小学校高学年ぐらいの少女達が集められた部屋を物色し、現金と引き換えに子どもの手を引いてホテルの部屋に消えた。取り締まりの緩さにつけ込んでラオスに集う日本人の実態が現場取材で明らかになった。あどけない表情でこちらを見ていた少女たちは、どんな境遇で売春拠点にたどり着いたのか―。農村出身の女性たちに話を聞くと、少女を取り巻く厳しい状況が徐々に明らかに。地域情勢に詳しい日本の専門家は「少女が自分の意思で働き始めたとは考えられない」と指摘。買春目的の日本人渡航者が増え、比例して人身売買の被害少女も増える悪循環の構図が浮かび上がった。(共同通信バンコク支局 伊藤元輝)
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▽農村の現実。いつのまにか消える少女
「ラオスの農村では家庭が貧しいほど早く女の子が去って行く」。タイ東北部のウドンタニで風俗店に勤務するラオス人のパムさん(29)=仮名=はそう証言した。インタビューには女性記者が通訳として同席した。
タイ東北部ウドンタニはラオスとの国境に近い。ラオスのビエンチャンまで66キロ。500キロ以上離れた首都バンコクより近い。
タイにはバンコクやビーチリゾートのパタヤなどに外国人向けのバーや風俗店が集まる繁華街がある。ウドンタニにも小規模ながら似たエリアがあり、地理的に近いラオスからも女性が出稼ぎで働いている。タイ語とラオス語は似ており、意思疎通は容易だ。実際にラオスの農村を訪れて実態を確認することも検討した。だが、ラオスは社会主義の一党独裁体制で、メディアへの規制は厳しく自由な取材は難しい。そこでタイのウドンタニで農村出身者を探したところ、複数の女性がインタビューに応じた。
パムさんはラオス北部の農家の生まれで、農村が「非常に貧しい」と率直に明かした。若い女性が首都ビエンチャンに出て、性産業に従事するのは珍しくないという。「通常は10代後半まで働きに行くのを待つが、貧しければ10代前半もあり得る」。売春に従事すると周囲に公言することはないが「村の中で少女を見かけなくなれば、身売りしたのだと皆が暗黙のうちに理解していた」という。
パムさんの村には、中国人の中年男性が現れて結婚相手を探すことも度々あった。ブローカーが仲介し、村長が少女や若い女性を呼び集める。パムさんは実際に、結婚相手を探す中国人男性の前に、複数の女性とともに並んだ経験がある。これも貧困が背景にある。
中国人からの多額の結納金が親に歓迎されるのだという。ただ、ドメスティックバイオレンス(DV)に遭った子が逃げ帰ってきたり、音信不通になったりする例もあったと証言した。
ウドンタニのバーで働く別のラオス人女性、ボンさん(29)=仮名=も出身地の村について、貧しい家庭で少女が身売りする現状や、中国人の結婚相手探しを巡って同様の証言をした。農村では16、17歳で結婚することも珍しくないとも説明した。
人口約760万人のラオスは、1人当たりの国民総所得が日本の20分の1ほどの2120ドルに過ぎない。農村での生活は特に厳しく、親は子の出稼ぎを当てにする傾向も強いという。ボンさんも実家はコメとトウモロコシの農家で「弟と妹が高校を卒業できるように仕送りしている」と語った。
▽需要と供給の悪循環とは
いつから少女買春を目当てにラオスを訪れる日本人が増えたのか。アジア経済研究所地域研究センターの山田紀彦・動向分析研究グループ長は「ラオス政治」が専門だが、児童売春問題について今回取材に応じた。長年の研究とラオス各地への訪問を通じて、日本人ら外国人による少女買春の実態を一定程度把握し、問題意識を持ってきたと明かした。
山田氏によると、2010年代半ばには少女買春を目的に訪れる日本人客が増えていった。最近はソーシャルメディアの浸透に伴って、こうした情報が拡散している。新型コロナウイルス禍前には、日本人買春客のラオス現地での存在感が際立つようになったという。コロナ禍の渡航制限を経て、一時沈静化した買春客の訪問は復活。日本人同士で少女たちの売春拠点の位置情報を売買するようなやりとりも散見されるという。
懸念されるのは、需要と供給の悪循環だ。「少女を求める外国人客が増えた結果、需要があると判断したラオスの売春拠点側が少女のリクルートを活発化させているようだ」と危惧する。「10代前半の少女が自分の意思で働き始めることは考えられず、親や友人に促され、嫌々従事している場合が多い」と指摘。タイやカンボジアは児童売春の取り締まりを最近強化しており、客がラオスに集まる構図となっているという。
▽乏しい就職先、通貨価値は半減。苦しい経済悪化
1899年からフランス領インドシナに編入されていたラオスは、1945年にラオス王国として独立を宣言。その後、内戦や隣国のベトナム戦争による混乱などを経て、1975年に現在のラオス人民民主共和国が成立し、ラオス人民革命党の一党独裁体制となった。国を支える基幹産業がなく、最近は外交・経済の両面で北部の国境を接する中国の影響力が増している。
山田氏によると、地方で若者は農業に従事するか、飲食店や工場などで限られた職に就くしかない。ラオスは新型コロナウイルス禍以降、最近数年で物価は2~3倍に上昇。通貨キップの価値はおよそ半減、輸入に多く頼るため庶民の生活は厳しくなり続けている。金銭的な理由で就学を断念する児童、生徒も増えている。
ラオスでも児童売春は禁じられているが、当局が売春拠点の営業を黙認しているのはほぼ確実と言える。交通違反の取り締まりなどでも見逃してもらうための賄賂が横行している。売春拠点も便宜を図ってもらっているとみられる。
▽国際イメージの悪化、摘発強化の動機に
解決策はあるのか。山田氏は、国際的な圧力が取り締まり強化につながるとみる。「特に少女売春はラオスのイメージが対外的に非常に悪化するため、横行しているとの情報が広まることを指導部は嫌う」と指摘。タイも国際的な圧力の高まりを受け摘発を強化した経緯があり、ラオスも今後対応を迫られる可能性がある。
ラオスには古都ルアンプラバンなど魅力的な観光地も多く、ラオス当局も健全な観光産業を活性化させて経済発展を目指したいはずだと山田氏は期待する。強権を用いれば、一党独裁体制下では一気に摘発することも可能だ。実際に2024年の東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会議の開催期間中は、風俗店などが一斉に営業を取りやめた。店の関係者は、当局の指示があったと明かした。
山田氏は「ラオスの児童売春の現状が各国の報道では十分には伝わっておらず、国際的な注目度がまだ低い」とみる。日本の児童買春・ポルノ禁止法では刑法の国外犯規定により海外での18歳未満の買春も処罰対象になる。警視庁も児童買春や児童ポルノ関連の情報提供を呼びかけているが、日本の警察当局がラオスでの事案を捜査するのはハードルも高い。「日本とラオス両国の協力で、買春した男性がもっと逮捕されるような事例が出てくれば抑止力にもなる。客が増え、従事する少女が増える悪循環は止める必要がある」
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伊藤元輝 大学卒業後、短期間の証券会社勤務を経て、2011年に共同通信。大阪社会部、神戸支局などを経て23年末からバンコク支局記者。著作に「性転師―「性転換ビジネス」に従事する日本人たち」(柏書房)。好きなタイ料理は豚トロを焼いたコムヤーン。
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