するよう運用を見直すことをすでに発表していますが、さらなる再発防止策も講じる方針です。

「全行あげて再発防止策の策定と実行」とコメント

また三菱UFJ銀行は元行員が逮捕されたことについて「お客様にご迷惑とご心配をおかけしており、改めて心よりおわび申し上げます。これまでと同様、警察の捜査に全面的に協力してまいります。今回の事案は信頼・信用という銀行ビジネスの根幹を揺るがすものであると重く受け止め、全行をあげて再発防止策の策定と実行に取り組み、お客様や関係する皆様からの信頼の回復に努めてまいります」とコメントしています。

専門家 “過去の事案と別次元の劣悪さ 管理業務運営も再検証を”

元銀行員で金融業界に詳しい東洋大学国際学部の野崎浩成教授によりますと、貸金庫のサービスは、防犯面のほか、地震や火災などから財産を守ることができるという防災面でも顧客からニーズがあるということです。

一方、銀行側にとっては安定的な手数料が入ることに加え、貸金庫を利用する顧客から財産について相談を受ける機会を得られるメリットがあるということです。

貸金庫の管理責任を負った行員によって顧客の財産が盗まれるという今回の事件について、野崎教授は「過去にも銀行の信頼や信用が揺らぐ事案はあったが、今回の事件は別次元といえるほど非常に劣悪だ。銀行に対して資産の相談をすることをためらう顧客も出てくる可能性があり、銀行のビジネスモデルにも影響が出るのではないか。抑止効果のために貸金庫の部屋にカメラを設置したり、性善説にたった管理側の業務運営も再検証する必要がある」と話しています。

《事件の経緯》

三菱UFJ銀行によりますと、貸金庫の利用客から「貸金庫に入れていたものが減っている」といった相談が寄せられたことがきっかけとなり、去年10月、元行員による盗みの疑いが発覚したということです。

銀行が元行員に確認したところ、盗んだことを認め、去年懲戒解雇にした上で事案を公表していました。

銀行によりますと、被害にあったのは練馬支店と玉川支店の貸金庫を利用していた少なくともおよそ60人、被害額は時価にして10数億円にのぼるということです。

先月、警視庁が銀行からの刑事告発を受理して捜査を進めていました。

金庫を無断で開ける手口は

三菱UFJ銀行によりますと、貸金庫の顧客には部屋に入るためのカードキーと金庫そのものの鍵が渡されています。

一方、行員が顧客の立ち会いなしに金庫を空けることは通常、想定されていませんが、銀行側は顧客が金庫の鍵を無くしてしまった場合に備えて「予備鍵」と呼ばれるスペアキーを保管していて、この予備鍵と金庫の「マスターキー」の2つがあれば、金庫を開けることが可能だということです。

「予備鍵」は顧客と銀行側の管理者の2つの印鑑で割り印を押した封筒に入れて、保管されているということですが、容疑者はこの「予備鍵」の管理責任者で、無断で鍵を取り出していたとみられています。

【動画】記者解説「今後の捜査は」

※14日午後9時のニュースで放送した動画です。
データ放送ではご覧になれません。

警視庁クラブの小山志央理記者の解説です。

Q.現在の捜査の状況について。

A.逮捕された元行員は、警視庁の要請を受けて出頭したあと、練馬警察署で取り調べを受けていましたが、現在は留置される前の診療を医療機関で受けているとみられます。

Q.今後の捜査の焦点は?

A.銀行の説明によりますと、被害を受けた貸金庫の利用者は60人。被害額は時価にして10数億円にのぼるということです。これらについて、どこまで裏付けて立件できるかが、1つのポイントです。

警視庁は、事案が公表されてから2か月弱という、短期間での逮捕に踏み切りました。事件への社会の関心が高まる中で、容疑者への影響を懸念し、立件を急いだ可能性もあります。

今回は貸金庫の利用者2人の金塊を盗んだ容疑ですが、ほかの利用者からも被害の状況などを聞き取って、立証していく必要があります。

捜査関係者によりますと、元行員は現金のほか、金塊などを盗んで複数の質店に持ち込み、現金に換えていました。盗んだ物品について、「記録」も残していたということで、これらの「記録」も捜査の裏付けになったとみられます。

換金したカネは投資に回していたということで、警視庁は元行員が盗みを繰り返すようになった動機やいきさつについても詳しく調べる方針です。

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