昔、近鉄バファローズというチームに入団が決まった某選手が、初めて本拠地・藤井寺球場に向かったときのこと。東京で生まれ育ったその選手は、初めての関西。藤井寺という地名すら初めて知ったほど。
タクシーに乗り、行き先を告げたが、その運転手さんも道に不案内。球場から随分、離れた場所で降ろされてしまった。
「うちの球団は、藤井寺という小さな街が本拠地だけれど、地元のファンからとても愛されている、アットホームなチームなんだ」
担当スカウトからそう教えられていた。が、その当時、藤井寺球場のナイター照明設置で、球場と一部の周辺住民はモメにモメていた。ナイターが行われたら、静かな住宅地の環境が激変するからだ。某選手が降り立った場所には、多数の立て看板。過激な文字が躍っていた。
「ナイター反対!」
「出ていけ、バファローズ!」
「市民の声を無視するな!」
どこが愛されている球団だよ?! メチャクチャ嫌われているじゃないか! 某選手は回顧する。
「道に迷ったおかげで、真実を知ることができた。時には、道に迷うこともいいもんだ」
現役ドラフトで巨人から阪神にやってきた畠投手が、鳴尾浜球場で〝迷子〟になりかけたという、ほのぼの話を聞いて思い出したのが、遠い昔の藤井寺の〝迷子〟事件。畠投手は、迷ったおかげで阪神ファンの優しさを早々と知ることができたから、プラスになっただろう。