4‐11



「奏真さんがノーデンスを撃破しました」


「そう、あとは調査だけね」


 避難民をヘリに乗せた瑠奈は、不安がる少年の頭を撫でて、洞窟に戻った。


「奏真さん!? 奏真さん!」


「どうしたの?」


「緊急事態です! 奏真さんが第十一位始祖『闇統のゾーク』と交戦に入りました! 通信機が外れたようで、通話ができません!」


 CLDから視覚情報だけは送られてくるので、交戦状態に入ったことまではわかるのだろうが、通信機がないのでは撤退させることができない。


「あの馬鹿……私が直接行って止めるわ」


「了解、できる限り急いでください!」


 言われなくてもそのつもりだ。


 瑠奈はさっきまで進んだ道を駆け抜ける。


「――!」


 曲がり角を曲がった直後、なにかが突き出された。すんでのところで瑠奈は後方に転がってそれを回避するが、頬を掠めたなにかが僅かながら血を吸った。


 見ると、そいつは歩くトカゲという外見をしたヴァンパイアだった。上背はナイトゴーントと変わらない、大柄な大人ほど。垂れる尻尾を含めれば二メートルを優に超えるだろう。


 腹は白く、鱗に覆われた顔と背中、尻尾は緑。武器持ちで、無骨な槍を持っている。


「リザードマン……? どうして。さっきまでは……」


 影も形もなかった。どこかに潜んでいて、獲物が一人になるのを待っていたのか。


 その数は十を下らない。


 ちっと舌を打ち、瑠奈は銃を構えて撃った。散弾がリザードマンの腹を抉り、黒い血を撒き散らしながら吹っ飛ばす。


 鱗に覆われた部分は非常に硬く、炸裂弾でなければ吹き飛ばすことは叶わないが、腹は比較的柔らかい。


 一体が跳躍と同時に槍を振るう。サイドステップで回避。土が抉れ、瑠奈はすかさずその槍を踏みつけて『血装:白夜』の銃剣をリザードマンの喉に突き刺した。


 そのまま射撃。頭部が消えたリザードマンが倒れ、その向こうで密集陣形を組んでいる四体の群れに、瑠奈は最大出力の炸裂弾を撃ち込んだ。


 熱を伴わない光の爆風が闇を吹き飛ばす。衝撃波が駆け抜け、爆発的な閃光が引く頃にはリザードマン四体は体の各部を欠損し、倒れ伏していた。


 これでおよそ半数。今とどめを刺している暇はないので、残りも可及的速やかに排除しなくてはならない。


 残りはざっと見たところ五体。どこかに潜んでいるやつさえいなければ、それで全てだ。


 一体が槍を突き出してくるのを回避し、もう一体が瑠奈の頭上を取ってのしかかってくる。


 即座に銃を上に向け、射撃。散弾に腹を食い破られたリザードマンは瑠奈の傍に落ち、その頭にとどめの一発を撃ち込む。


 突き出された槍を掴み、引き寄せる。少女とはいえダンピール。その腕力は並みではなくリザードマンは引き合いに負けつんのめるように前に出た。


 下顎に銃剣を突き立て、射撃。頭を粉々に砕く。


 残り三体。面倒だ、一撃で終わらせる。


 通路を引き返し、三体を細い道で一直線に並べる。


「ブラッドバースト」


 囁きは必要ない。しかしつい癖で言ってしまう。“彼女”が剽軽ひょうきんに笑いながら言うのだ。『あのねー、必殺技とか、名前付けると恰好いいんだよ』。


 結局その話は聞きもしなかったが、ブラッドバースト発動の際には癖で言葉が出てしまう。


 銃剣が九十度下に回転し、銃口が変化した。まるでパラボラアンテナのように口が広がる。


 散弾、狙撃弾、炸裂弾、癒合弾。そしてブラッドバーストをして可能となる超高出力の『光線』が、瑠奈が持つ技の中で最強の一撃だ。


 だがこの一射は、チャージに時間がかかるためそう気楽には使えない。SEの消耗も大きいのだ。


 トリガーを押し込み、光線の充填を開始。五つあるシリンダーの穴に光が灯れば射撃可能の合図だ。一つ二つでも撃てるが、威力は著しく低下する。


 一つ、二つ、三つ。


 のっそりと曲がり角の向こうからリザードマンたちが現れる。


 四つ。


 三体が縦に並ぶ。一体が槍を構え、突進し、


 五つ目の輝き。――撃つ。


 直径一メートルはある、銃口に比して巨大な光線が放たれた。光の奔流がリザードマンの上半身を丸呑みにし、巻き込まれた鍾乳石を消し飛ばして壁を深々と抉る。


 光線が収束し、光が消える。


 舐め溶かされたチョコレートのような断面を見せ、三体のリザードマンの残骸が倒れた。


「解除」


 銃口が元に戻り、銃剣が最初の位置に収まる。


 あの広場に出て、瑠奈は損傷させたリザードマンたちにとどめを刺していった。


 最初に戦ったナイトゴーントとコボルトの死体も相俟あいまって、辺りは死屍累々だ。


 そこに、


「…………来るなら来なさい」


 死臭。


 正規の通路ではない洞窟から、リザードマンよりも巨大なトカゲ人間――リザードマンロードが現れる。


 外見的にはリザードマンとそう変わらないが、体は巨大で、三メートルはあるだろう。腰から生えた太い尻尾を含めればその数字はさらに大きくなる。


 手には槍ではなく、斧槍。ハルバートだ。文字通り斧と槍を足した武器である。


 迷わず撃つ。散弾を速射し、少しでもダメージを負わせていく。


 散弾を食らった腹は黒い血を吐き出すが、雑魚とは称されないヴァンパイアの治癒力は凄まじく、開いた穴もすぐに塞がっていく。


 長いリーチを活かし、ハルバートを薙ぐ。瑠奈は後ろに跳んで回避。しかしそこを突きが襲う。突きの連打。乱れ突きを軽やかな足捌きで避け、反撃の糸口を探す。


 腕が伸びきったのを目に、瑠奈はあえて懐に飛び込む。槍と化した銃剣を右腕の脇に突き込み炸裂弾をゼロ距離射撃。


 戦車の榴散弾がそうするように、銃口から飛び出した光は即座に爆発し、瑠奈の全身を爆圧で吹き飛ばす。


 宙で身を捻って、壁を蹴って着地。見ると、リザードマンロードの腕が付け根から吹き飛んでいた。


 利き手でもない左腕一本では満足にハルバートを振るえまい、と内心ほくそ笑む。


 再生が始まる前に仕掛ける。


 大振りで、隙の大きくなった攻撃を誘って巧みに肉薄。今度は腹部に銃剣を突き立て、炸裂弾をゼロ距離射撃。


 凄まじい爆風に瑠奈の矮躯は面白いように舞うが、予定していたことなので慌てず体勢を正して着地。


 こちらは無傷。あちらは腹と臓器をごっそり吹き飛ばされ、再生力が限界を迎えつつある。


 残った力を振り絞ったのか、リザードマンロードは右腕と腹を瞬時に再生させると、その巨体からは考えられない勢いで跳躍。


 縦一文字。瑠奈を頭から一気に叩き割らんと、ハルバートを振るった。


 前に跳んで躱し、後ろを取る。


「ブラッドバースト」


 銃口が展開を開始、トリガーを絞ってチャージを開始する。


 振り返りざま竜巻のように回転したハルバートを屈んで避け、二転目、足を狙ったように下段を滑る一撃を跳んで回避。流れるように振り上げられた一撃を躱し、距離を取る。


 五つ。


 最後の一つが、恐ろしく遅く感じられる。


 と、足下にリザードマンの槍。瑠奈は銃と引き金を左手で固定し、蹴り上げた槍を右手で掴む。ヴァンパイアの武器は、血装のようなものだ。


 ヴァンパイアがヴァンパイアを殺せるように、ヴァンパイアの武器はヴァンパイアを傷つけられる。


 瑠奈はその槍を投擲した。矢のような速度で飛翔したそれはリザードマンロードの右目を抉る。激痛と視界を失った混乱でリザードマンロードが武器を取り落とし片目を押さえた。


 恰好のチャンス。


 五つ目が発光。


 照準し、引き金から指を放した。直後、消滅の光芒が解き放たれた。


 パラボラアンテナのような銃口から光線が走り、リザードマンロードの頭部を背後の鍾乳石とやつの悲鳴ごと一気に飲み込む。照射時間は三秒ほど。それで充分だった。


 光が止むと、首から上を失くしたリザードマンロードが重い響きを立てて倒れた。


「ふう……解除」


 銃が元に戻るのと同時に、無線が入った。


「瑠奈さん!」


「なに?」


「奏真さんが……活動限界を迎えました」


「大丈夫なの!?」


 自分でも信じられないほど声を荒げていた。なぜかはわからないが、感情が言うことを聞かなかった。


「バイタルを確認する限り、回復剤を八回投与してます。それでも現在戦っています。早く止めてください!」

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