4‐4

 獣の爪牙がそうであるように、ダンピールはそれぞれ己の潜在意識に根差した武器――血装を発現する。


 それと同じことをヴァンパイアがする、と初めて聞いたとき、奏真は『そりゃそうだ』というくらいにしか思っていなかった。


 というのも、血装の発現を可能とするのはヴァンパイアの血から生み出されたブラッドアームズである。


 となれば当然、その元であるヴァンパイアが血装――と呼ぶべきかは甚だ疑問だが――を身に持つのもわからないでもない。


 種族によって発現するものとしないものといるようだが、今までさんざん戦ってきたグールはあまり『武器持ち』にならない種族である。


 以前一度戦ったサイクロプスは棍棒を持っていたように武器持ちだ。といっても例外はあるもので、グールの中にも武器持ちは現れるらしい。


 ゴブリンは種族的に武器持ちになりやすいようで、棍棒や剣、盾といったものを装備していることが確認できた。


 発電施設の塔の頂上で、奏真はCLDの望遠機能を使って駐車場を眺めていた。CLDのコントローラーは携帯端末だ。連動するアプリがCLDを様々に動かす。


 夜間視認モード、拡張現実モード、望遠モードなど様々な機能を兼ねる。


「どうするの?」


「車が邪魔だけど……ゴブリンは一塊になって動きそうにない。ブラッドバーストで短期決戦に持ち込めば楽に排除できると思う」


 資材搬入用のトラックや、ガソリンタンクを積んだ大型トラック、民間用の軽自動車や大型乗用車など障害物が多い。そのどれもが希少金属やパーツの略奪の憂き目に遭っている。


 しかしそれは裏を取ってしまえば敵の大本営まで見つからずに向かうことができる。


「背中は任せるからな」


「……同僚の頼みなら、断れないわね」


「友だちとして、だ」


 瑠奈の眉間にしわがよるのも構わず、奏真は塔から飛び降りた。


 数十メートル下のコンクリートを踏み砕き、着地。急いで駐車場まで向かう。


(ん?)


 手に持つ紫雷に違和感を覚え、それを見て、奏真は目を瞠った。


 剣の刀身から、チェーンソーの刃が覗いている。


 いよいよ変化が起こるのか、と奏真は思った。まあ、直刀だろうとチェーンソードだろうと構わない。剣道のように、同じ装備で渡り合うスポーツをしているのではないのだ。


 戦いの中で練り上げられた技術ということで奏真は剣術も学んでいるが、それはほとんど土台作りでしかない。


 実際の戦場で振るわれる技は太古の昔から練り上げられてきた『武術』という枠から逸脱している。


 相手は戦う前に身体測定をしてくれるような、丁寧なスポーツマンシップなど持たない怪物だ。人間の術理から外れた異形。そいつらに届かせる剣となれば当然型破りな、我流剣術になっていく。


 奏真の剣術は『怪物狩り』に特化したものであり、そこには最早武士道や騎士道、礼節や礼儀といったものなど存在しない。情けも容赦もない、『殺し』のための技があるのみだ。


 世界中のどの武術も礼に始まり礼に終わる、精神的な涵養かんようという側面を持つのだが、ヴァンパイア相手にそんな汗臭い精神論が通用するわけがない。


(いた)


 奏真は塔から見ているであろう瑠奈にハンドシグナルを送った。単純な、『行くぞ』というようなサインだ。


 ターン、と乾いた音がして、目の前のゴブリンの頭が吹っ飛んだ。子供程度の矮躯が運動エネルギーの収支で吹き飛ぶ。


 ゴブリンが堂々と歩み出た奏真に気付く。何体かが飛び掛かってくるが――、遅い。


 ドクン、と鳴った鼓動に合わせ、奏真は血の力を解放する。


 バリン、と音がして、手の中の紫雷が変貌した。いつものような肉が脈打つような変化ではない。


 蛹を破った蝶のように、獰猛かつスマートな印象のチェーンソードは、外気にその姿を現した。


 刀身と切っ先にエッジ、峰上部には排気筒。峰の下部には機関部。まさにチェーンソーと剣のハイブリッド、という印象だ。


(戻らないな、これは)


 確信めいた直感だった。


(なんだ?)


 全身を駆け巡る雷撃が脳の神経伝達にも影響を及ぼすのか、その刹那、時間の流れが恐ろしく鈍化する。


 初めての感覚に戸惑いながらも、奏真は宙にある四体のゴブリンをまとめて斬り払った。


 バチバチと帯電するチェーンソー状態の紫雷が、ゴブリンの体を真っ二つに両断する。


 踏み込み、加速。


 一足一刀の間合いに入った敵は、半呼吸もしないうちに斬り刻まれる。


 受け太刀を作りカウンターを狙うゴブリンの腹を蹴って、吹き飛ばす。大型乗用車の側面にぶち当たった体の真ん中には黒い痣。


 なんとか歪んだ窓枠から這い出してきたが、次の瞬間には喀血して倒れる。臓器を潰されたようだ。それでも必死に前に進もうとするが、瑠奈の狙撃で息の根を止められる。


 まとめて三体を斬り払い、その死体を踏み越えてきたゴブリンの突きが奏真の腹を抉る。突き刺さったのは、カットラスのような湾曲した片刃の剣だ。


 痛みに歯を食いしばり、奏真はお返しに紫雷をそいつの心臓に突き立てた。


「いってぇ……」


 腹に刺さった剣を抜いていると、左右からの挟撃。


 奏真は後方に跳んで両側の斬撃を躱す。


 ゴブリン同士の剣がぶつかり火花を散らす。紫雷で交差された剣をかち上げるとその間に割って入り、右足を軸に旋転。


 回転範囲攻撃で二体を吹っ飛ばす。黒い血の跡を地面に刻んだ二体は絶命。


 ブラッドバーストの継続時間が残り二十秒を切ったところで、敵の数は十分の一にまで減っていた。


「瑠奈、雑魚を任せる。俺はゴブリンロードを潰す」


「わかったわ」


 最も奥まった場所で戦いの帰趨を見守っていた、小太りな二メートル近い体格のゴブリンロードに狙いを定め、奏真は挑みかかる。


 そのゴブリンロードは、二刀流だった。先ほどのゴブリンが握っていたものよりも遥かにごついカットラスを二本、左右の手に持っている。


 奏真は袈裟懸けに一閃、紫雷を振るう。しかしそれを片方の剣で受け止めたかと思うと、空いた方の剣で即座に打ちかかってきた。


 身を捻り、その一撃を避ける。軸がぶれた瞬間を狙いすましたかのように前蹴りが飛んできて奏真を弾き飛ばした。


 もしかしたら『高能種こうのうしゅ』かもしれない。


 高能種とは、その字の通り『高い能力を持った種』である。


 先天的であれ後天的であれなんらかの要因で同種でありながら別格の強さを持った個体。


 主にダンピールとの戦いで生き残った個体が高能種となるのだが、中にはそうした戦いに生き残った個体が残す子供が先天的な高能種ヴァンパイアとなることもある。


 こいつが先天的な方か後天的な方かは知らないが、放っておけば脅威になる。


「雑魚の掃討は完了。そっちは……苦戦してるみたいね」


 ゴブリンロードは初めての相手ではない。とはいえ、高能種と戦うのは初めてだ。


「多分こいつ、高能種だ。動きに無駄がない」


 奏真の剣戟軌道を見極め、確実に攻撃を防いでから反撃を仕掛けてくる。深追いもしない。


 攻撃を読んでいる。


 それを逆手にとってやろう。


 奏真はわざと、不必要な大振りの技を繰り出した。


 大上段からの脳天唐竹割。ゴブリンロードは身を捻り、紫雷が地面に叩きつけられる。回転する刃がコンクリートを粉砕した。


 そこに、


 ゴブリンロードが両腕を振り上げ、同じように剣を打ち下ろす。


 それを待っていた。


 奏真は低姿勢のまま斜めにステップ。


 一歩目で体を捻り、二歩目でゴブリンロードの背後に回る。


 狙うべき獲物を喪失したゴブリンロードが怪訝に辺りを見渡すが、そのときにはもう奏真の紫雷が背中から心臓に突き立てられていた。


 回転する刃が表皮と筋肉と骨を挽き、ミンチに変える。剣を引き抜いて、残り五秒、というところで戦闘が決着――


 せず、それでも、ゴブリンロードは動いた。


 末期の叫びを散らしながら、ゴブリンロードは剣を薙ぐ。


 奏真はそれを屈んで避け、今度はどてっ腹に紫雷を突き刺す。そのまま横薙ぎに振り抜いて臓物と黒い血をぶちまけさせた。


 だが――


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る