岐阜県内でも特に外国人旅行者が増えたのが、高山市などの飛騨地域です。
このうち古い町並みが残る高山市中心部はJRの駅に加え、高速バスのターミナルもあり、都市部からアクセスしやすいこともあって連日、多くの外国人旅行者の姿が見られます。
訪日外国人3686万人余 コロナ禍前上回り最多 岐阜が急増なぜ?
去年1年間に日本を訪れた外国人旅行者は3686万人あまりとなり、コロナ禍前の2019年を15%上回って過去最多となりました。
特に急増しているのが岐阜県です。
その背景には世界的なヒットとなったドラマの存在がありました。
隠れた”観光ハブ”高山
さらに高山市の周囲には世界遺産の合掌造り集落で知られる「白川郷」や、長野県松本市や石川県金沢市など人気の観光地があり、「飛騨・高山観光コンベンション協会」によりますと、長期滞在する外国人にとって“観光のハブ”になっているということです。
こうした状況を受けて、市内では宿泊施設の建設が相次いでいて、市内の客室数は2019年には3400室ほどでしたが、ことし以降に開業が決まっているものを合わせるとおよそ5000室に増える見込みです。
急増の背景にドラマの影響も
また、岐阜県を訪れる外国人旅行者が増えている背景には今、話題になっているドラマ「SHOGUN 将軍」の効果もあります。
俳優の真田広之さんがプロデュース・主演を務め、ゴールデングローブ賞のテレビドラマ部門の作品賞に選ばれるなど世界的なヒットとなったドラマ「SHOGUN 将軍」では「関ヶ原の戦い」前夜が舞台となっています。
ドラマの配信が始まって以降、岐阜県関ケ原町にある岐阜関ケ原古戦場記念館には戦国武将に関する展示などを目当てに外国人旅行者が相次いで訪れていて、去年1年間に配布した外国語のパンフレットの数は2023年に比べて2倍以上に増加したということです。
家族でドラマを見たというオーストラリアから来た女性
「関ケ原の古戦場を見たいと思って来ました。施設では英語の字幕もあり、とても楽しめました」
ドラマをきっかけに台湾から来たという男性
「日本がどのように統一されたかがとても興味深いです。収集品や武将の陣地を見渡せる展望室がすばらしいです」
岐阜関ケ原古戦場記念館 梅本雅史副館長
「ドラマで興味・関心を持っていただき、より多くの外国人の方に来てもらいたいです」
訪日外国人旅行者 3686万人余 過去最多に
日本政府観光局によりますと、去年1年間に日本を訪れた外国人旅行者は推計で3686万9900人となりました。コロナ禍前の2019年の3188万人から、およそ500万人、率にして15%増加し過去最多となりました。
地域別に2019年と比べると韓国が57.9%、台湾が23.6%、アメリカが58.1%それぞれ増加した一方、中国は27.2%減少しています。
また、去年1年間に日本を訪れた外国人旅行者が国内で消費した金額は、速報値でおよそ8兆1395億円と、前の年を上回って過去最高を更新し、2019年と比べると69%増加しました。
政府は、2030年に日本を訪れる外国人旅行者を6000万人に消費額を15兆円まで大幅に引き上げる目標を掲げています。
インバウンド需要の好調さが鮮明になる一方で、オーバーツーリズムへの対策や三大都市圏に集中する外国人旅行者の地方への誘客、さらに、空港などの受け入れ体制の整備などが課題となっていて、外国人旅行者による経済効果を高めるための取り組みが求められています。
【課題1】地方への分散化
外国人旅行者は三大都市圏に訪問先が集中し、経済効果を期待する地方などへの分散化が課題となります。
観光庁の調査によりますと、外国人宿泊者数は、去年10月時点で東京・名古屋・大阪の三大都市圏に68%が集中しています。
コロナ禍前の2019年の同じ時期と比べるとおよそ5ポイント増加し、3大都市圏に集中する傾向が強まっています。
こうしたなか政府は、地方などへの分散化に向けた取り組みを強化しています。日本食や日本での買い物に加え、伝統文化への関心も高まっているとして、地域特有の食文化を学ぶ体験ツアーや、城や寺、神社などの歴史的な資源を活用した旅行商品の開発などを促します。取り組みを行う民間や自治体に対して補助金などの形で支援しています。
また、消費額による経済効果が大きいとして、富裕層の外国人をターゲットにした事業も進めています。
長野県と岐阜県にまたがる「松本・高山エリア」や、「鳥取・島根エリア」など、全国14の地域を「モデル観光地」に選定し、消費額の拡大につながる付加価値の高い観光や宿泊施設を提供する取り組みを支援しています。
すでに大洲城や道後温泉がある愛媛県や、金沢などの観光地がある石川県、それに飛騨・高山などの観光地がある岐阜県など地方の中でも2023年と比べて外国人宿泊者数が大幅に増加する事例も出始めていて、外国人旅行者による経済効果を全国に行き渡らせる「分散化」が求められています。
【課題2】オーバーツーリズム対策
観光地に旅行者が集中し、公共交通の混雑やマナー違反などで地域の暮らしに影響を与えるオーバーツーリズムへの対策は、有名観光地など一部の自治体で始まっています。
京都市では、特に路線バスの混雑が課題となっています。
その対策として、去年6月からは通常のおよそ2倍の運賃で京都駅と市内の観光地を結ぶ「観光特急バス」の運行を始めました。
北海道美瑛町では観光客が農地に立ち入るなどの迷惑行為が相次いでいました。
町では、人の立ち入りを検知するAIを活用した監視カメラを設置し、無断侵入に対して外国語で警告音声を流し効果をあげているということです。
政府としては、対策を強化する自治体などに対して財政支援を行うとともに、こうした対策の事例をほかの地域にも共有することにしています。
観光客の増加による経済効果に大きな期待がかかるなかで、それをかき消さない対策を打ち出せるかや、観光振興とオーバーツーリズム対策とのバランスをどう取るかが課題となります。
【課題3】航空路線の拡大・空港受け入れ体制
外国人旅行者の拡大に向けては、航空路線の拡大や空港の受け入れ体制が課題となります。
政府は、成田空港と福岡空港で滑走路の増設計画を進めているほか、関西空港と神戸空港では飛行経路を見直し、それぞれ航空機の発着回数の増加を図っています。
ANAホールディングスの平澤寿一専務は「アジアやアメリカなどの地域の需要が増えると予測し、国際線事業は大きく発展していく事業だ。政府が目標とする6000万人に向けた伸びしろは大いにある」と述べました。
その一方で、「空港の発着容量が増えることで増便することができるが、航空会社が行わなければいけないのは、航空機の購入などの投資や、パイロットや整備士などの採用と育成で、われわれとしてもしっかりと対応していきたい」と述べました。
空港の地上スタッフが不足する課題については、「人手不足を解消するために採用は積極的に行うが、一方で、労働力人口の不足は日本全体の課題で、切り札となるのは空港業務などにおけるDX化の推進だ。ただ、航空会社1社だけでは解決できない課題もあるので、国や空港の運営会社などと協力しながら、新しい技術を活用した省力化・省人化を進め生産性の向上を図りたい」と述べました。
また、地方への分散化については「コロナ禍で羽田や成田などの主要路線の運航規模を縮小した影響で、現在は、まずそちらの路線の回復を優先的に行っている状況だ。地方からの国際線の運航はすぐにはできないが、羽田・成田からの国内線の利用を提案するとともに、地方空港への国際線就航は中長期的な課題として検討していきたい」と述べました。
そのうえで、政府への要望として「世界各地で空港間競争が激化し、使い勝手がいい空港にならなければ、日本を選んでもらえなくなる。出入国の手続きや手荷物の搬送で品質の高いサービスを提供することは航空会社だけではできないことなので、政策的なサポートをぜひともお願いしたい」と述べました。
【課題4】宿泊業界では人手不足が深刻に
高山市の宿泊業界では観光客が増える一方、人手不足が深刻化していて、対策を迫られています。
このうち市内中心部にある旅館「本陣 平野屋」は古い町並みの近くにあり、外国人観光客にも人気ですが、長年、人手不足に悩まされてきました。
そこで、外国人をはじめとする地元以外の人材を受け入れようとコロナ禍以降、利用が減っていた結婚式場を2023年、従業員向けの寮に改装しました。
この旅館には現在、ネパールやミャンマーなどから来た20人以上の外国人が働いていますが、慣れない土地での新生活を少しでも安心して過ごしてもらおうと部屋には家具や家電製品も用意されています。
さらにこの旅館では宿泊客のニーズの変化にあわせた施設の改修や業務の見直しも進めています。このうち食事については畳の上に座るスタイルよりいすを好む人が増えていることから新たに食事用の個室を整備しました。
これにより部屋での食事が減り、配膳や片づけなどにかかる業務が大幅に削減できたということです。さらに一部の和室をベッドのある和洋室への改装も進めたことで、布団を敷く手間も省けたとしています。
旅館の女将 有巣栄里子さん
「地域の宿泊業は慢性的に人手不足で、最近では社員が足りないために予約を取れないということも起きています。さらに業務改革を行っていきたいと思っていますが、日本旅館らしさも守っていきたいです」
観光庁長官 政府目標に自信
観光庁の秡川直也長官は会見で2030年に6000万人に増やす政府の目標について「目標を設定されたときはかなり意欲的だと感じたが、みんなで一生懸命取り組んで試行錯誤すれば案外いけるものだと思っている」と述べました。
その上で、オーバーツーリズムへの対策について「地域における課題や実情がそれぞれあると思うので、観光庁としても後押しをして良い成果を出し、その取り組みを全体で共有するという取り組みを続けていきたい」と述べました。
また、外国人旅行者の地方への誘客については「消費額でいうと、地方に泊まるということが非常に大きい。リピーターも増えてきていると思うので、ことしはもっと地方に行ってもらうことに力を入れたい」と述べました。