pixivは2024年5月28日付でプライバシーポリシーを改定しました。改訂履歴
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フランドールは転んだ。
つまずいたからだ。
石に。
なんでこんなところに。
フランドールは思った。
拾い。
思いきり投げとばす。
石は。
壁にあたり。
跳ね返り。
天井にあたり。
跳ね返り。
フランドールの足元に戻ってきた。
『おかえり』
フランドールは石を拾うと。
ポケットにしまい。
ぽてぽてと、上へと続く階段にむかった。
『咲夜』
『どうされましたか、フランドールお嬢さま』
『石を拾った』
『まあ、小汚い』
フランドールは無駄に長い廊下に。
疲れ。
座りこんでいるところに現れた。
咲夜に石を見せていた。
咲夜は石を気に入らなかったようだ。
そんなものポイしてくださいと。
フランドールに言う。
『でも、私、この石、犬だと思うの』
『犬、ですか?』
『そう、犬。帰ってくるよ』
フランドールは石を握り。
もう一度。
思いきり、投げとばした。
石は。
天井にあたり。
跳ね返り。
ガラスを割って。
外に飛んでいった。
『家出、しちゃったみたい』
『……そうみたいですね』
フランドールはしゅんとして。
俯いてしまった。
どうやら、気に入っていたらしい。
あまりの落ち込みように。
咲夜は時を止めた。
『あ、あらあら』
『どうしたの、咲夜?』
『あそこの、廊下の影の隅の横に隠れようとして隠れきれていないのは先ほどの石ではないでしょうか』
なるほど。
廊下の影の隅の横に隠れようとして隠れきれていないのは。
先ほどの石であった。
『咲夜』
『な、なんでしょう?』
『ほらね』
フランドールは石を両手で拾い。
それを掲げて。
咲夜に自慢気に見せた。
『帰ってきたでしょ』
『ええ、はい……賢い犬ですわね』
『うん』
どこか慈愛にみちた表情で。
フランドールは石を。
咲夜はフランドールを見ていた。
ああ、そうだ。
一言呟くと。
咲夜は消えて。
また、現れた。
『これで、洗ってさしあげてはいかがでしょうか』
手には桶。
あと、手ぬぐい。
『そうだね、もう、小汚いなんて、言われたくないもの』
最後に微妙な笑顔を残して。
咲夜は、失礼いたしますと。
その場を後にした。
フランドールは桶に水をいれようと思った。
できればたくさん、たくさん注いで。
豪華なプールみたいにしてあげようと。
そう、思った。
中庭。
『美鈴』
『はい、フランドール嬢』
『水がほしい、石を拾ったの』
桶と石を見せる。
『ほお、この石は……』
『知ってるの、美鈴?』
『先ほど、凄い勢いで紅魔館から出て行った石ではないですか、もう帰られていたとは』
『家出してたの、咲夜が汚いって、だから、洗うの』
あはは、確かに汚れていますしねえ、なんて。
笑いながら美鈴は桶を水でみたし。
はい、どうぞ、と。
フランドールに手渡した。
フランドールは石をその中にいれると。
しゃがみ。
じーっと。
じーっと。
ただただ。
じっと、眺めていた。
なにが楽しいんだろうか。
美鈴は疑問に思ったが。
それを口に出すことはせず。
時間だけが過ぎていった。
しかし、もう一つ疑問が。
頭に思いは、浮かび。
ついついと、聞いてみる。
『……洗わないので?』
『……忘れてた』
はっとした顔になり。
忘れちゃってたの。夢中だったんだ。
などと照れた顔で物申された日には。
可愛いなあと。
美鈴は思うのだが。
それも口には出さず。
にこにこと笑顔で。
『はい、どうぞ』
と、手ぬぐいを差し出すに留める。
それが。
主人に忠義を尽くすということなのである。
フランドールは。
石についた汚れを水で落とす。
ざらざらとした感触であった石は。
つるつるとした感触へと変貌していた。
『きれい』
吸血鬼には毒である太陽の光も。
石にしたら美貌を際立たせるスポットライトのようなもので。
水をまとい、光を反射させる姿は。
まるで、宝石のようであった。
というか、宝石であった。
言うなれば。
フランドールの背中の羽についているアレであった。
『……前に、なくしたやつかもしれない』
『そういえば、形が似ていると思ってたんです』
綺麗に拭いた宝石を。
美鈴に頼み。
羽に戻してもらおうとするも。
どうにも。
合わない。
『おかしいですね、設置面がありません』
『新しいの、生えちゃったかも』
確かに。
フランドールの羽に宝石の欠けた部分は。
見当たらず。
そうかもしれませんねえ。
曖昧な返事を。
美鈴はかえすことしかできなかった。
『……どうしよう、これ』
フランドールは悩んでいた。
石は宝石になって。
その瞬間に。
犬ではなくなってしまった。
『どうしよう』
どうしようもなく。
どうしようもないので。
宝石をころころと転がす。
ころころ。
ころころ。
ころころ。
ころり。
止まった。
誰かの足にあたって。
止まった。
誰かに拾いあげられる。
誰だろう。
フランドールは視線を上へとあげた。
『お姉さま?』
『け、毛並みの良いワンちゃん、ね。可愛いわ』
何処かで、フランドールを見ていたのだろう。
レミリアは犬として。
それと接した。
可愛いわ。
可愛いわ。
レミリアは頬染めて宝石を、なで撫でる。
『お姉さま、犬じゃないの。宝石だったの』
『え、そうなの』
『うん……そうなの』
ふーん。
つまらなそうに。
ふふーん。
楽しそうに。
それでいて自信たっぷりに。
『いいえ、これは犬よ』
レミリアは言った。
服をまさぐり。
何やら探して、見つけると。
それをフランドールに見せた。
『なにこれ』
『首輪』
『首輪を?』
『こうする』
えいっ、と。
首輪を宝石につける。
ほら、まるで。
犬。
『……なのかな?』
フランドールは首輪がついただけでは。
宝石を犬とは思えなかった。
『なら、これで』
レミリアは服をまさぐり。
何やら探して、見つけると。
それをフランドールに見せた。
『なにこれ』
『尻尾』
『尻尾を?』
『こうする』
やっ、と。
尻尾を宝石につける。
ほら、まるで。
犬。
『……なのかな?』
フランドールは首輪と尻尾がついただけでは。
宝石を犬とは思えなかった。
『なら、これで』
レミリアは服をまさぐり。
何やら探して、見つけると。
それをフランドールに見せた。
『なにこれ』
『犬耳』
『犬耳を?』
『こうする』
とうっ、と。
犬耳を宝石につける。
ほら、まるで。
犬。
『犬だ』
フランドールは犬だと認識した。
『でしょう』
得意げなレミリアは。
どうぞ、と。
宝石をフランドールにさしだす。
『大事になさいね』
『大事にするね、お姉さま』
その晩。
フランドールは夢を見ました。
犬と遊ぶ夢。
夢の中では。
犬は本当に犬で。
フランドールも犬でした。
犬と犬は。
二人で二匹、仲良く。
わんわん。
わんわん。
遊んでいました。
犬は。
犬の言葉がわかります。
わんわん。
わんわん。
犬は。
犬のことが大好きなようです。
これからも一緒にいようね。
そんなことを言っているのでしょうか。
ふたりだけの秘密です。
でも。
見ていればわかります。
きっと、夢からさめても。
さめてしまっても。
ふたりを待っているのは。
夢のような日々なのでしょうから。
『……小悪魔、私の賢者の石知らない?』
『廊下でフランドール様と散歩してましたよ』