5‐8
「今狙撃ポイントについた。少し雑魚に絡まれたけど、ここなら広場を問題なく狙える」
ゾークが家屋を吹っ飛ばしながら近づいてくる。
断頭剣の乱舞。
奏真はそれを爪で、紫雷で受け、いなしていく。
「少し立て込んでる! 短くまとめてくれ!」
「力を使いすぎて撃てるのは一発。その一発もチャージに時間がかかる。四十五秒は稼いで」
「……任せろ」
今の自分にとって四十五秒とは、腹が減っているときのインスタントラーメンにお湯を注いで三分待つよりも長い苦行だ。
しかしそれでも、仲間の助けがなければとどめの一撃を加えられないことはわかりきっている。やるしかない。
乱舞の最中、奏真は左の篭手に意識を集中。そこから、直刀を爪のように生やす。人差し指と中指と薬指と小指の付け根、指の股から三本の直刀が顔を出し、リーチを伸ばす。
紫雷を遥か彼方、上空に放り捨て、右爪にも同じことをする。左右合わせて六本の刃がギラリと煌めく。
雷撃の力で高速振動するそれはSFでおなじみの振動剣よろしく機能し、乱舞の合間に激突する断頭剣に確実に傷を加えていく。
闇と雷光が迸り、赤と黒の血の玉が舞い、それでも両者は退かない。
とうとう、断頭剣が折れた。だがこちらも無傷ではない。左の刃は三本とも欠損、何度か刃を受け止めた甲はひび割れ血が垂れている。
右手も真ん中の一本が割れている。だが、構わない。
右の刃を突き出し、ゾークの腹を抉る。刃伝いに、篭手伝いに、血肉を啜る。
冷たさと熱が同居した、嫌悪感と快楽の募る感触が魂に満ち、奏真の本能が食欲を――血の渇望を訴え、口の中で唾が湧く。
アーメットが再びひび割れ、口を形成。奏真は飢えた獣のようにゾークの腹に食らいついて血肉を噛み千切る。
ドクン、と心臓が高鳴った。怒り、復讐心、憎悪、それらが獲物を前にした蛇のように鎌首をもたげる。
それに飲まれるな、と誰かが言う。奏真自身の声かもしれないし、瑠奈の声だったかもしれない。
奏真は耐えた。復讐を遂げるのは、私怨が全てではない。前に進んでいくための清算だ。乗り越えるべき壁だから、今こうして必死に登っているのだ。
決して過去に足を引っ張られているわけではない。
復讐心に負け後ろに引きずられるのではない。復讐心を糧に前に進むのだ。
再生した断頭剣が振るわれ、奏真も再生させた直刀篭手でそれを受け止める。踏みしめた床材が陥没し、木の破片を散らす。
再び始まった両者の乱舞は、常人には目で追うことも困難な速度の応酬だった。
普通の人間では遅れて発生する風圧しか感じられず、僅かに遅れて届く風切り音と剣の激突音は最早ノイズじみた濁流だ。
幾十と交わり激突する剣の残光と火花はVFXよりも作りものじみていたかもしれない。
下段から足を薙ぐ一撃を跳躍で躱し、胴を狙う中段斬りの刃を蹴って跳躍、振ってきた紫雷を宙で掴んで落下ざま、剣を背負い投げる勢いで振るいゾークの頭部を叩き割らんとする。
ゾークが断頭剣を交差させ防御姿勢を取るが、奏真は構わず剣を振るった。
全身全霊の振り下ろしは、剣を叩き割って、ゾークの頭から臍までを叩き割る。
黒い血がぶちまけられ、しかしゾークは再生。しかしその治癒速度は目に見えて低下している。
あと一撃。
が、奏真も己の限界が近いことを悟っていた。
「瑠奈、あとどれくらいだ!?」
「十秒!」
走る。体力がある今のうちに、狙撃地点へとゾークを誘導する。
脱兎のごとく駆けだした奏真を、ゾークが追う。
逃げも隠れもしないのは、奏真に限界が近づきつつある――今の自分でも殺せると、悟ったからだろう。
奏真を狙い百近いナイフが接近。奏真は地面と空中から直刀を生やし、交差させ盾を形成してそれらを受け止める。ゾークの断頭剣は直刀の盾を粉砕し、奏真を狙う。
広場に出た。
「七秒!」
踵を返し、体感であと三秒しか持たないブラッドラースとブラッドビーストを解放。
振り下ろされた断頭剣を腕ごと斬り飛ばし、足を両断。跪かせる。胴に左爪を突き立てて抉る。血肉を吸い、僅かでも体力を吸収。
引き抜き下がったところで、ブラッドラースが解除された。全身を包んでいた鎧が雷となって散り、残る紫雷が弱々しい唸りを上げる。
発光も帯電もしない。かろうじて回転を続けているだけだ。
「くっ……はぁあっ」
恐ろしいほどの疲労感と虚脱感が奏真を苛む。崩れた膝に活を入れて立ち上がるが、その動きは緩慢で夢遊病患者のようだった。
ゾークは再生を済ませ、立ち上がる。
互いに虫の息。だが、分はゾークにあった。
二刀の剣を揃え、肩に担ぐように構える。とどめ。首を刈り取る一撃を放とうというのだろう。だが、
「俺は、一人で戦ってるわけじゃねえぞ」
「零!」
奏真が頭を下げた途端、光線がそこを飛んでいった。毎秒三十万キロメートルの攻撃を見てから躱すなどどんな生きものにも不可能。例え人知を超えた怪物であろうと。
ゾークの首から上が飛んだ。いや、消滅した。
これで終わりか、と思った直後、ゾークの体がみるみる縮みだした。
「……?」
やがて、それは一人の人間となる。
手術着を身に纏った、二十代前半の男の青年だった。西洋人で、髪は金色。だが目は碧眼というには濃すぎるほど蒼く、発光していた。
こいつがゾークの核か、と奏真は直感した。
空間を捻じ曲げる力を使って体を大きく見せていたのかは知らないが、とにかくこいつが本体。
「これで、終わりだ」
奏真は無防備に立ち尽くす青年の心臓に紫雷を突き立てた。
「……!?」
しかしその直後、白光に包まれ――
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