経済・社会

2022.09.12 11:30

国連「人類の進歩が5年後退」 新型コロナや気候変動、ウクライナ侵攻で

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新型コロナウイルス感染症のパンデミック、気候変動の悪化、ウクライナ侵攻といった世界的危機は教育、平均寿命、生活水準面での数十年にわたる人類の進歩を世界中で後退させ始めている。国連が8日に発表した報告書で警告している。

国連開発計画(UNDP)は、パンデミックを中心とする過去2年間に立て続けに起こった未曾有の危機により人類の進歩が5年後退したと述べた。

これは世界的な問題で、国連が設定した人間開発指数が過去2年間に10カ国中9カ国で後退したとUNDPは強調した。人間開発指数は各国の生活水準、教育水準、平均寿命などを幅広く測定し、国内総生産(GDP)などの経済的要素とともに豊かさを評価するものだ。

UNDPは2020年と2021年に指数が世界的に低下したと指摘し、30年以上前に指数調査を開始して以来、2年連続で同指数が低下したのは初めてという。

全体として、この2年間は5年間の進歩を消し去り、人間開発を2016年の水準に戻したとUNDPは述べている。

南米、カリブ海諸国、サハラ以南のアフリカ、南アジアは特に大きな打撃を受けており、一部の国は回復し始めたものの進展にはムラがあり、多くの国にとって危機はまだ深まっているとUNDPは警告している。

今年の指数ランキングではスイス、ノルウェー、アイスランドが上位を占め、米国は21位だった。ニジェール、チャド、南スーダンが最下位だ。

過去2年間は新型コロナの大流行が不安定要因となっていたが洪水、干ばつ、暴風雨などの異常気象や災害を発生させている気候変動の悪化がさらに不安定にしている。パンデミックによる混乱は広範囲におよび新型コロナウイルスによる死亡やその他の健康被害のために明らかに寿命に影響を与えただけでなく、学校や職場の閉鎖、広範囲にわたる経済封鎖も引き起こした。

一部の国を除いて平均寿命が短くなり、米国の平均寿命は2年連続で低下した。全米学力調査の報告書によると、休校やその他の混乱によって米国の読解レベルは20年前に押し戻された。また黒人、ヒスパニック、多民族の生徒は白人生徒よりも混乱の影響を受け、多くの学校が遠隔教育に移行したためにテクノロジーへのアクセスがさらなる格差の拡大を招いていることがデータで示されている。

報告書ではウクライナでの戦争の影響については詳しく述べられていないが「計り知れない人的被害」をもたらしていると指摘している。数値化すれば、その影響は相当なものになりそうだ。ロシアとウクライナはともに農業大国であり、穀物をはじめとする食料の主要輸出国だ。ロシアは世界有数の肥料輸出国でもある。戦争でこれらの供給が途絶え、食料価格が高騰し、多くの人々が飢餓に瀕している。ロシアは世界最大のエネルギー輸出国の一つでもあり、価格の高騰によりエネルギー危機を引き起こしている。

UNDPチーフのアヒム・シュタイナーはインタビューで「2022年の見通しは厳しい。深刻な混乱が起きており、それは何年にもわたるだろう」と語った。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子

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2022.07.29 17:00

新型コロナはいま、どれほど危険なのか? 5つの疑問と回答

OSORIOartist / Shutterstock.com

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自分は安全なのか、それとも危険な状態にあるのか──? 新型コロナウイルスの感染者が再び急増するなか、自分自身や大切な人を守ることと、人生を楽しむこと(そして前向きに進んでいくこと)のバランスをどのように取ればいいのか、悩んでいる人は多いはずだ。

医師である筆者(米最大規模の統合医療システムの一つ、カイザー・パーマネンテ傘下の医療グループの元CEO)が配信するポッドキャスト番組には、新型コロナウイルスに関して多くの人からさまざまな質問が寄せられている。

そこで、最近の配信のなかで最も質問が多かった5つの点と、それに対する筆者の回答を紹介したい。

1. 感染すれば死亡する可能性が高い?


合理的に考えて、ワクチン接種(追加接種を含む)を受けていれば、死亡する確率はインフルエンザと同様に低いといえる。

米国では、主流となっているオミクロン株(BA.5系統)が猛烈な勢いで感染者を増やす一方、致死率は低下している。ワシントン大学医学部の保健指標評価研究所やその他の研究機関は、実際の感染者は報告されている7倍以上と推計しており、それに基づいて計算すると、死者は感染者2300人に1人。つまり致死率は0.04%と考えられる。これは、インフルエンザの致死率およそ0.1%より低い数値だ。

一方、感染者数の違いからみて、どちらにかかって死亡する人が多いかといえば、新型コロナウイルスがインフルエンザを大きく上回ることになるだろう。

2. 感染拡大の割に死者が増えていない理由は?


オミクロン株は変異によって、免疫を回避する力を強めている。そのため、これまでに流行したその他の株よりも感染者が多くなっている。だが、その変異によって、致死性が低下した可能性がある。

例えばオミクロン株のBA. 2系統は、それ以前に出現していた変異株ほど、肺で増殖しないため、人体に重要なその他の臓器にまでウイルスが到達していなかった。また、私たちには重症化や死亡から身を守るための防御機能(細胞性免疫)も備わっている。
次ページ > 後遺症をどう考えるべき?

編集=木内涼子

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2022.04.17 07:00

新型コロナの再感染、わずか23日後の事例も CDCが報告

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新型コロナウイルス感染症の感染者数が、欧州やカナダ、米国の一部地域で再び増えている。その中で、新型コロナウイルス感染症に感染し回復すれば、この病気に対して持続的な免疫が得られるものかと疑問に思っている人は多い。

新型コロナウイルス感染症に感染後、わずか数週間、あるいは数カ月後に再感染したことを報告している人は非常に多い。とはいえ、新型コロナウイルス感染症に関して現在までに行われた研究は少なく、こうした事例では果たしてウイルスが完全に消えていたのか、異なる変異株によりそれぞれ最初の感染と再感染が引き起こされたのかを断言するのは難しい場合もある。

米疾病対策センター(CDC)は、新型コロナウイルスのデルタ株に感染後の90日以内にオミクロン株に再感染したことが確認された10の事例について記録し、報告書を発表した。この調査では全ゲノムシーケンシングと呼ばれる遺伝子解析技術により、感染者の中に存在していた変異株がそれぞれの感染で特定された。事例は、2021年10月から2022年1月の間に4つの州から集められたものだ。

カナダのウェスタンオンタリオ大学で臨床免疫学・アレルギー学部のプログラムディレクターを務めるサミラ・ジェイミー医学士・博士は「再感染に関して信じられている説得力ある説は、これが長期間のウイルス排出に過ぎないというものだ」と述べ、「そのため、この論文の最も印象的なメッセージは、全ゲノムシーケンシングで2つの別々の感染が確認されたことにある」と補足した。

10人の患者のうち8人は18歳以下で、残りの2人は長期療養施設の居住者と医療従事者だった。デルタ株とオミクロン株の感染間隔で最も短かったのは、12~17歳のワクチン未接種の子ども1人が経験したわずか23日だった。

この子どもが初めてデルタ株に感染したのは2021年11月23日で、オミクロン株は12月16日だった。この子どもは、最初の感染時には症状が出たが、2回目は無症状だった。

一方、デルタ株とオミクロン株に短期間で感染した残りの7人の子どものうち、6人はどちらの感染でも症状を示した。こうした子どもたちは全員5~11歳で、残りの1人の子どもは最初の感染で症状を示したが、2回目の感染時の症状に関するデータは得られなかった。

子どもたちはデルタ株の感染時、全員がワクチン未接種だった。また、オミクロン株で2回目の感染を経験するまでにワクチンの1回目を接種していたのはわずか2人だった。

ジェイミーは「これは懸念事項だが、ワクチン接種が最適に行われていない可能性が高い人の間で再感染の大部分が起きていることは意外ではない」と述べた。「再感染をする人のワクチン接種状況が未接種か未完了であることは、集団ワクチン接種の取り組みが今も引き続き重要であることを物語っている」(ジェイミー)
次ページ > 似た結果を示した別の小規模調査も……

翻訳・編集=出田静

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