盗品の太陽光ケーブル、流通を阻止 買い取り業者規制へ
太陽光ケーブルなど金属を狙った窃盗事件が多発している問題を受け、警察庁の有識者検討会は9日、盗品の流通を阻止するため買い取り業者への規制を求める報告書をまとめた。一部の悪質な業者によるケーブルの買い取りが盗難グループを助長させている面があった。警察庁は報告書を踏まえ、新法の制定を含め法整備の検討を進める。
使用済みの品を業者が買い取る場合は古物営業法で相手の身分確認が義務付けられている。しかし同法は「古物」について「本来の用法に従って使うために取引されるもの」と規定しており、切断されたケーブルなどの金属くずは対象にならない。
このため窃盗グループを利する買い取りが横行している疑いがある。警視庁などは盗品と知りながら銅線ケーブルを買い取ったとして、2024年11月に金属買い取り業者4社を一斉捜索した。警察庁によると、買い取り業者数は全国に5万〜10万存在すると推計されるが実態の把握は追いついていない。
こうした状況を受け検討会は、被害が多い銅を買い取る業者を届け出制とするよう要請。さらに顔写真付き身分証による取引相手の本人確認▽個人が大量に持ち込んでくるといった盗品と疑われる場合の警察への申告――の義務付けが必要とした。
犯行に悪用されることが多い切断工具「ケーブルカッター」と「ボルトクリッパー」は、隠して携帯した場合に罰則の対象とするよう求めた。侵入盗に使われるドライバーやバールの隠匿携帯を禁じるピッキング防止法と同様の対策が重要とした。
金属盗対策として独自の条例を制定した自治体もあるが、規制内容にはばらつきがあった。検討会は「法律により実効性のある対策を迅速に講じることが必要」と強調した。
金属盗の被害は深刻な状況だ。警察庁によると2024年1〜11月末までの被害は1万9465件(暫定値)に上り、通年で2万件を上回る見通しとなっている。統計を始めた20年(5478件)と比べると4倍近くに増加した。23年の被害額は130億円を超えた。
北関東を中心に外国人グループによる犯行が目立つ。群馬県嬬恋村の万座温泉スキー場ではリフトなどの電気ケーブルが盗まれ、今冬の営業縮小を余儀なくされた。同県渋川市の養鶏場では盗難被害により送電が止まり、飼育していた十数万羽が死んだ。
盗難が増えている背景には金属の価格高騰がある。特に電気自動車(EV)などの需要が高まったことで電線に用いられる銅の価格が高まった。警察庁によると、23年の金属別の被害では全体のうち銅が51.8%を占めた。
銅線ケーブルの窃盗グループや違法な買い取り業者には盗品を国外へ密輸する手段はないとみられ、警察幹部は「国内で正規製品に交ぜられ取引されている」とみる。買い取り業者や工具に関する法整備により、盗品の流通と犯行の抑止を図る。
2040年度の電源構成を定めた新たなエネルギー基本計画原案によると、再生可能エネルギー比率を最大5割に高める。23年度の発電実績と比べると太陽光は3.6倍に増やす必要がある。盗難は発電事業者にとって大きなリスクとなっており、法整備や取り締まり強化にはスピード感も求められる。
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