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Vol.523「紀州のドン・ファン事件無罪判決」

(2024.12.24)

【今週のお知らせ】
※「ゴーマニズム宣言」…「紀州のドン・ファン」事件で殺人罪に問われた元妻に対して、無罪判決が出た。検察側の立証は状況証拠の積み重ねで、直接的な物的証拠は何もなかったのだから、無理はない。この裁判では「疑わしきは被告人の利益に」という原則が通されたわけで、それは非常に重要なことである。この原則が徹底されていれば冤罪は起きないのであり、そういう意味で今回の判決はよかったと思う。やはり冤罪を防ぐためには、状況証拠の積み重ねだけでは立証には不足であるということを、常識にしなければならないのだ。それで、ここで疑問を持つのは「和歌山毒物カレー事件」だ。人々の「偏見」「冤罪」そして「死刑制度」まで考えてみよう。
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1. ゴーマニズム宣言・第552回「紀州のドン・ファン事件無罪判決」

「紀州のドン・ファン」事件で殺人罪に問われた元妻に対して、無罪判決が出た。
 検察側の立証は状況証拠の積み重ねで、直接的な物的証拠は何もなかったのだから、無理はない。

 検察は、元妻が覚醒剤を大量に飲ませて殺害したと主張したが、どうやって飲ませたのかは明らかに出来なかった。実際には本人がもともと覚醒剤を使用していて、失敗して飲み過ぎたのかもしれず、そもそも殺人事件だったのかどうかさえ定かではないのだ。
 確かに元妻のスマホの検索履歴には「覚醒剤 死亡」だの「妻に全財産残したい場合の遺言書文例 遺言書」だのといったものがあり、状況的にはあまりにも符合しすぎていて、これは怪しいと思う。だがそれでも、それは殺害の直接証拠とはならないのである。
 今回のような、状況証拠の積み重ねによる立証が認められないという判例が定着すれば、犯罪者の側から見れば、ある意味「完全犯罪」がすごくやりやすいということにはなってしまう。
 いくらあちこちにたくさんボロを出していたとしても、実際の犯行時の映像を撮られていたというような決定的な証拠でもない限り、逃げおおせることが可能になってくるだろう。

 とはいえ、この裁判では「疑わしきは被告人の利益に」という原則が通されたわけで、それは非常に重要なことである。
 この原則が徹底されていれば冤罪は起きないのであり、そういう意味で今回の判決はよかったと思う。やはり冤罪を防ぐためには、状況証拠の積み重ねだけでは立証には不足であるということを、常識にしなければならないのだ。
 日本の刑事裁判では、検察が起訴したら有罪率が99.9%。裁判になったら無罪になることはほぼないというが、そのこと自体に無理があったのかもしれない。
 今回の裁判でも、裁判員制度による審理でなければ有罪判決が出ていたかもしれないという見方もあるようだが、今までの裁判の方が、検察のメンツばかりを優先しすぎていたのではないかと思う。
 今回の裁判員の心証には、袴田事件が大きく影響したのかもしれない。何しろ物的証拠が捏造されていたということが現実に起きていたのだ。物証があっても信用できないということすらあるのなら、なおのこと状況証拠の積み重ねだけでは信用できないということになるわけである。

 それで、ここで疑問を持つのは「和歌山毒物カレー事件」だ。
 平成10年(1998)、和歌山県和歌山市園部地区で開催された夏祭りのカレーに毒物が混入され、67人が急性ヒ素中毒となり、4人が死亡。近所の主婦・林眞須美が被疑者として逮捕・起訴され、死刑判決が確定しているが、これも状況証拠しかない。それどころか林眞須美には動機もない。
 なぜ地域の夏祭りで無差別殺人を仕掛け、子供まで殺さなければならなかったのか? その点が全く解明されていない。
 確かに、林眞須美はいかにも怪しい。カレーに混入されたものと組成上の特徴が同じ亜ヒ酸が自宅で発見されているし、カレー事件以前には知人に勝手に生命保険をかけ、ヒ素を飲ませるという保険金詐欺・殺人未遂事件を何度も起こしている。
 しかし、それでも眞須美がカレー鍋にヒ素を入れたという直接証拠はない。そのために常に「冤罪説」が唱えられており、現在、再審請求が和歌山地裁に受理されている。法務大臣も、林眞須美の死刑執行命令にはサインすべきではないだろう。

 しかしそうは言いながらも、どうしたって「偏見」は入り込むものだし、それを否定すべきではないともわしは思っている。
「紀州のドン・ファン」について思いっきり偏見を述べさせてもらうと、そもそもあれは、金持ちのクソジジイだ。
 カネにあかせて何でも好きにできるかのように思い上がりやがって、ろくでもないジジイだという「偏見」が働いてしまうので、たとえ殺害されたとしても、全く同情する気が起こらない。どうせいつ死んでもよかったようなジジイじゃないかとしか思えないのだ。
 その一方、元妻は若くて美人だ。だったら、ジジイのひとりやふたり騙してたっていいじゃないかと思ってしまう。美人ならそれくらいずる賢くてもいいし、むしろドラマになりそうで面白いという感覚が、どうしても湧いてしまうのだから仕方がない。
 偏見というものは絶対に入り込むものであって、偏見を一切排除して物事を判断することなんてできるのだろうかと思う。それは裁判員にしてもそうではないだろうか。

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くりんぐ
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ゴーマニズム宣言・第552回「紀州のドン・ファン事件無罪判決」拝読しました。

「死刑制度を守るために、冤罪だけは防がなくてならない」
冤罪のせいで、冤罪の余地が全くない証拠だらけの凶悪犯を死刑にできなくなってしまう。
そんなことがあってはならないのです。

光市母子殺害事件では、犯人が当時未成年だった被告に死刑判決が下されてホッとしたのを覚えています。
二人の人間の命を奪っておいて、遺族を地獄へ突き落としておいて、「犯行当時未成年だったから」というだけで極刑を逃れられるなんてあり得ないと思っていたからです。
死刑に犯罪抑止効果があるとは思っていません。
犯人が死んでも、被害者の命が戻ってくることはありません。
ですが、なんの罪もない人の命が奪われた時、その犯人を命をもって償わせる方法が無いなんてことがあってはなりません。
死刑が廃止される、それを防ぐために「疑わしきは被告人の利益に」の原則がこれからも守られる必要があるのです。

くりんぐ
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木蘭さんのトンデモ見聞録・第347回「持統天皇列伝〈4〉近江遷都と長槍事件」拝読しました。

国内の統制かつ国外からの侵略にも対処する為にふさわしい場所として選ばれたのが近江への遷都。

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ただ酒の入ってない席で言うべきでした。
酔っ払っていた天智天皇が激昂して剣を握り、大海人皇子は長槍を握って、一触即発の大事に発展。

間に入ってくれた中臣鎌足のおかげで、最悪の事態は避けられました。
酒は飲んでも飲まれるな。

しかし仲裁役の鎌足の寿命は間近に迫っていました。

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Vol.523「紀州のドン・ファン事件無罪判決」|小林よしのり
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