4‐6


「我慢して」


「ぐっ、ぁあああ!」


 肉と肉が癒着する感触は、言い表せないほど不快だった。


癒合ゆごう弾を撃ち込むわ」


「……っ?」


 なんだそれ、と問う間もなく、瑠奈に銃口を心臓に向けられた。


 銃声と共に放たれたそれは、奏真の心臓から全身に染み渡り、傷の治癒力を向上させた。


 肉と肉の接合速度が上がり、飛び散った血が体内に戻ってくる。


「なにした?」


「わかりやすく言えば、私のソウルアーツの一つを使った。回復を補佐する弾丸だと思ってくれればいいわ」


「回復を補佐……?」


「回復剤のように使用限度はないし、癒合弾の密度によっては回復剤に頼るより高い治癒力を瞬間的に得られる」


 そうすまし顔でいう瑠奈の額には、汗が浮かんでいた。


「それって、自分の体力を消耗するんだな?」


 奏真が指摘すると、瑠奈は首を横に振った。


「どちらかといえば、気力。最高威力の炸裂弾を撃つよりも、ほんの少しだけ多めに気力を消費する。けどそれもすぐに再生するわ」


「悪い、手間かけた」


「気にしないで。仕事だから」


 そこは友だちだから、と言ってもらいたかった。


 ともあれ、奏真は立ち上がる。


 スーツの丈が少し短くなり、腹が見えてしまっているがマシだろうと思う。あのまま下半身が霧になって再生するのを待っていたら、最悪股間丸出しで戦う羽目になっていた。


 銃創を負ったミノタウロスはそんな一連のやり取りを見ていたようで、どちらを狙うかと迷っているようだった。


 が、奏真が一歩前に出るとミノタウロスは斧を構え、突撃の姿勢を取った。


 ドクン、と心臓が高鳴るのを感じ、奏真はブラッドバーストを発動。全身を紫紺の雷光がバチバチと駆け巡った。


「バックアップしてくれ」


「わかってる」


 奏真とミノタウロスの突撃は、またも同時。


 バチリ、と電光の尾を引く奏真の速度を見誤らず、ミノタウロスは最適な瞬間に斧を振り上げた。


 が、奏真もそれくらい見切っていた。


 物理法則を無視したかのように、奏真はベクトルを無理矢理捻じ曲げ後ろへ跳んでいた。奏真を追う風が大音声を立てて荒れ狂う。


 一歩、加速。


「爆ぜろ」


 紫の残光が、幾重にも重なった。


 その直後、ミノタウロスの両腕が輪切りにされ転がった。


 重い金属音を立てて斧が落ちる。


 垂れ落ちる黒い血が重力に逆らい腕に戻っていく。


 その隙に、奏真はミノタウロスの腹に紫雷を突き立て、跳躍と同時に脳天まで斬り上げた。


 腕を即座に再生させたミノタウロスは割れる頭を自らの手で叩きつけ、無理矢理くっつけてしまう。


 背後に回った奏真に後ろ蹴りを喰らわせ、しかし奏真はその一撃を紫雷の腹で受け止める。


 五十センチほどノックバックしたが、衝撃は全身を巡り骨にひびを入れていた。


 足がよろけ、片膝をつく。


 敵にとってはまたとない恰好の機会。斧を拾い上げようとするミノタウロスの腕に、


「相手は一人じゃないのよ」


 瑠奈が炸裂弾を見舞った。爆圧で腕を押しのけられ、斧を狙った次の一発でミノタウロスのいかにも重そうな戦斧が宙を舞う。


 小賢しい真似をする少女に業を煮やしたミノタウロスは瑠奈を殴り殺そうと拳を振り下ろすが、瑠奈は軽快にそれを避けると肩を蹴って跳躍。


 奏真に血装を投げ渡し、自分はミノタウロスの斧を掴む。


 とんでもない重さだった。肩が抜ける。


「おらぁっ!」


 奏真が『血装:白夜』の引き金を引いた。瑠奈が扱う際には光の属性を宿すそれは雷属性を帯び、金の刺繍も奏真の持つ血装と同じ、禍々しい紫の脈に変化する。


 雷の散弾に押されたミノタウロスが、瑠奈の落下軌道と重なった。


「はぁああっ!」


 振りかぶった巨大な戦斧を、力一杯にミノタウロスの脳天に叩き込んだ。


 臍の辺りまで食い込んだそれを、驚くべきことにミノタウロスは掴んだ。


 これだけやってもまだ死んでいない。しかし再生速度が著しく低下している。あと一撃だ。


「奏真!」


 瑠奈の意図を汲み、中折れ式のリボルバーショットガンを彼女に投げ渡す。銃の紋様は瑠奈の手に渡った途端、金色の美しい刺繍に戻った。


 肉と肉がくっつき、一応の形を保ったミノタウロスは斧を円軌道に振るう。


 瑠奈と奏真はそれぞれ跳んで躱し、振り抜いた姿勢のまま肩で息をするミノタウロスに、それぞれ血装を放った。


 奏真の紫雷がミノタウロスの心臓を貫通し組織を粉砕、瑠奈はショットガンの銃剣を鼻に突き刺さし、銃口が密着した状態で狙撃弾を脳に撃ち込んだ。


 破裂し吹き飛んだ肉体は、もうぴくりとも動かない。


 再生は、しなかった。


「終わったな」


「ええ。滅葬終了。こちら特務分遣隊ヘルシング。イレギュラーを排除。これより帰投する」


「了解です。迎えの方に連絡入れておきますね」


 と、そのとき、傷口から剣を引き抜くときに奏真は違和感を感じた。


「なんだ?」


 剣に異常はない。


 しかしどうしても気になるので、奏真はチェーンソードの刃を回転させ、ミノタウロスの胸部を解体した。


 そこから、石が出てきた。


 二つに割れた、拳大の黒い石。


「……瑠奈、なにこれ」


「へえ、珍しいものを手に入れたわね」


「なんなんだ? 宝石?」


「いえ。それは『血晶けっしょう』というものよ。いい頃ね、そろそろ博士に説明してもらいましょう」


「……?」


 訳がわからないが、話が悪い方向に向かっているわけではなさそうなので、奏真は黙って従うことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る