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ただわからないのはむしろ彼のことではなく、獅童奏一郎だ。風真については様々な履歴が乗っているが、奏一郎に関しては情報が制限されている項目が多かった。
自分の権限ではそのほとんどが閲覧ができない。わかったことといえば、奏一郎は元姫宮堂東海支社の科学者だったということだけだ。
科学者の息子が、どうして第三世代ダンピールに選ばれたのか、わからない。もっともそれは自分にも、もう一人の第三世代ダンピール朔夜にも言えることだ。
全員、片親もしくは両親がダンピールであるという、所謂ダンピールチルドレンではない。
ごく普通の夫婦の間に生まれた普通の子供だ。
しかし奏真はどこか特殊だ。支部長の反応といい、彼の成長速度といい、どこか作為的な意図を感じてしまう。
まるで第三世代ダンピールになるべくしてなった、というような、そんな感じだ。
まあ、考え過ぎという可能性はあるし、むしろその方が確率としては高そうだ。
実際、第一世代ダンピールの中にも奏真のように急成長した者もいるし、少し前には旧世代のダンピールが始祖を三体倒してきたのだから。
奏真が急速な成長を見せるのも全体的に
「……そんなことより、早く滅葬するわよ。これ以上ヴァンパイアが群れて、ここに強力な個体が現れてコロニーを形成しようものなら目も当てられない」
ヴァンパイアはあらゆる生命を襲う。ヴァンパイアでも違う種族なら殺し合う。
相互扶助が成り立たないというわけではないが(実際コロニーというのも一種の相互扶助といえるだろう)、人間や動物を襲う。
吸血して殺すこともあれば、逆に輸血を行いヴァンパイア化を促すこともある。まあどちらにしろ、生物は死ぬ。
そんなヴァンパイアが群れをつくり、支部に移動してきては厄介だ。
支部を取り囲む壁にはヴァンパイアが嫌う特殊な音響装置が埋め込まれており、ヴァンパイアを近寄らせないとはいえ、周辺にヴァンパイアが群がれば任務の移動などに支障を来す。
それに、ある程度群れるとヴァンパイアは気が大きくなるのかどうかは知らないが、支部に襲い掛かってくることもある。
音波は飽くまで嫌い、という程度のものであって、命に危機を与えるほどではない。群れを作り鼓舞すれば、簡単に壁に接近してくる。
今回の任務は、そうした可能性を僅かでも減らす為に立案されたものだ。
壁面にへばり付き奏真たちを狙うトラインセクなどを殺しながら、頂上に上がる。晴天の空から光が溢れ、大地を焼く。
一般に、ヴァンパイアは太陽光を忌避するとされるが、それは創作上のデマであり、現実ではない。この世界に現れたあの化け物共は、光の下でも平然と活動する。
ほかにも伝承上では吸血鬼というのは流水を渡れないとされるが、ヴァンパイアどもは平然と川や海を渡る。所詮ヴァンパイアなんて名前はそれが現れ出した頃にネット上でつけられた名前なので、実際の吸血鬼とは関係ないのかもしれない。
二人が頂上の半ばまで来ると、四体にまで減ったトラインセクと、三体のオニキスアロウが現れた。
繰り出される糸の矢を剣で弾きながら、まずは厄介な遠距離攻撃手段を持った蜘蛛を狙う。
蜘蛛は距離を詰められると、慌てて飛び退こうとする。
足に力を溜めているのを見て、このままでは空振りさせられそこを狙われる、と判断した奏真はあえて跳ばせてやることにした。
オニキスアロウが跳躍。同時に奏真も踏み込む。着地地点をあらかじめ計算していた奏真にとって、降り立った八本の足を両断するのにさして時間は食わなかった。
足を失った巨大蜘蛛はでたらめに跳ね回るが、奏真が頭部を断ち割ると動きを止めた。
背後に死臭。しかし振り返らない。
銃声が響き渡り、後ろから漂っていた死臭が途絶えた。奏真はそれに満足し、次のオニキスアロウに狙いを定める。
糸を口の中でグチャグチャと練っているのがわかる。通常の蜘蛛は、腹の先端にある
腹から伸びたパイプが外部から空気を取り込み、それを圧縮して撃ち出す。
たかが空気銃の物真似ではないか。そう侮って、風穴を開けられる新人は少なくないと、教官から学んでいた。
奏真は撃ち出された糸の矢を斬り伏せ、加速。
雷を足に付与し、ツボを刺激して脚力を上げる。ブラッドバーストほど劇的な効果は得られないが、それでもこうするのとしないのとでは身体能力に明らかな違いが出る。
怒りか、焦りか、オニキスアロウが飛び掛かってきた。奏真はその下をスライディングで潜り抜け、振り返りざま尻に斬撃を加える。
三度、四度と剣戟を重ね、こちらに振り返ろうとするオニキスアロウの足を蹴飛ばし圧し折る。
動きが鈍ったそこに、瑠奈の散弾が叩き込まれた。再生能力の限度を超えた傷を与えられたオニキスアロウはそのまま沈黙した。
最後の一体は、撤退しようと柵を乗り越えていた。奏真は瞬時に判断し、紫雷を投げ槍のように投擲。顔面に深々と突き刺さり、オニキスアロウの体がぐらりと傾ぐ。
まずい。
「やべ」
紫雷がオニキスアロウごと落ちる。
そうはさせじと奏真は柵を乗り越え、左手で柵を力一杯掴み、右手を限界まで伸ばし、紫雷の柄を握る。
オニキスアロウを振るい落とし、腕力だけで頂上に戻った。そのときには、トラインセクが一体だけ、しかも瀕死で横たわっていた。
這いずって逃げようとするそいつに剣を突き立てると、とりあえず仕事の半分は終わった。
「久留巳、ゴブリンどもは?」
「駐車場から出ていませんね。戦闘音に気付いたのか、警戒はしているようです。ゴブリンロードが最奥に隠れています」
ここからもその駐車場は見えた。ちらりと確認できる赤い点は、恐らくゴブリンだろう。
あいつらは背丈が百六十センチ程度しかないが、赤い外皮に覆われた体は意外な筋力に満ちていて、油断していると骨を砕かれる。
「これからそっちに向かう。瑠奈はここから援護でどうだろう」
「それが妥当でしょうね。ブラッドバーストの調子はどう?」
「いける。一気にカタをつけよう」
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