わがことのように池永を語る。『高校生離れしてるよ。技術がね! なあ、すごいだろ!』。ここで父はいったん座り、私が『へぇーすごいんだね』と目を輝かせて感心すると解説が続く。『球はなぁ。剛速球、速ぇーぞ、制球はグンバツ(抜群)。すぐ追い込む。それとドロップ。分かるか? ドロップだぞ!』
ここで再びスタンドアップだ。腕を伸ばして人さし指を出しそこから弧を描きながら爪先を示した。『池永のドロップはなぁ、この辺からこうやって曲がるんだ。こうやって! 二階から落ちて来るようなもんだ。すげぇだろ! 誰もまともにゃ打てやしねえ! ざまぁみろ!』と酔いとともに誇張されだんだん乱暴になってくる。
さらにエピソードになると一段と気持ちが籠る。『池永はなぁ、投げるだけじゃねえ。よく打つ。大黒柱よ。で、ハッスルプレーもする。ありゃ夏の2回戦だ。相手は長野の、うーんほら松、松、松…、そうそう松商学園だ!』。池永の好投もあり5―0とリードして終盤7回裏の下関商業の攻撃、ヒットを打って出塁した池永が相手バッテリーのミスを突いて積極走塁をした。
その時アクシデントが起きた。『キャッチャーが後逸したらなぁ。池永は二塁へ走った。こりゃまあ当たり前だわなぁ。そのあとだ。相手がもたもたしてたから三塁を狙った。そしたら送球が来た。池永は手から突っ込んだんだ。タッチを避けようとしたらちょっと詰まって(ベースとの距離)な。手ぇついて左肩痛めた。スゲェ痛そうだったー!』
5点リードの終盤で投手の池永なら三塁は自重しても良かったはずだ。『あれはなぁ、池永が足速かったからだ。中学時代は陸上選手さ。運動神経がグンバツ。だから(三塁へ)行ちゃってけがした。瞬間、終わったと思ったね』と父はまるで今自分がけがを負ったような痛そうな顔をした。左肩脱臼だった。
8回表のマウンドで池永は投球練習1球でベンチに下がった。そしてなかなか出てこなかったそうだ。事後の記事で痛み止めを打って患部を固定していたことを父も知ったそうだが『出てきてビックリだ!。痛そうだから絶対無理だと思った』