5‐7
作戦司令室は騒然としていた。
久留巳は涙を拭い、目の前の数値を読み上げる。
「適合率、百八十パーセントを突破! ブラッドラース、発動しました!」
司令室が歓声に満ちる。隆一も、我知らず小さくガッツポーズをしていた。
これで、始祖討伐も不可能ではないように思える。
「頼むぞ、獅童くん……」
◆
全身の鎧が、肉体の延長のように感じられ、身に着けているという感覚はまるでない。これならいつもと変わらずに動けるだろう。兜はスリット状のアイホールをしているが、まるで金具がないかのように十全に視界を確保できる。
ゾークの左手にもう一振りの断頭剣が現れる。
二刀流。あれがやつの本気なのだろう。ブラッドラースを発動した奏真を見て、逃げるのではなく真正面から戦うことを決めたらしい。
「いいぜ。ケリ着けようじゃねえか」
顔を覆うアーメットの下で、奏真は牙を剥いて笑う。
「滅葬、開始っ!」
吠え、地を蹴る。
地面を擦るほどの勢いで掬い上げられた奏真の左爪が、紫紺の雷光の尾を引っぱってゾークに迫る。
それを断頭剣で受け止め、しかし腕力は同等だった。奏真の爪がぐぐ、と断頭剣を押し、だがもう一方の剣が迫る。
それを紫雷で受け止め、鍔迫り合いが生まれた。
全霊の力を込めて弾き返す。
生まれた僅かな隙に奏真は左の爪をゾークに叩き込み、その肉を抉った。黒い血を啜った左腕がドクン、と拍動し、脈が力強く煌めく。
ブラッドラースとは、始祖に近づく行為。それはつまり、ヴァンパイアにより近くなるということだ。
血を吸えば吸うほどその力は増し、強固なものとなっていく。
と、奏真は感覚で理解するが、確証はない。
左の断頭剣を弾き、右の断頭剣を斬り飛ばし、奏真は紫雷を一閃。左の断頭剣も叩き折って吸血する。
バキン、と音を立てて顔の下半分を覆うアーメットが割れた。割れたそれは牙を形作り、奏真の口は目一杯開かれ、跳躍と同時にゾークの首筋に食らいつく。
肉を引き千切った。
「グ……!」
ゾークは腕を振るい、奏真を薙ぎ倒すが、奏真は吹き飛んだ勢いのまま回転し立ち上がる。
今しがた食い千切った血肉を咀嚼し、嚥下する。
「ぐっ、ぅぅううううう……」
全身を駆け巡る悪寒。同時に、真逆の熱を感じる。
同時に直感で悟る。これは、最初にブラッドラースに目覚めた朔夜はやってない。彼の能力は飛行と爆撃による遠距離攻撃だったから、そもそも接近戦をするという発想がない。
当然血肉を食らうなどという馬鹿げたことも考え付かなかっただろう。
後に『
そして後に、これは奏真のみが可能だとわかる。
全身に力が満ちる。心拍数が上がり、異能の出力が増大。
「奏真さん、なにしたんですか!? 適合率が二百十二パーセントを突破しました!」
「ゾークの血を貰った。馴染むな。もしかしたら、俺は今ヴァンパイアになってるのかもしれない」
普通のダンピールは、体内にヴァンパイアの血が入ってもなんの反応も示さない。それこそがダンピールの能力なのだ。
ヴァンパイアの血に対して百パーセントの耐性を得る、というのが。しかしヴァンパイアとブラッドラース中の第三世代ダンピール――奏真は違う。
血を得ることで、さらなる血の活性を可能とする。
奏真の紫色の瞳が、文字通り光を放つ。
ゾークの目が、怒りか痛みかその両方か、蒼い光を灯らせた。
断頭剣を再生させ、宙に無慮数十ものナイフを展開。
奏真も、本能的に“そう”していた。
奏真の周りに、黒い霧が渦巻き、直刀形態の頃の紫雷が現れる。
脈が発光し、帯電しているその剣の数は十。
射出と両者の疾走は同時だった。
音を置き去りにするほどの速さで放たれたナイフを、同じ速度で放たれた直刀が弾く。奏真の意識に応じて駆動する十の直刀がナイフを叩き落とし失速。
消えるが、それは相手のナイフも同様。
両者無傷のまま真正面から激突。
左から迫る断頭剣を左腕の甲で受け止め。右の断頭剣を紫雷で防ぐ。
鍔迫り合いは一瞬、高速回転するエッジに負けた処刑人の剣が半ばから折れる。
それでもかまわず、ゾークは突き。端から切っ先のない剣である。折れたところで、突きが持つ打撃という性質は変わらない。
馬鹿力で圧倒され、奏真は地面を転がる。鎧が砕け、内臓が潰れた。血が喉から込み上げてきて、アーメットの内で血を垂らす。
鎧に目を向けると、亀裂が走っていた。甲冑なんだからと少しは期待していたが、やはり所詮はもの。
壊れるときは壊れるらしい。が、入ったひびが少しずつ塞がっていくのを見て、やはりこれもヴァンパイアの力の一部なんだなと思う。
倒れ伏した奏真を見て好機と思ったか、ゾークが跳躍ざま大上段に振りかぶった二刀の断頭剣を振るい落とす。
奏真は転がって回避。しかし落雷にも等しいその一撃の衝撃波で余計に転がる。地面が抉れて土塊が宙に舞う。三半規管が狂い、立ち上がるときにはふらついた。
必殺と思われたその一撃はしかし、ゾークにとっては通常攻撃に変わりなく追撃が飛んでくる。
旧時代の高校球児がそうするように、バットを束ねて素振りをするような要領で二本の断頭剣を揃え、横薙ぎに振るわれた。
その一撃を脇腹にまともに食らった奏真は家屋を粉砕し、三軒の家をボロクズにしてようやく止まった。アーメットの継ぎ目から血が垂れ、割れた鎧から鮮血が零れる。
瞬時に再生するが、ダメージは蓄積されている。このままではいずれじり貧だ。決定打となる一撃を加えなければ。
このままでは、いくらブラッドラース、そしてブラッドビーストを重ねがけしているとはいえ、負ける。
「奏真!」
「瑠奈、どうした」
彼女から告げられたそれは、窮地に差し込む希望の一言だった。
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