【詳細】内乱首謀した疑いで拘束 ユン大統領 取り調べ終了

韓国のユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領が「非常戒厳」を宣言したことをめぐり、警察などでつくる合同捜査本部は15日、内乱を首謀した疑いでユン大統領を拘束し、取り調べを行っていましたが、複数の韓国メディアによりますとさきほど午後9時半すぎに取り調べは終了したということです。
ソウル近郊にある捜査機関からは、大統領を乗せたとみられる車が出発し、大統領は拘置所に移送されたと伝えています。

「非常戒厳」を宣言した韓国のユン大統領をめぐり、警察などでつくる合同捜査本部は内乱を首謀した疑いで15日午前、ユン大統領の拘束令状を執行しました。

そして、大統領公邸から車で出たユン大統領は、合同捜査本部に入っている、ソウル近郊にある「高位公職者犯罪捜査庁」の庁舎に移動しました。

「高位公職者犯罪捜査庁」は、200ページに及ぶユン大統領への質問書を用意したということですが、合同捜査本部の関係者によりますと、大統領は供述を拒否しているということです。

合同捜査本部が引き続き身柄を確保して捜査する必要があると判断する場合は、拘束から48時間以内に、裁判所に逮捕状を請求することになっていて、ユン大統領が逮捕されるかどうかが今後の焦点となります。

ユン大統領「不法な捜査だが出頭に応じる」談話全文

ユン大統領は合同捜査本部による拘束令状が執行される前に自身の考えを録画していました。発表された談話は次の通りです。

尊敬する国民の皆さん、この間、お元気でしたか。
私を応援して、たくさん支持してくださったことに対し、本当に感謝の言葉を申し上げます。残念ながら、この国では法がすべて崩れさりました。
捜査権のない機関に令状が発付され、また、令状審査権のない裁判所が拘束令状と押収捜索令状を発付するのを見ながら、そして、捜査機関が偽りの公文書を発付して国民を欺瞞する、このような不法の、不法の、不法が行われ、無効な令状によって手続きを強圧的に進めるのを見て、本当に嘆かわしくならざるをえません。私は不利益を受けても国民の皆さんが今後このような刑事事件を経験するときにはこんなことが本当にないよう願っています。私はきょう彼らが警護保安区域に消防装備を導入し侵入してくるのを見て、あってはならない流血事態を防ぐために、不法捜査ではありますが、高位公職者犯罪捜査庁への出頭に応じることにしました。
しかし、私はこの捜査を認めているわけではありません。
大韓民国の憲法と法体系を守らなければならない大統領として、このような不法で無効の手続きに応じるのはこれを認めるのではなく望まない流血事態を防ぐためという気持ちからだけです。
国民の皆様がこれまで、特にわれわれの若者たちが自由民主主義の大切さを本当に再認識するようになり、これに対する情熱を見せて下さるのを見て、私は今は法が崩れ、漆黒のように暗い時代ですが、この国の未来には希望があるという考えをもつようになりました。
国民の皆様、どうぞお元気で頑張ってください。ありがとうございます。

【国際部デスク解説】

Q 前回3日も令状執行を試みた合同捜査本部だが、このときは警護庁が頑強に抵抗。数時間で諦めたが、今回は一転、物理的な衝突もなく、大統領が出頭に応じることに。背景に何があるのか。

A 捜査機関は「大統領警護庁が積極的に令状の執行を阻もうとしなかった」と明らかにしています。

韓国メディアによると、15日は警察を阻む動きをみずから拒んだ警護庁の要員もいたということです。

実はこれまで警護庁の内部はユン大統領の拘束をめぐって亀裂が広がっていたと報じられています。

たとえば警護庁の幹部がみずから内部情報を捜査機関に事前に伝えていたことが明らかになっていました。

この幹部は強硬派で知られる警護庁次長の指示に従わずに「職員に休暇を指示する」と発言して、サボタージュも辞さない構えを示していたと韓国の大手メディアが伝えていました。

捜査機関が裁判所の手続きをへてとった令状の執行を妨害することは適切な行為なのか、大統領警護の範囲を超えて、ユン・ソンニョル氏・個人を守るいわば「親衛隊」のような役割になっていないか、そんな疑問が大統領警護庁職員たちのなかであったとしても不思議ではありません。

さらに捜査機関は、警護庁が頑強に抵抗した場合は、2、3日かけて1人ずつ公務執行妨害の容疑で警護庁職員を拘束していくことも検討していたと韓国メディアは報じていて、そうした捜査機関の圧力も影響した可能性はあります。

Q 今後、捜査はどう進むのか? 合同捜査本部は48時間以内に裁判所に逮捕状を請求するか判断する必要があるが…。

A 韓国の法律では、48時間以上の拘束が必要な場合、「拘束令状」の次の段階として「逮捕状」の請求が必要です。

「逮捕状」が出ないと釈放になるのですが、今回は現職大統領の拘束という前例のない事態で、次の「逮捕状」を裁判所が認めないのであれば、そもそも最初から「拘束令状」も認めなかった可能性もあるので、「逮捕」の可能性も十分にあるといえます。

韓国の世論調査でユン政権を支えてきた与党の支持率が上がってきている結果が出ていました。

政治の混乱が続くなかで、野党があまりにも政府やユン大統領を批判していることで政治の安定が見通せないと野党に嫌気がさして与党が受け皿になったことも考えられます。

ユン大統領の拘束は大きな節目ですが、韓国の市民が切実に願っている政治の安定にはまだ時間がかかりそうです。

大統領は3坪ほどの独房に入る可能性 今後の拘束は

ユン大統領は、ソウル近郊のキョンギ(京畿)道クァチョン(果川)にある「高位公職者犯罪捜査庁」の庁舎3階で取り調べを受けています。

通信社の連合ニュースによりますと、取り調べは、やりとりの映像を録画できる部屋で行われますが、ユン大統領は供述や録画を拒否しているということです。

また、取調室の向かいにはソファーを備えた休憩用のスペースも設けられ、ユン大統領の食事はこの休憩用のスペースに運ばれる可能性があると報じられています。

また、取り調べ後の身柄は、捜査機関から3キロほど離れた拘置所に移送される見通しですが、現職の大統領が拘束されて拘置所に入った前例がないため、警護などの対応について協議が行われているということです。

連合ニュースは、拘置所に移される場合、ユン大統領は3坪ほどの独房に入る可能性があると伝えています。

今後の拘束について、韓国の刑事訴訟法は「拘束令状」によって身柄を拘束できる期間を最長で48時間と定めています。

それ以上、拘束して捜査を続ける場合には、今度は裁判所に「逮捕状」を請求する必要があり、「逮捕状」が認められれば、最長で20日間の拘束が可能になります。

裁判所が認めなかった場合、ユン大統領は釈放されます。

捜査機関は48時間以内に判断

捜査機関は拘束から48時間以内に裁判所に逮捕状を請求するかどうか判断する必要があります。
裁判所から逮捕状が認められ執行すれば、さらに身柄を確保して捜査を続けることができます。一方、捜査機関が逮捕状を請求しなかった場合や、裁判所が逮捕状を認めなかった場合は、ユン大統領は釈放されることになります。

《15日の経過》

午前4時半ごろ

捜査員らがソウル市内にある大統領公邸の前に到着

「非常戒厳」を宣言した韓国のユン・ソンニョル大統領をめぐり、警察などでつくる合同捜査本部は、内乱を首謀した疑いで大統領の拘束令状をとっていて、拘束令状の執行を改めて試みるため15日午前4時半ごろ、捜査員らがソウル市内にある大統領公邸の前に到着しました。

公邸のゲート前では、捜査員らが拘束令状を提示し、これに対しユン大統領の弁護士や大統領警護庁側が反発して抵抗していましたが、午前7時半ごろ、捜査員らははしごを使って大統領公邸の敷地に入りました。

捜査員らは、大統領公邸の建物に向かっているとみられます。

合同捜査本部は、今月3日にも令状の執行を試みましたが、敷地内の公邸の建物まで200メートルほどの場所で大統領警護庁の関係者らによって阻まれ、執行できませんでした。

今回は捜査員およそ1000人を投入すると伝えられていますが、警護庁は14日「不法な令状執行には法律に沿ってマニュアル通り対応する」としていて、このあと警護庁側がどのように対応するのかが焦点となっています。

午前7時半ごろ

捜査員らがはしごを使って大統領公邸の敷地に入る

韓国のユン・ソンニョル大統領への捜査をめぐり、大統領の拘束令状の執行を改めて試みるため、合同捜査本部の捜査員らが15日午前、大統領公邸の敷地に入りました。

合同捜査本部は、ユン大統領側と拘束令状の執行について調整中だと明らかにしました。

「非常戒厳」を宣言した韓国のユン・ソンニョル大統領をめぐり、警察などでつくる合同捜査本部は、内乱を首謀した疑いで大統領の拘束令状をとっていて、拘束令状の執行を改めて試みるため、15日7時半ごろ、捜査員らがはしごを使って大統領公邸の敷地に入りました。

午前9時ごろ

捜査を担う関係者 “拘束令状の執行を調整中”

合同捜査本部に入っている政府高官などの捜査を担う「高位公職者犯罪捜査庁」の関係者は、午前9時ごろ記者団の取材に応じ、ユン大統領側と拘束令状の執行について現在、調整中だと明らかにしました。

また、これまでのところ警護庁との間で物理的な衝突はなかったとしています。

そして、この関係者は現時点でユン大統領による自主的な出頭は想定しておらず、あくまで令状の執行を目指す考えを強調しました。

午前10時半すぎ

ユン大統領の拘束令状を執行したと発表 合同捜査本部

「非常戒厳」を宣言した韓国のユン・ソンニョル大統領をめぐり、警察などでつくる合同捜査本部は、内乱を首謀した疑いで大統領の拘束令状をとっていて、拘束令状の執行を改めて試みるため、15日午前7時半ごろ、捜査員らがはしごを使って大統領公邸の敷地に入りました。

警護庁との間で物理的な衝突はなかったとしていて、合同捜査本部は、15日午前10時半すぎ、内乱を首謀した疑いでユン大統領の拘束令状を執行したと発表しました。

韓国で現職の大統領が拘束されるのは初めてです。

午前11時前

ユン大統領を乗せたとみられる車 合同捜査本部が入る庁舎に到着

韓国の複数のメディアは午前10時半すぎにユン大統領を乗せたとみられる車の列が、ソウル市内の大統領公邸を出発したと伝えました。

公共放送、KBSの映像では車列がソウル市内を走って、午前11時前に合同捜査本部に入る「高位公職者犯罪捜査庁」の庁舎に到着し、ユン大統領とみられる人物が車両から降りたとする様子も伝えられました。

ユン大統領とみられる人物

午前11時

ソウル近郊の庁舎でユン大統領の取り調べを開始

内乱を首謀した疑いで韓国のユン・ソンニョル大統領の拘束令状が執行されたことを受けて、合同捜査本部に入っている「高位公職者犯罪捜査庁」は、午前11時から、ソウル近郊の庁舎でユン大統領の取り調べを始めたと発表しました。

ソウル市民からは拘束に賛成の声と一方的の声

ユン大統領が拘束されたことについて、ソウルの市民からは、拘束に賛成する声の一方、捜査については力ずくで押さ込もうとしていて一方的だという意見も聞かれました。

30代の女性
「『非常戒厳』は間違っており、拘束されてよかった。法律の手続きに従って大統領は捜査をしっかり受けてほしい」

70代の男性
「法律を恣意的に解釈して『非常戒厳』を宣言したので、私は全く賛成しなかった。前回、執行されなかったのでもどかしく思って見ていたが、今回、事故なく拘束されて幸いだったと思う」

50代の男性
「国が混乱したので、大統領職から退き、新しい指導者のもとで国が安定してほしい」

一方で…。

別の50代の男性
「捜査機関のやり方はあまりにも強圧的だった。投票した1人として、ユン大統領を守れなかったことが悔しい」

繰り返される韓国大統領の刑事訴追

韓国では大統領が退任後に逮捕されたり、事情聴取を受けたりすることが繰り返されてきました。

▽1980年から1988年まで大統領を務めたチョン・ドゥファン(全斗煥)氏は退任後に無期懲役
▽1988年から1993年までが任期のノ・テウ(盧泰愚)氏は、退任後に懲役17年の実刑判決を受けました。

2人は軍事政権時代に民主化を求める市民を弾圧した事件などで罪に問われ、その後、恩赦で釈放されました。

▽2003年から2008年まで大統領を務めたノ・ムヒョン(盧武鉉)氏は、親族が不正資金を受け取ったとされる事件で検察の事情聴取を受け、事件への関与を否定しましたが、聴取の3週間後にみずから命を絶ちました。

▽2008年から2013年まで在任したイ・ミョンバク(李明博)氏は、退任後に収賄や横領などの罪に問われ、懲役17年の実刑判決を受け、その後、恩赦で釈放されました。

▽2013年から2017年まで大統領を務めたパク・クネ(朴槿恵)氏は、弾劾・罷免されて大統領職を追われたあとに、収賄事件で逮捕され、実刑判決を受けて服役しましたが、その後、恩赦で釈放されました。

ユン大統領の弁護団「不法な拘束に挫折しない」

ユン大統領が拘束されたことを受けて、大統領の弁護団がコメントを発表しました。

この中で、拘束の経緯について「捜査機関が不法で不当な令状で暴力的に大統領公邸に侵入し、大統領はその過程で、市民がけがをしたという報告を受けて市民の安全を心配した」と説明し、大統領はやむを得ず任意で出頭することを協議するよう弁護団に指示したと明らかにしました。

そして「不法な拘束に大統領と弁護団は挫折しない。国民が皆、大統領の弁護人になって、北の思想を持つ勢力や反国家勢力に立ち向かって自由民主主義と法治主義をともに立て直してもらえればありがたい」としています。

午後

捜査本部の関係者 大統領は供述を拒否していると明らかに

ユン大統領について、内乱を首謀した疑いで拘束し取り調べを行っている合同捜査本部の関係者が15日午後、記者団の取材に応じ、午前から午後にかけて2時間半ほど取り調べを行ったとした上で、ユン大統領は供述を拒否していると明らかにしました。

合同捜査本部は休憩をはさんだあと、午後2時40分から再び取り調べを開始するとしています。

午後2時すぎ

ユン大統領 SNSに国民向けに直筆の文章を投稿

ユン大統領のフェイスブックには、拘束令状が執行されたあとの15日午後2時すぎ「大統領がみずから万年筆を手に取り一晩中かけて書いた国民にささげる文章」とする手書きの文章の画像が投稿されました。

このなかで「非常戒厳」を宣言したことについて「戒厳は犯罪ではなく、国家危機を克服するための大統領の権限行使である」と改めて主張しています。

さらに、短時間で必要最小限の兵力を投入したため内乱にはあたらないとした上で「厳戒=内乱というフレームで弾劾訴追された」などと主張しています。

そして「司法の判断がどうなるか分からないが、この戒厳が憲法を守り国を救うものなのかどうか、国民の皆様はよく分かっていると信じている」とも書かれています。

林官房長官「韓国政府と引き続き緊密に意思疎通を」

林官房長官は午前の記者会見で「他国の内政へのコメントは差し控えるが、韓国国内の一連の動きには特段かつ重大な関心を持って注視している。韓国はわが国にとって国際社会におけるさまざまな課題への対応にパートナーとして協力していくべき重要な隣国であり、今の戦略環境のもと日韓関係の重要性は変わらない」と述べました。

その上で「先の岩屋外務大臣の韓国訪問では北朝鮮への対応を含め日韓、日韓米が緊密に連携していく重要性を改めて確認しており、韓国政府と引き続き緊密に意思疎通をしていく」と述べました。

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