クローズアップ現代 メニューへ移動 メインコンテンツへ移動
2023年5月9日(火)

家でも学校でもない第3の居場所 ヒントは昭和の長屋文化!?

家でも学校でもない第3の居場所 ヒントは昭和の長屋文化!?

住宅地の空き家が子どもが集う駄菓子屋に。渋谷の複合ビルでは親子やシングルなどさまざまな背景を持つ人たちが共同生活を送り、支え合いの関係を築く“拡張家族”という社会実験が行われています。“ありのままの自分でいられる居場所がない”と訴える子どもたちが増えるなか、学校でも家庭でもない“第3の居場所”作りが広がっています。家庭や学校の負担が増えるなかで、こども家庭庁も本腰を入れています。解決のヒントは“昭和の長屋文化”?

出演者

  • 青山 鉄兵さん (文教大学 准教授)
  • 桑子真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

家でも学校でもない 子どもの第3の居場所

桑子 真帆キャスター:

家や学校以外に安心できる居場所がほしい。つまり「第3の居場所」がほしい。そう考えている子どもや若者が全国で7割に上ることが、4月に発足したこども家庭庁の調査で分かりました。こうした居場所をどう作るのか。今、国を挙げた取り組みが始まっています。子どもたちの声をきっかけに生まれた、第3の居場所があるんです。どんな場所なんでしょうか。

駄菓子屋が居場所に

東京 八王子市の住宅街の一角に、たくさんの子どもたちが詰めかける駄菓子屋がありました。

手にしているのは、今どきの子どもにとっては珍しい駄菓子や、おまけ付きのくじ。下校する子どもに合わせ、午後2時に開店。遅い日は夜7時まで営業しています。

小学生
「来たら、そのときにスタンプを貼ってもらうの。12回来てる。一人でも来る」
取材班
「友達の家に行ったりはしない?」
小学生
「しない。ちょっと気遣っちゃう」

一見ごく普通の駄菓子屋ですが、なぜ子どもたちの心を引きつけるのか。店の許可を得て、日常を定点観測させてもらうことにしました。

午後2時、開店。

学校が終わって、子どもや親子連れがやってきます。中には、お菓子に目もくれず奥へ向かう子どもたちも。

店の奥には、自由に過ごせるスペースもあります。早速、宿題に取りかかりました。

夕方4時半、大勢の子どもたちが。

始まったのは、カードゲーム大会。学年や学校を超えた居場所になっていました。ここでは、一人でも自分の好きな時間を過ごすことができます。店を運営する、ボランティアの大人がサポートします。

訪れるのは1日平均30人。毎日通う子どももいます。実は、この駄菓子屋は子どもの声をもとに作られました。八王子市では20年前から子どもが主役の議会を開き、子どもの意見を政策に反映する取り組みを続けてきました。そうした中、2年前に子どもたち自身から居場所を求める声が多くあがったのです。

八王子市子ども家庭部 井垣利朗さん
「本屋がある町とか、自習ができる町とか、子どもの居場所を求める声っていうのは多くあったなと感じている」

子どもたちが何気なく過ごせる居場所は急速に減っています。例えば駄菓子屋の場合、1972年には13万6,000軒ありましたが、この50年で20分の1まで減りました。

中学生
「駄菓子屋を通してみんなが交流できるような空間というのが、すごくありがたいと思います」
中学生
「地域の人と話せることはあんまりないじゃないですか、こういう話せるフリーダムな場所があるといいと思っています」

この駄菓子屋で子どもたちが大きく変わったという人がいました。近所に住む山下洋子さん(仮名)。2人の子どもを育てるシングルマザーです。
コロナ禍で親子で家に引きこもるようになり、子どもたちの気持ちも不安定になりました。

山下洋子さん(仮名)
「娘に関しては一緒に心が荒れちゃうんで、ぐずるとかもすごい多かったですね。ぱっと見たら虐待してるんじゃないかという雰囲気が。私の身内からも言われるんですけど、そういう雰囲気がすごかったらしい」

今、山下さんの子どもたちは毎日のようにこの駄菓子屋に通っています。

長男
「ここでは集まって遊んだり、ゲームをしたりしている。全部楽しい」
山下洋子さん
「(駄菓子屋に行く前は)本当に暗い感じでしたよ。本当にこんな感じじゃなかった。きょうも楽しく過ごせるんだろうなって。そのまま大きくなっていければいいなとか、そういうことを覚えながら眺めちゃいます。もう心の支えですね、めちゃめちゃ存在でかいですね」

居場所は学校と職場!? 日本の子ども・若者

子どもが、家でも学校でもない居場所を求める背景には何があるのか。立命館大学の御旅屋達(おたやさとし)教授が注目するのは、こちらのデータ。

10代20代の悩み事の相談相手の国際比較です。親以外の相談相手として選ばれたのは、日本では「近所や学校の友だち」が特に多く「誰にも相談しない」という回答も際立っています。

立命館大学産業社会学部 教授 御旅屋達さん
「これだけ学校とか近所が友達作りに影響を与えているというのは、ともだち100人できるかなじゃないですけれども、学級でうまくやるということが非常に強く求められる。その中で人間関係を作っていかないと、生きる場所がないという構造が強く表れている」

さらに、こうした傾向は学校を卒業した後の職場にまで現れています。仕事をするうえで大切なものを比較した調査です。

他の国では「高い賃金や充実した福利厚生」など待遇面を重視する一方、日本では「良質な職場の人間関係」が最も高くなっているのです。

御旅屋達さん
「これまで日本社会において学校であるとか企業であるとかいう場所が、強く私たちを丸抱えしてきた。いったん外れた子たちはなかなか戻れない感覚が残されている。社会にどこにもいない、そういう存在の人たちが増えてきた」

第3の居場所の模索

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、国の審議会で「こどもの居場所部会」の委員を務めている青山鉄兵さんです。

こども家庭庁でも、こども・若者の居場所づくりというのが重要項目として挙げられているそうですが、今、彼ら彼女たちの居場所に何が起きていると見ていますか。

スタジオゲスト
青山 鉄兵さん (文教大学 准教授)
こども家庭庁こども家庭審議会こどもの居場所部会委員

青山さん:
先ほど駄菓子屋の映像もありましたが、ああいう地域のつながりがなくなる中で、家庭や家族や学校に期待される役割がどんどん増えていったという状況があります。

子どもの側から見ると、人間関係も居場所も「家」・「学校」、この2つにしかないというような子どもがたくさんいるという状況になるわけです。あるいは、親とか家族、学校の先生以外の大人とふだん会わないという子どもも多いかもしれません。そこで何かうまくいかないことが起きてしまうと、とたんに行き場を失ってしまったり、また、今のいわゆるいろんな生きづらさにもつながっていると言えると思うんです。例えば、トー横キッズなどの現象もこういった居場所のなさを反映していると言えると思うんです。

なので、やはり社会全体の中で子どもや若者の余暇ですとか、放課後をどう整えていくか、そんなことが課題になっていると思います。

桑子:
その1つが、まさに駄菓子屋と言えるわけですが、子どもたちが実際にどんな居場所を求めているのか。こども家庭庁のデータです。「居場所がない」と回答した子どもで、どういった場所だったら利用したいかというのを聞きました。

いずれの年代を見ても、大きく2つに特徴が分けられました。「自分の意見や希望を受け入れてもらえる」、「悩み事の相談に乗ってもらったり、一緒に遊んでくれる大人がいる」と答えた子どもたちよりも、「1人で過ごせたり、何もせずのんびりできる」、「好きなことをして自由に過ごせる」と答えた子たちのほうが多かった。ここから読み取れることは何でしょうか。

青山さん:
居場所といっても、大人が場所だけ用意してあげれば居場所に自動的になるというものではないわけです。やはりそこが子どもたちにとって安心できたり伸び伸びできたり、ここにいたいなと思えるというものとセットで初めて居場所になると思うんです。そういう意味では、いわゆる「居場所づくり」といったときに、大人たちはついつい成長ですとか変化ですとか、すごく教育的な期待をいっぱい込めてしまうようなこともよくあることなんですよね。

桑子:
何かしてあげたいというようなね。

青山さん:
そうです。でも、まずは1人でも過ごせるとか、何もしなくてもいいよということも含めて、子どもたちにとって安心できるということがすごく大事になると思うんです。

どうしても成果ですとか評価が大事にされる社会の中では居場所にすら「成果」を期待してしまう。そんな状況もあるような気がしています。

いろんな「体験」とか「つながり」とか、結果として変化や成長につながるものがたくさんあるわけです。それを大人が期待しすぎない。それが重要かなという気がします。

桑子:
こうした中で若者たちが中心となって子どもたちと新たな居場所を作ろうと、ある試みを始めています。

令和の長屋“拡張家族” 新たな居場所づくり

東京 渋谷にある複合ビルの13階。夜7時、夕食会が開かれていました。

集まっていたのは、20代の会社員や40代のクリエイター、30代の作家など。性別や年齢、職業まで多種多様な人たち。大手不動産会社と共同の新たな居場所づくりの社会実験です。実は、彼らはこのビルで共同生活を送っています。今は19の部屋で32人が暮らしています。

会社役員
「鍵もかけていない部屋も多いし。あんまり考えられない、今だと鍵をかけないでおうちを空けるとか」

大切にしているのは、血縁関係がなくても家族という意識を持つこと。育児の場合も、自分の子どもを育てる意識で支え合います。「拡張家族」と名付けられた、この社会実験。京都にも拠点を広げ、メンバーは総勢100人になります。

拡張家族Cift 石山アンジュさん
「(拡張家族は)新しい長屋的な新しい暮らしを実験してみようという試みの1つとして始まりました。現代の家族は核家族。少数で子育ても介護も、お互いの人生も支えあわなくてはいけない、そういった状況にいる人が多いと思うんですけれども、拡張家族は家族におけるあらゆる負担を複数の人たちでシェアできることだと思います」

3年前から拡張家族の一員として入居している、奥井奈南さんです。フリーランスで働きながら、2022年、ここで第一子を出産しました。パートナーは今は地元の三重県で働いています。

奥井奈南さん
「ハードですね。(仕事を)詰め込みすぎないと思っているけど、詰め込んじゃいます。もちろん子どもが優先的に最上位ですけど、ママに合ったスタイルが一番自然な愛情を注げると思うので、私はそれが仕事と育児の両立だった」

イベントやネット番組の司会を中心に仕事をしている奥井さん。仕事の合間をぬって、できる限り子どもとの時間を作ります。イベントの最中、奥井さんは会場にいた女性に子どもを預けました。

内田美希さん、共同生活をおくっている住民の一人です。この日は、奥井さんの子どもの世話を進んで引き受けました。入居して10か月。内田さんは多くの子どもを見てきました。互いに支え合う暮らしの中で、心地よさを感じるようになったといいます。

内田美希さん
「なんだろう、自分のライフワークって感じ。大人がいないと生きていけない命を一緒に育てるみたいな。
(拡張家族は)頼りたいときに頼れるとか、頼ってもらえるから頼りやすい。誰か助けてくれるみたいな安心感は大きいじゃないですか」

夜11時、仕事を終えた奥井さんが帰ってきました。

内田美希さん
「(小声で)おかえり。お疲れ様さま」
奥井奈南さん
「(小声で)マジで助かる。めっちゃすやすや寝てる。爆睡してる」
奥井奈南さん
「今みたいな第3の家族、第3の居場所があると、地域みんなでこの子を育てていくみたいな。(ここで)子育てしてみて、こういうことかと実感できた感じです」

これまで15人の子どもが周りの大人たちとの関わりの中で育ってきました。今では地域の子どもたちも遊びに来るようになり、より多様な人たちが関わり合う居場所になっています。

石山アンジュさん
「大人でも多様な意見があるんだとか、子どもが自分で気づけるきっかけになることは大きいと思いますし、子ども側の視点から見て自分の親以外にも何かあったときにSOSが出せるとか、誰かつながりを求められる環境という開かれた家族のあり方というのが、この拡張家族のいいところだと思います」

変わる家族の形 新たな居場所づくり

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
拡張家族の試み、どんな印象を持っていますか。

青山さん:
居場所というのは、大人にとっても大事なものだなということを実感しますね。

その上で居場所づくりという話になると、第3の居場所、ここの話題が多くなることも多いわけですが、これまでの背景を考えれば、この居場所を考えるということは第1や第2の居場所そのものを捉え直していく、そんな形になるのかなと思うんです。

なので、今の拡張家族の事例というのは第1の居場所と第3の居場所の境界線をアップデートするというか、家族自体を捉え直していく試みというふうに言えるかなと思いました。

桑子:
見ていると、子どもにとっては面倒を見てくれる大人がたくさんいて、私は経験してないですけど昭和の長屋のイメージを見たような気がしました。今、家族の形は当時とは変わっていますよね。
例えば「核家族化」が進んでいたり「ひとり親世帯」「共働き世帯」も増えています。こうした令和の今にどういうことが求められていると考えますか。

青山さん:
家族の変化がさまざまある中で、一方、家族に期待する役割というのは大きい状態がずっと続いてきたのではないかと思うわけです。今お話にもあったように家族の形はすごく多様ですよね。ですから、まずは多様な家族像を認めていくこと。その上で、親や保護者たちが孤立しないよう、みんなで社会や地域とつながりながら子育てをしていける環境をどう作っていくかが重要なのかなと思います。

桑子:
拡張家族のようなものがあるかもしれません。他にどういったものがあるでしょうか。

青山さん:
例えば、先ほどの駄菓子屋のケースも第1と第2と第3の線引きを変える1つの試みだと思うんです。地域の大人たちが、第3にああいう拠点を作っていくことで家族も支えられたりとか生きやすくなったりとか。そういうような試みが、第1の場所もそうですし、第3の場所にもあるということが大事ですね。第2もそうだと思いますけれども。

桑子:
地域で言うと、地域が持つ特性というのもありますよね。

青山さん:
例えば日本語が苦手な子どもたちが多くいる地域であったりとか、貧困家庭が多い地域などもあります。そういう地域ではそういった地域の特性に合わせた支援が必要になってくるでしょうし、例えば高校生とか大学生が近くにたくさんいるような地域であれば、彼らがお兄さん役、お姉さん役になったりしながら大学生も小学生も両方成長できるとか、そういう循環する仕組みなんかも地域によってはできるかもしれません。

桑子:
今回は駄菓子屋、そして拡張家族をご紹介しましたが、青山さんがどちらも大事だと思った共通点はどういうことですか。

青山さん:
2つ共通しているのは、当事者の声が届いている、よく反映されているということだと思います。八王子の駄菓子屋のケースも、子どもたちの会議の中からいろんな声が広がってきたということもありました。大人が「はい、居場所だよ」と言っても居場所になるわけではなくて、これが自分たちの場所だというふうな感覚がちゃんと持てることが、居場所の大きな条件だと思うんです。

その意味では、運営する時、あるいは立ち上げる時にも子どもたちや若者たちの声を十分に聞いて、それを反映できるような信頼とか構えを準備する側にできるといいなと思いますね。

桑子:
こどもの居場所部会の委員でいらっしゃいますが、国の議論に参加されていて本気度はどう感じますか。

青山さん:
もちろんこれから決まっていくこともあると思うのですが、4月からこども基本法が施行されて「こどもまんなか」というようなキーワードも今使われるようになってきています。

いろいろなものの決定プロセスの中に、子どもや若者の声もちゃんと届けようというようなところはこだわりどころとして大事にされている感覚があります。なので、これからいろんな形でそういうのが当たり前になるようなことを期待したいですよね。

桑子:
イメージだけではなく、実りある実効性のあるものをぜひ作っていってほしいなと思います。
これから居場所というものを作る上で、どういうものが大事になってくるのか。青山さんにキーワードを挙げていただきました。「ユニバーサル型・ターゲット型」があるのではないかと。

青山さん:
「ターゲット型」から説明すると、ターゲットのアプローチというのは特定のニーズや課題、例えば貧困、虐待、障害ですとか、いろいろなラベルがあると思うのですが、そういった特定の課題やニーズに向けてアプローチしていくのを「ターゲット型」と呼びます。

「ユニバーサル型」というのは、例えば児童館とか公民館が分かりやすいかもしれませんが「誰でも来れるところ」で行われるサービスのことをユニバーサル型と言うんですね。

サービスというか居場所なので、サービスという言葉も合わないかもしれませんが「ターゲット型」の緊急度が高いケースの支援も大事にしながら、もう一方でターゲット型では救えないニーズであったり、みんなにとっての居場所をちゃんと大事にしていくことが求められます。

例えば「誰々のための場所ですよ」というと行きにくかったりすることもあるので、ユニバーサルな取り組みの中にターゲット型のニーズもちゃんと包み込まれながら地域のいろんな人が巻き込まれて、ユニバーサルな場所が広がっていく。両方大事にできることが重要かなと思います。

桑子:
ユニバーサル型が醸成していけば、気づけばターゲット型も包み込むことができるのではないかと。

青山さん:
そういう両方を含む隙間というか、余裕のようなものが子どもたちの安心にもつながりますし、ただの場所の用意ではない居場所づくりみたいなものにつながっていくのかなと思います。

桑子:
隙間って大事なキーワードだなと思います。居場所ってこうだと定義づけるものではないです。みんなが心地よくいられる場所、増えていったらいいなと思います。

見逃し配信はこちらから ※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。
2023年5月8日(月)

どうする“集まりすぎる”客 観光地とオーバーツーリズム

どうする“集まりすぎる”客 観光地とオーバーツーリズム

観光客が来てくれるのは嬉しいけれど、“集まりすぎる”と…。新型コロナの行動制限や水際対策が緩和され、国内外から例年を上回る人出が見込まれる大型連休。人気スポットに集中する観光客によって交通渋滞や大行列、ゴミの散乱や迷惑行為など地域への悪影響の懸念が広がっています。世界各地で深刻化する「オーバーツーリズム」。観光を持続可能なものにする秘策とは?大型連休中の人気観光地、京都と沖縄の現場を密着取材。

出演者

  • 中井 治郎さん (文教大学 専任講師)
  • 桑子真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

戻ってきた観光客 どうする?オーバーツーリズム

桑子 真帆キャスター:

長く続いたコロナ禍が節目を迎え、かつてのにぎわいが戻ってきています。懸念されるのが、世界中で問題となってきた「オーバーツーリズム」。観光地に人が集まり過ぎて渋滞が起きたり、街にゴミが散乱するなどのマナー違反が相次いだりと、観光が地域の生活に負の影響を及ぼす現象です。日本でも避けては通れないこの問題。全国の人気観光地の舞台裏に密着しました。

オーバーツーリズム問題 沖縄の現状

沖縄本島から飛行機で1時間。日本屈指のリゾート地、石垣島。大型連休直前、市の職員や観光業に携わる人たちの会議にカメラを入れると意外にも困惑の表情が。理由は課題となっていた“人手の確保”です。

商工会 担当者
「飲食店の方も(観光客が)来すぎて困るということもある」
商店街 担当者
「一気に来られたときに、どう対応できるかちょっと心配ではあります」

人手不足の原因は、長く続いたコロナ禍。島のブランド牛を扱う焼き肉店では離職した従業員が戻らず、ランチ営業は休業が続いていました。

焼き肉店 店長
「売り上げを上げたい、お客さんをいっぱい入れたいというのはあるんですけど、スタッフがどうしてもいない。こんなに人材が、人が来ない、そろわないというのが一番つらいです」

さらに関係者が懸念していたのが、横浜から5月3日にやってくる大型クルーズ船です。乗客はおよそ4,500人。島の人口の1割近くになります。

石垣市 観光文化課 職員
「昼食がとれない、コンビニで買ってホテルに戻ってしまう」
石垣市 観光文化課 職員
「まだわれわれも想定が、どれくらい混雑するのかが蓋を開けてみないと分からない」

島の中心地にある公設市場のフードコート。こちらの精肉店では家族を総動員し、クルーズ船の入港を迎えようとしていました。

精肉店 店主
「たまたまうちは子どもたちが結婚のためだったり仕事を辞めて帰ってきたので、手伝いなさいと」

さらに市場では、座席も新たに設けました。

公設市場 指定管理者 根原工さん
「今まであったコロナ禍の時に比べて、1.5倍の座席数に変わります。なんとか間に合いそうなので急ぎます」

5月3日、クルーズ船が入港しました。繁華街は多くの観光客であふれ、座席を増設した公設市場のフードコートは、あっという間に満席に。

店員
「久々に行列になって、てんてこまいでした」

家族総出で対応した精肉店は、この日の営業をなんとか乗り切り、コロナ以前の売り上げを取り戻すことができました。

精肉店 店主
「想像以上、想像以上。うちはやっぱり(これ以上は)対応できない」

今後、島では観光客のさらなる増加が予想される中、継続的に人材を確保できるかが課題となっています。

根原工さん
「うれしい反面、従業員が減ってきたなかで(観光客が)ぼんと増えてしまったので、今後少しずつじゃないとやっぱり人も増やせないですし」
取材班
「やっていけそうですか?」
根原工さん
「難しいと思いますけど、頑張ります」

石垣島の隣、コロナ禍前には年間50万人もの観光客が訪れていた、竹富島(たけとみじま)。ここでは別の問題も起きていました。

環境保全活動を行う市瀬健治さんが指摘するのは、観光客の出すゴミです。

竹富島地域自然資産財団 市瀬健治さん
「(ペットボトル専用ゴミ箱で)キャップとラベルをはがして下さいとお願いしているけれど、実際に(ゴミ箱の)中を見てみると、袋に入って弁当ゴミだったり、生ゴミも一緒に捨てられているのが現状」

島には焼却炉はあるものの、ペットボトルを処理する施設はありません。観光客の出したペットボトルや缶などのゴミは、島民たちが分別。島の外へ送って処理をしているのです。

島では4年前、ゴミ処理などに充てる財源を確保しようと観光客に300円の「入島料」を払ってもらう制度を導入しました。しかし、徴収率はわずか1割程。観光客と共にゴミの増加が今後予想される中、財源確保のめどは立っていません。

市瀬健治さん
「年間50万人近くの観光客が入ってくる状況に戻るので、また(島の)人々の生活が疲弊していくというか、キャパオーバーかなという感じはあります。飽和状態にはなっています」

オーバーツーリズム問題 京都の現状

日本を代表する観光都市、京都。大型連休中、清水寺などの定番スポットはにぎわいを見せていました。

座布団店
「逆にコロナのときより、2019年より多いです」
土産物店
「もうホッとしてます。感謝です、笑顔です」

宿泊施設も今後の観光客の増加を見込み、次々と新規開業していました。

宿泊施設 社長
「(京都に)100棟計画を立てまして、海外の方がどんどん増えています」

一方、市民からは複雑な思いも。

市民
「(観光客が増えるのは)どっちがいいんかな、ほどほどがいいんかな」
市民
「一般人にとっては、非常に困ったこともありますね」

実は、京都ではコロナ禍の前からオーバーツーリズムが大きな問題になっていました。

コロナ禍前、外国人観光客が急激に増加。5年間で4倍という勢いでした

京町家が立ち並ぶ祇園では、当時トラブルが続出しました。

祇園町 南側地区まちづくり協議会 太田磯一常任理事
「舞妓パパラッチが一番の問題。舞妓さんを取り囲んで写真を撮ってくれとか強要するとか。ひどいピーク時には舞妓さんを取り囲んで着物を引っ張ってみたり」

さらに大きな問題となったのが、一般の住宅に旅行者を宿泊させる「民泊」でした。

近隣住民 吉田瞳さん
「場所が分からないんでしょうね、民泊の場所が。夜の11時、12時近くに突然ピンポンって鳴って、夜中で知らない人が何人も家の前にいるので怖くて開けなかった」

ルールを守らない一部の観光客が市民生活を脅かし、京都市が厳しく民泊を規制する事態になりました。

吉田瞳さん
「朝になるとタバコの吸い殻がいくつか落ちてて、万が一(火事に)なったときにとんでもないことにっていうか一軒だけで済まなくなるので、そこは怖いなって」

2023年の大型連休。市民の足であるバスは、観光客の利用増加によって乗りづらい状況になっていました。

市民
「キャリーバッグをバスに2つ3つ持って乗られたら、とてもじゃないけど乗れない」

京都市は、バスの混雑を少しでも緩和させようとさまざまな取り組みを行っていました。

「京都駅から清水寺に行く手段はバスのみである?○か×か。正解は×でございます」

駅前ではクイズを用いたイベントを実施。観光客にバス以外の交通手段を利用してもらおうと呼びかけていました。

「地下鉄で京都駅に行ける無料のチケットをお配りしています」

乗客が集中する路線では無料振り替え券を配布し、地下鉄へ誘導。京都市ではバスを増便できない切実な事情があるといいます。

京都市交通局 横井洋幸課長
「運転手不足で、なかなかなり手が、運転手がいない。バスの車両についても営業所のキャパがいっぱいいっぱいで、これ以上バスは増やせない」

市民の生活を守りながら観光産業をどう発展させていくのか。模索が続けられています。

京都市観光協会 堀江卓矢さん
「ただやみくもに数を追い求めてしまうと、また以前のような問題が起こってしまって、住民の方の不満が高まることで観光客の受け入れが難しくなるということは、既にわれわれ学んだところであります。市民の豊かさにも貢献していく、新しい観光のモデルを作っていく」

対策は 観光地の事例

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、オーバーツーリズムの問題を研究してきた中井治郎さんです。

オーバーツーリズムはコロナの前から指摘され始めてはいましたが、コロナ禍を経て何か変化というのは感じていますか。

スタジオゲスト
中井 治郎さん (文教大学 専任講師)
京都のオーバーツーリズム問題などを研究

中井さん:
先ほども5年間で数倍になったという話がありましたけれども、オーバーツーリズムが問題になったころは、あまりにも状況の展開が早すぎたため、みんな何が起こっているか分からない状況だったんです。

問題はたくさん起こっていて、みんな困っているのだけれども一体何が自分の身の回りで起こっているか分からない。ある種の混乱状況であったと思うんです。しかし、コロナ禍の間にいったんお客さんが引いてくれたことによって再検証といいますか、「一体自分たちはどんな問題に直面していたのか」ということをゆっくり検証する時間があり、いろいろ対策も考えられてきたところでもう一回またお客さんが帰ってきているなという状況です。

なので、ある種その時に行われた検証とか、対策の方針とかが間違っていたのか正解だったのか、これから答え合わせが始まるのかなという気持ちでみております。

桑子:
訪れる人には満足してもらう、地域の人たちは許容できる観光、これはどういうあり方があるのでしょうか。模型を使って考えていきたいと思います。

今いわれているオーバーツーリズムという状態は、このようにマイナスの影響というのが大きく、「騒音・マナー違反」、「交通混雑」、土地の値段が上がって「家賃が高くなる」など、地域への負担が重くなっている状態です。

これを解消しようということで、例えば京都では条例で「民泊を厳しく規制」し、混雑する市バスの対策としては「バスの一日乗車券を2023年度いっぱいで廃止」し、地下鉄の利用を促しているわけなんです。こうすることによって、「騒音・マナー違反」、「交通混雑」を解消しようということです。

中井さん、こうした対策の効果・実効性はどういうふうに考えていますか。

中井さん:
オーバーツーリズムの問題というのは、実はすごく多岐にわたります。なのでオーバーというから観光客の総量を抑えれば全部解決するようにも思えるのですが、なかなかそれが難しい場合、個別にどういう問題が起きているのかというのを細かく切り分けて一つ一つ対応していくというのがとても大事なことだと思います。

桑子:
そうしてマイナスの影響をどんどん軽くしていくことも大事ですし、同時にプラスの影響というのを大きくしていくことも大事ですよね。

例えば、イタリアのベネチアでは従来からの宿泊税に加えて、2023年から「入島税」を徴収しているんです。日本ではどういうことができるでしょうか。

中井さん:
やはり「宿泊税」という形がいちばん都市観光においては現実的かなと思います。街に入ってくる人、全員に税金をかけるというのは都会ではなかなか難しいので、宿泊税という形がいちばん現実的に速効性のある地元への還元のしかたとして有効かなと考えています。

桑子:
経済効果、雇用創出もプラスの影響にはなりますが、今の日本の状況はどうでしょうか。

中井さん:
これまでの観光産業の構造的な問題として、例えば大きなホテルが地域にできたとしても結局は外資であったりとか、なかなか地域の経済とうまくかみ合っていない。大きなホテルにたくさんお客さんが入っても、うまく地域の経済に還元されないという状況が長く続いていたというところがあります。

桑子:
地元の人を雇用しようにも、外資の社員が勤めているというような状況に。

中井さん:
そうですね。雇用といってもなかなか全部地域の人だけで賄えるわけでもない、ということですね。

桑子:
マイナスの影響をいかに減らし、プラスの影響を大きくしていくかということでヒントとなる取り組みが、ある観光地で始まっています。

カギは「量」から「質」? “理想”の観光地とは

コロナ禍前、年間およそ500万人が訪れていた長野県松本市。大型連休中、松本城には入場を待つ長い行列が。

創業92年の老舗旅館では、観光を「量」から「質」へと転換しようとする試みが始まっています。

地元信州産の木材を使った広々とした客室。宿泊料は1泊30万円です(繁忙期)。外国人観光客など富裕層の利用を見込んでいます。この旅館が目指すのは、収益をできるだけ地域に還元すること。料理に使う食材は、およそ8割を地元から調達。生産者が希望する価格で購入しています。

この日、旅館のスタッフが訪れたのは地元のぶどう農家。不要な新芽を間引く作業が行われていました。

旅館スタッフ
「これ天ぷらにしたらうまいね」
旅館スタッフ
「たくさんいただきたいんですけど」
ぶどう農家
「もちろんです」

以前は捨てられてきましたが、旬の味覚として売り出せると旅館が買い取ることにしました。

ぶどう農家
「(ぶどうを)出荷して収入を得る形ですが、今までそれにならない状態のものを収入に変えられることは農家としてはうれしい」

社長の齊藤忠政さんは、地域との関係を深めることが新たな観光の価値を生み出すと考えています。

旅館経営 齊藤忠政さん
「地域の人に還元するような仕組みにするには、(客の)数を追うのではなく、高付加価値なものを出して単価を追っていく。お客様から満足をいただく、見合った対価を(地域の)みんなに分配すること、僕たちが地域のエンジンになっていく役割」

地域を巻き込み、新たな魅力を掘り起こそうという取り組みも始まっています。

築110年のこちらの古民家。かつて大名が立ち寄った由緒ある場所でした。

空き家となっていたところを地域の住民たちが修繕。3年前から旅館が借り受け、宿泊施設として営業を始めました。

長い年月が醸し出す趣のある空間。地域の大切な財産が、観光資源として生まれ変わりました。この古民家を拠点に、新たな観光ルートも生まれています。

始めたのは、少人数で行う自転車のツアー。地元のガイドの案内で地域の暮らしや里山の風景を巡ります。この日は、イギリスの観光業者が視察に訪れていました。

イギリスの観光業者
「最高です、絶景」

この業者は、秋には観光客を連れてまた訪れたいと話しました。

イギリスの観光業者
「よその国から来る人が、行かない所に連れて行く。こういう穴場みたいな所をずっと探してきた。すごくありがたい」
齊藤忠政さん
「もっと地元のものを見つめ直し、気候風土を見つめ直し、掘り下げていく。絶対そこには唯一無二の観光があるはずなので、それをいま一番見直すべき」

どう作っていく? “新たな観光”の形

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
プラスの影響を大きくするために唯一無二の観光を作るという模索でしたが、誰でもどこでも簡単にできることではないと思うんです。どういったことが大切になってくるでしょうか。

中井さん:
観光の少し難しいところは、お客さんがたくさん来てくれるのだけれども、結局なんで来てくれているかというのを観光地の側、観光業者の側もよく分かっていないことがあるわけです。

結局お客さんが何を求めて来てくれるのか、何がうちの観光資源となっているのかというのをよく分からないまま観光開発を進めてしまいますと、誤った観光の開発のしかたをしてしまい、お客さんが実は喜んでくれた、気に入ってくれたものを壊してしまうようなことがあるわけです。

なので、観光資源の発掘ということを考えるときには、何をどういうふうにして観光資源を持続的に長くおつき合いをしていくのかということを考えるのがすごく大事になってくるかと思います。

桑子:
まず、何が観光資源になっているのかということを理解し、それを守っていくということですね。

中井さん:
そうですね。

桑子:
そして観光する側ですよね。どういう意識を持ったらいいと思いますか。

中井さん:
オーバーツーリズムからコロナ禍にかけて「レスポンシブルツーリズム」という言葉が大きく注目されるようになりました。

桑子:
レスポンシブルツーリズム?

レスポンシブルツーリズム=責任ある観光

中井さん:
「責任ある観光」ということですが、いわゆる持続可能性という言葉が近年非常に、特にコロナ前後で大きく注目されるようになりました。

持続可能な観光ということを考えるときに、単に観光地の側が何かやらなくちゃいけないとか観光業者が何か考えなくちゃいけないというわけではなく、観光に関わる一つのアクターとして観光客自身も持続可能性にちゃんと貢献しなくてはいけない。そういう責任を持って、観光・旅行というものと向き合うべきだという考え方ですね。

桑子:
マイナスの影響を、訪れる側が作ってしまうかもしれないと考えるということですか。

中井さん:
そうですね。起こっている問題というのはもちろん各地域でそれぞれですが、いずれにせよ自分たちが旅行することでもしかしたら地域にダメージを与えてしまうかもしれない、与えてしまっているかもしれないという意識を持つ。

そういう場合、例えば地域の側からマナー啓発もそうですし、先ほどの「入島税」みたいなこともそうですが、何らかのボールがこちら側に投げられていると考えていただく。旅行者である自分も単に消費者というだけではなく、一緒に持続可能な観光を作っていく1つの役割を担っているんだという意識で、そのボールを受け止める。そういう意識で観光と向き合っていただければいいかなと思います。

桑子:
訪れる側も、その地が好きで行っているわけですからね。

中井さん:
そうですね。その場所が嫌いな人は基本的に旅行に来ませんので、みんな基本的には何らかの形で気に入って関心を持って好きで来てくれているわけですので。安心を持って、もう少しボールを投げるということも地域の側もしてもいいのかもしれません。

桑子:
ありがとうございます。観光する側にできること、例えばこんな方法はどうでしょうか。

観光客が“景色”を変える 京都で続く模索

京都 清水寺。日中は多くの観光客でにぎわう、この場所。朝6時半、人けが少ない時間にあえて参拝に訪れている人たちがいました。

観光客
「すばらしくて、本当に神聖な場所。朝に参拝するのは格別です」

観光協会はオーバーツーリズムの対策として、朝観光を推奨しています。鴨川ではサイクリングを楽しむ人たちも。定番の旅行スタイルでは味わえない体験が静かな人気です。

観光客
「特に予定もないので、気ままにサイクリングして、街の魅力を見つけたいです」
観光客
「自転車だと街をもっとよく知れると思います。とてもいい街で清潔だし、京都が好きになりました」
見逃し配信はこちらから ※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。