境港市の水木しげるロード、「脱行政依存」知恵絞る
漫画「ゲゲゲの鬼太郎」の作者、水木しげるさんの故郷で、主人公の鬼太郎にちなんだ妖怪によるまちおこしに取り組む鳥取県境港市の水木しげるロード。国内有数の漁獲量を誇る港町だが、2年連続で観光客が300万人を突破し、中国地方有数の観光地の仲間入りを果たすまでになった。こうした成長ぶりの背景には行政の補助金に頼らず、ユニークな企画を連発するなど知恵を絞って情報発信してきた観光関係者の取り組みがある。
水木しげるロードは、JR境港駅前から本町商店街のアーケードまでの約800メートルの区間。最大の目玉は道路沿いに立ち並ぶ139体の妖怪ブロンズ像で、駅前から写真を撮ったり、触ったりしながら歩いていると、いつの間にか商店街に誘導される仕掛けだ。
妖怪によるまちおこしは1993年にスタート。だが、2003年の水木しげる記念館の開館を機に、財政難から境港市が水木ロードのハード整備を打ち切り、当初の23体から86体まで増えていた妖怪ブロンズ像も、それ以上の増設が見込めない状況になった。
「歯が抜けたようにブロンズ像のない空白区間があると、ブロンズ像の設置効果が薄れるため、増設が必要だった。行政が金を出せないのなら、スポンサーを集めてやろうと考えた」。同市観光協会の桝田知身会長は当時をこう振り返る。
民間出身で04年に会長と記念館長に就任したが、記念館のオープン効果は早くも薄れており、入館者数が20万人から17万人に、水木ロードの観光客数も85万人から78万人にそれぞれ減少していた。「このまま何の対策も打たずにいると、先細りになり、客がどんどん減少していくのは間違いない、という危機感があった」(桝田会長)という。
そこでスポンサーの名前を妖怪ブロンズ像の台座に入れる特典を付け、1体100万円で05年にスポンサーを全国公募。1年で29体の応募があり、ブロンズ像がなかった150メートルの区間が一気に埋まった。06年には「妖怪検定」「妖怪そっくりコンテスト」「妖怪川柳」の三大イベントを始めるなど、これまでに100を超えるユニークな企画を連発してきた。
10年には水木さん夫妻をモデルにしたNHKドラマ「ゲゲゲの女房」のヒットという追い風も加わり、それまでのピーク(08年の172万人)の約2倍の372万人を記録。岡山県倉敷市の倉敷美観地区(350万人)や広島県廿日市市の宮島(347万人)と、中国地方の代表的な観光地も上回った。
ただ、昨年は宮島が水族館のリニューアルで363万人と過去最多の観光客を集める一方、水木ロードは「ゲゲゲ効果」が薄れて減少。それでも以前のピークを大きく上回る322万人を集めた。さらに効果が薄れる今年は270万人の集客を目指す。
実際、今年2月までの観光客数は昨年を1割程度下回る水準で、集客力の底上げは続いている。市観光協は「経済のグローバル化とともに競争が激化するなかで、妖怪世界や水木先生の人生観という別の価値観に『癒やし』を見いだして支持されていることも人気が急落しない理由になっているようだ」と分析する。
地方では過疎化が進み、各地で地域活性化を目指す取り組みが相次いでいるが、「金がない、人がいない」と、壁にぶつかりがち。妖怪という素材は仕掛けがしやすいとはいえ、いわば「金が出せないなら知恵を出せ」という水木ロードの粘り強い取り組みは、地域活性化のあり方に一石を投じている。
(鳥取支局長 青木志成)