【論説】サイバー攻撃の標的となって政府機関や重要インフラが狙われる脅威が高まっている。中国系ハッカー集団が2019~24年、日本の安全保障や先端技術に関する情報を狙って攻撃していた事態も判明した。情報漏洩(ろうえい)など被害は深刻で備えを強化することは不可欠だ。

 一方、防御に実効性を持たせるには平時から一般市民の通信情報を広く集め分析する仕組みが必要だという。プライバシーをどう守るかも重要な課題となる。 政府の有識者会議がサイバー攻撃に先手を打って被害を未然に防ぐ「能動的サイバー防御」を巡り、法制化に向けた提言をまとめた。石破茂首相は会議の席上「サイバー対応能力の向上は急を要する課題だ」として、担当閣僚に早期の法案策定を指示した。これを受け政府は24日召集予定の通常国会へ関連法案の提出を目指す。

 サイバー空間は陸海空や宇宙に続く「第5の戦場」と呼ばれ、米国や中国、北朝鮮、ロシアが熾烈(しれつ)な攻防を展開する。ウクライナ侵攻ではサイバー攻撃が戦況に影響を与えた。日本国内において昨年は、日航や宇宙航空研究開発機構(JAXA)などが襲われた。

 法制化において焦点となるのは個人の権利侵害を防ぐ配慮だ。提言は、憲法21条が定める「通信の秘密」であっても「公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を受ける」として、政府が通信情報を利用することを限定的に認めた。

 個人の通信情報を収集する場合は宛先など付随的なものに限り、メール本文を逐一見るようなことは適当ではないと指摘。通信の秘密を保護するには、情報の取得や分析の過程で、独立した機関による監督が重要だと提案した。

 このほか、情報収集は国外と国内や、国外同士といった外国関連の通信が主な対象という。国民生活への影響が大きい電気や鉄道などの基幹インフラ事業者が攻撃を受けた場合、政府への報告を義務付けてもいる。

 被害を未然に防ぐため攻撃側のサーバーに入り込んで無害化する権限を政府に与えることは「必要不可欠」と強調。実施主体を警察が担い、特に必要な場合に自衛隊が加わるべきだと主張している。両者の役割分担など詰めるべき点は多い。政府の運用を監督するために設置を求めた第三者機関についても役割や権限などの具体化は政府にゆだねられた形だ。

 国民民主党や日本維新の会は法制化に前向き、立憲民主党も必要性を認めている。サイバー攻撃対策が急務なのは確かだが拙速は避けたい。「通信の秘密」を定めた憲法を順守し、国民の不安が払拭される制度設計でなければならない。