2022.08.31
飛行機燃料が変わるとき。バイオ燃料ベンチャーが狙うSAFの覇権
「ミドリムシと廃食油」で空を飛ぶ。ユーグレナが民間航空機のフライトに成功
バイオ燃料にはさまざまな原料が利用される。微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)を原料にバイオ燃料の製造開発に取り組んでいるのが、世界で初めて食用ユーグレナの屋外での大量培養に成功した株式会社ユーグレナだ。同社執行役員でエネルギーカンパニー長の尾立維博氏に、同社が商業化を進めるバイオ燃料「サステオ」の現在地について聞いた。
- 第1回
- 第2回飛行機燃料が変わるとき。バイオ燃料ベンチャーが狙うSAFの覇権
- 第3回
- 「SAFの可能性」に戻る
光合成でCO2を吸収、カーボンニュートラルを実現

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ユーグレナ社の執行役員でエネルギーカンパニー長の尾立維博氏
微細藻類ユーグレナが持つ59種類の栄養素を生かし、健康食品や化粧品の製造販売をしていることで知られるユーグレナ社は、実は長年にわたり、バイオ燃料の製造開発に取り組んできた。
同社がバイオジェット燃料の研究開発を開始したのは2010年。当時、日本の航空会社は、10年後、20年後の航空業界では温室効果ガス(GHG)の削減がより厳しく求められるようになることを見越し、「持続可能な航空燃料」(Sustainable Aviation Fuel。以下、SAF)の調達を模索していた。その一つの原料として注目したのが微細藻類だ。
2000年代、米国では微細藻類を使ったバイオ燃料の開発がさまざまな企業によって進められていた。そこで日本の大手航空会社から白羽の矢が立ったのが、当時、国内で微細藻類ユーグレナの大量培養を成功させた同社だった。

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化石燃料は使用サイクルにおいて一方的に二酸化炭素を排出するだけだが、バイオ燃料は二酸化炭素をリサイクルしながら燃料として使用できる
提供:株式会社ユーグレナ
微細藻類は光合成を行うため、CO2(二酸化炭素)を吸収している。燃料の燃焼過程においてはCO2を排出するが、原料の段階ではCO2を吸収しているため、このプラスマイナスゼロの関係により、カーボンニュートラルを実現するという。
微細藻類ユーグレナの大量培養を成功させた実績はあったものの、燃料への応用は簡単なことではなかったと、同社執行役員でエネルギーカンパニー長の尾立維博氏は言う。
「航空燃料は単価が低い上に、相当な量が必要とされます。しかも我々は、燃料領域は全くの門外漢。事業化のめどを付けるのに苦労しました」
バイオ燃料の原料となるのは、ユーグレナから抽出した油脂だ。しかし、原料として膨大な量のユーグレナが必要とされるため、どうしてもコストが高くなってしまう。
「大事なのは環境改善に貢献することなので、ユーグレナだけにこだわっていません。もちろんユーグレナも使いますが、使用済み食用油を主な原料にすることでコスト削減を図ったのです。食用油も、原材料の植物が成長過程で光合成によってCO2を吸収するため、燃焼時のCO2の排出量はプラスマイナスゼロに貢献すると考えられます」(尾立氏)
将来的にはCO2を8割削減
ユーグレナの油脂や使用済み食用油はそのまま使えるわけではなく、それらを原料として、製造しバイオ燃料にする必要がある。ユーグレナの油脂と使用済み食用油を混合したら前処理で不純物を取り除き、水熱反応で燃料に適した分子構造に転換。水素化処理で酸素原子や二重結合を除去し、蒸留の工程を経てSAFとして利用できるバイオジェット燃料や次世代バイオディーゼル燃料が製造される。
その実証を行うべく、ユーグレナ社は横浜市、千代田化工建設株式会社、伊藤忠エネクス株式会社、いすゞ自動車株式会社、全日本空輸株式会社(ANA)の協力のもと、「国産バイオジェット・ディーゼル燃料の実用化計画」を立ち上げ、日本初のバイオジェット・ディーゼル燃料製造実証プラントを建設。2018年に竣工し、2019年春に本格稼働を開始した。
このプラントでは、航空機に利用できるバイオジェット燃料だけでなく、バスや船舶の燃料となる次世代バイオディーゼル燃料も製造が可能である。先に実用化に近づいたのは次世代バイオディーゼル燃料で、2020年3月から供給を開始している。
一方、バイオジェット燃料は、航空機が飛行する高度1万m、マイナス40℃という過酷な環境下でもパフォーマンスを発揮しなければならないため、バイオディーゼル燃料よりも多くの検査項目があり成分の規格が厳しい。そしてついに2021年、バイオジェット燃料の国際規格「ASTM D7566 Annex6」に適合した燃料が完成した。
これらのバイオ燃料は同年6月、一つのブランドとして「サステオ(SUSTEO)」と名付けられた。「サステナブル・オイル」を縮めたもので、地球環境改善に貢献しようという同社の思いが込められている。
今のところ、バイオジェット燃料は単独で使用することが認められておらず、化石由来の燃料に混ぜて使用しなければならない。サステオの比率は現在10%程度だが、同社の製造方法の場合、国際規格では最大50%まで使用することが認められているという。
同年6月に国土交通省が保有する飛行検査機に、このSAF「サステオ」を使用し、初フライトが実現した。羽田空港から鳥取空港を経由し、中部国際空港に着陸する約2時間半のフライトだったが、「サステオ」の使用が問題ないことが確認された。
続けて、株式会社Japan Biz Aviationが運航管理するプライベートジェット機「HondaJet Elite(ホンダジェット エリート)」にも使用され、民間航空機での初飛行も実現させた。
2022年3月には、定期旅客運航を行うエアラインとして初めて、株式会社フジドリームエアラインズ(FDA)のジェット旅客機に「サステオ」を給油し、富士山静岡空港-県営名古屋空港間のチャーター運航を実施した。
また同月、アジア航測株式会社が保有する低翼ターボプロップ双発機に「サステオ」を給油し、大阪・八尾空港を発着地として小豆島上空を周回した。
さらに6月には、中日本航空株式会社が保有するヘリコプターに「サステオ」を給油し、名古屋空港から約30分の飛行を行った。

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2021年6月29日、HondaJet Eliteでユーグレナ社の「サステオ」を使用したフライトを実施
提供:株式会社ユーグレナ
実証試験が順調に進む中、次のフェーズに進むために不可欠なのはバイオ燃料の商業プラントの建設だ。2025年の完成を目指して、2021年にそのための用地を確保し、予備的基本設計を開始した。
「商業プラントは2025年の完成、2026年には本格稼働させ、年間25万kLの生産を見込んでいます。化石燃料を商業プラントで製造した『サステオ』に代替することで、CO2排出量を約8割削減することができると試算しています」(尾立氏)
2050年には日本で2300万kLのSAFが必要に

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左にあるのがバイオ燃料「サステオ」。使用済みの食用油(右)と微細藻類ユーグレナから抽出されたユーグレナ油脂(中央)を原料としている
ANAと日本航空株式会社(JAL)は、SAFの導入促進を目指す世界経済フォーラム「クリーン・スカイズ・フォー・トゥモロー・コアリション(Clean Skies for Tomorrow Coalition)」に参画し、2030年までに世界の航空業で使用される燃料に占めるSAFの割合を10%まで増やすことを目指す「2030 Ambition Statement」に署名した。
SAFの需要が拡大していくのは間違いないが、広く普及させるには課題もある。ネックとなるのが既存燃料との価格差だ。コスト削減に取り組んできたとはいえ、化石燃料の100~150円とはまだ開きがある。
それでも先行する欧米では、顧客がそのコストを負担したり、政府が助成したりといった政策面での支援により、利用が拡大している。日本にも利用拡大の機運はある。今年になって、石油元売り大手が相次いでバイオ燃料市場への参入を表明したのだ。
「我々1社だけでは限界があります。大手が手を挙げたことによって、制度設計が整えられることを期待しています。我々は未だよちよち歩きの状態ですので、政策や飛行機を利用する方々にご理解いただき、ご支援をいただければ状況は変わっていくはずです」
尾立氏にとっては、SAFの普及そのものが目的ではない。SAFは、持続可能な社会を実現するための手段にすぎないのだ。
「ユーグレナ社のフィロソフィーは『Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)』、つまり、持続可能な社会をつくることを何よりも優先しています。パーパスとして『人と地球を健康にする』ことを掲げ、バイオ燃料事業でもその一端を担いたいと考えています。なぜ“一端”かというと、再生可能エネルギーには水素やアンモニアなどもあり、バイオ燃料が万能だとは思っていないからです。飛行機、自動車、船などさまざまな乗り物には電動化できるものとできないものがあり、それぞれがそのときどきに最も適した燃料を使えばいいのです」
ただしバイオ燃料は、必ずソリューションの一つとして存在し続けると尾立氏は強調する。
「バイオ燃料が特に最後まで必要とされるのは、他の再生可能エネルギーでは代替がしにくい航空機だと思っています。日本の航空会社は、2050年には国内で2300万kLのSAFが必要だと試算しています。航空業界のSAFへの期待は一目瞭然です。再生可能エネルギーのソリューションの一つとして、地球環境を守るためのサステナビリティに貢献していきたいです」
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2022.09.14
SAFの認知向上に向けて。官民一体の施策で国産SAFの商業化を後押し
気候変動に関する課題解決のために業界を一致団結させたANAの挑戦
世界の航空会社がSAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)の導入にまい進する中、2021年10月にSAFを利用したCO2(二酸化炭素)削減プログラム「SAF Flight Initiative:For the Next Generation」を立ち上げるなど、アジア圏におけるSAF普及促進のリーディングカンパニーとなっているのが全日本空輸株式会社(ANA)だ。同社がけん引する日本におけるSAF普及のロードマップとは? 国産SAFの早期商業化に向けた道筋を考える。
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- 第3回SAFの認知向上に向けて。官民一体の施策で国産SAFの商業化を後押し
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2030年に目指す、消費燃料10%以上のSAF置き換え
持続可能な航空燃料=SAF(Sustainable Aviation Fuel)に注目が集まる中、アジア圏におけるSAF実用化のリーディングカンパニーとして旗を振るANAは、2022年4月より脱炭素を専門とした社内チーム「GX(グリーン・トランスフォーメーション)チーム」を発足した。各部署と連携を取る形で、国際航空の環境規制におけるルールメーキングや脱炭素トランジション戦略をはじめ、航空機への新技術導入や運航改善、SAFやネガティブエミッション技術の利活用研究、航空利用顧客向けの脱炭素プログラム「SAF Flight Initiative」といった取り組みを行っている。
元客室乗務員の経験を生かし、社内におけるSAFの重要性の認知度向上を目指す同チームの緒方明日香氏も、「ANAでは、2021年6月にESG経営推進を掲げたスローガン『ANA Future Promise』を発表させていただきました。そこでは、SAFの活用だけでなく、機内食のフードロスや使用資材のリユース、環境配慮型素材の活用など、サステナブルな事業運営に取り組むことを掲げています。環境問題に対して、SAF以外の領域でも今後も試験的にさまざまな形で取り組んでいきます」と意気込む。

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緒方氏は、客室乗務員の業務を通じて感じていた課題をGXチームの取り組みにも生かしていきたいと話す
経営戦略室エアライン事業部GXチームの吉川浩平マネージャーによれば、世界におけるSAFの流通量は2020年時点で航空燃料全体の0.03%に過ぎず、2021年度の全世界生産量は約12万5000kLにとどまっている。持続可能な開発を目指す航空業界の連合体ATAG (Air Transport Action Group)が発行する報告書「Waypoint2050」においても、2030年のグローバルなSAF供給量は高位推計でも全需要の6.5%と予測されており、SAFの量産化が難しい課題だということが分かる。
一方、ANAは世界経済フォーラム「Clean Skies for Tomorrow Coalition」に参画し、世界の航空業界で使用される燃料に占めるSAFの割合を2030年までに10%に増加させることを目指す「2030 Ambition Statement」宣言に共同で署名するなど、世界的にも野心的とされるターゲットの実現に向けた取り組みを着々と進めている。
現在、研究開発ベースではなくSAFを量産できるエネルギー会社はフィンランドのNESTE社と米国のワールド・エナジー社の2社のみ。「2社の生産能力」=「グローバルSAF製造量」になっているのだという。ANAもまた供給量を安定的に確保するべく、2020年8月にNESTE社とSAFの調達に関するパートナーシップを締結。2020年10月からは、アジアの空港からの出発便として初となるSAFを使用した定期便の運航を開始した。

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廃食油などから再生ディーゼルを生産しているNESTE社(オランダ・ロッテルダムの再生燃料工場)へ訪問した際の写真
提供:ANA
SAFの需要に対して供給は非常に限られている現状だが、吉川氏は最大のボトルネックとして原料調達を挙げる。この点は、前回の記事で伝えた話(※1本目の記事リンク)と同様だ。
こうした中で、2021年6月にANAは国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が供給する微細藻類を原料とするSAFを利用し、国内線定期便での商業フライトを実施。国産SAFを利用した初めての事例として注目を集めた。一方で国産SAFの商業生産はまだ開始されていないため、この取り組みは現時点で1回のみの実施にとどまっている。
JALとも連携して普及に努める
吉川氏はSAF普及に向けた今後の課題として、「日本における官民のセクターを超えた連携が重要」だと指摘する。米国では、2021年9月にバイデン政権が「2050年までに航空部門(軍事・非軍事双方を含む)で使用される燃料を全てSAFに置き換える」と発表し、各省庁や米軍を含めて燃料転換に向けたブランドビジョンを策定するなど、国全体でSAF実用化に向けてまい進している。
一方の日本では、国土交通省と経済産業省がハブとなって官民協議会を組織し、農林水産省や環境省、SAFを製造する会社、使用する航空会社が参加。官民のセクターを超えたより良い連携が始まっている。ここで課題が解決されれば国産SAFの商業化も近づき、さまざまな脱炭素への取り組みがより加速するだろうと、吉川氏は希望を見いだす。
民間では企業間でも連携を強めており、2022年3月にはANAをはじめ、日揮ホールディングス株式会社、株式会社レボインターナショナル、日本航空株式会社(JAL)が幹事企業となり、国産SAFの商用化や普及・拡大に取り組む有志団体「ACT FOR SKY」を設立した。

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現ANAホールディングス副会長・平子裕志氏(左。撮影時はANA代表取締役社長)とJALの代表取締役社長・赤坂祐二氏(右)が手を取り合い、国産SAFの商業化、普及に向けて取り組んでいくとした
この背景には、SAFの重要性を航空業界の内外に発信する目的もあったという。
「我々がSAFを導入する動機の入り口は、確かに環境規制対応だったのですが、今はお客さまの期待に応えるために環境対策に取り組む必要性を強く感じています。近年、欧米では”飛び恥”と言われるように、気候変動対策に取り組まなければ、今SDGsなどを当たり前に学んでいる子供たちが大人になったとき、『飛行機に乗ることは環境に悪いから良くないこと』というイメージを持たれてしまうかもしれない。でも飛行機が悪いのではなく、温室効果ガスを大量放出することが悪いのです。そして航空業界は温暖化対策の解決策を持ち、実際にアクションを起こしている。環境との調和に正面から向き合いながら、航空輸送の使命である『人と人を繋ぐ、物流を繋げる』という社会的使命を諦めずに全うしていきたいです。また、欧米を中心としたグローバル企業や物流事業者様からの『カーボンフットプリントを抑えたい』という需要も、確実に顕在化し始めています」(吉川氏)

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「飛行機によって世界中を見て回ることができる機会を、次の世代にも気持ちよく引き継いでいきたい」と語る吉川氏
カーボンフットプリントとは、商品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算し、提示するものだ。その数値をできるだけ抑えることが、環境配慮企業であることの前提条件となりつつある。
企業の協力を後押しするプログラムもスタート
企業や個人のカーボンニュートラル社会への意識は年々強まっている。今後気候変動にただ手をこまねいているだけの企業は広く支持を失っていくだろう。冒頭で伝えた『SAF Flight Initiative』プログラムも、こうした取り組みの一環となる。
同プログラムを利用すると、SAFによるCO2排出量の削減効果を証明する証書が発行される。現在、SAFの価格は通常のジェット燃料の2〜10倍となっているが、この追加コストを顧客が負担することによって、CO2排出削減効果が顧客に帰属し、ESG投資を重視する投資家や事業家にとってのメリットになるのだという。
吉川氏は、「SAF料金は『それを支払えば運ぶ』という”運賃”ではなく、トレーサビリティを担保した上でのプラスアルファの価値となり得ます。『SAF Flight Initiative』は、SAFを推進する我々とお客さまにとってwin-winとなるプログラムなのです」と話す。
実際、2022年4月には出張利用などを見越した「SAF Flight Initiative」のコーポレート・プログラムが始動し、伊藤忠商事株式会社、野村ホールディングス株式会社、一般財団法人運輸総合研究所の4社が参画を発表。その他の企業からの問い合わせも日に日に増えてきている状況だという。

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SAFを利用する価値を広めるために、企業にとってのメリットを提供していく
提供:ANA
ますます必要性や需要が高まっていくSAF普及に向けて、吉川氏は今後の取り組みについて次のように語る。
「航空業界では現在、水素航空機の実現や電動化も検討が進められています。こちらも非常に重要な研究ではあるのですが、同時に大型航空機の長距離運航には液体燃料が必須というのが全世界的な共通認識です。我々もJALさんとタッグを組んで航空業界としてメッセージを発することで、さまざまな業界の日本企業がSAF製造計画を発表するなど、ようやくSAFにスポットライトが当たる状況になったかと思います。
SAFを使わなければ、航空機によるCO2排出量は削減されませんので、我々としてはまずしっかりと使っていく。社内外にSAFの需要シグナルを送ることで、お客さまや燃料の製造者様にSAFの認知のみならず、必要性や良さを理解していただけるような環境づくりが必要だと思います。
また、国の制度面でも政策のフレームワークをきっちりと策定することが重要だと考えています。米国が国全体でSAFをプロモーションする一方、欧州議会では2050年時点でSAFの使用率を85%にまで引き上げる義務化の提案も出されています。国策として打ち出すか、法整備による義務化とするか、日本の選択にも注目が集まっています。我々としては海外動向などをしっかりと国にフィードバックしながら、国産SAFの製造を含めた環境づくりを支えていくつもりです。そのために、今後もSAFの認知度向上に向けた取り組みを行ってまいります」(吉川氏)
人々の移動や物流・運輸を支える航空業界が、持続可能な社会に向けてどのようにアプローチしていくのか。技術の発展だけでなく、国や各企業の取り組みにも期待がかかる。
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- 気候テックが切り開く未来
- 「気候テック」とは何か? 地球沸騰化が叫ばれる今、注目を集める理由
2024.11.25
「気候テック」とは何か? 地球沸騰化が叫ばれる今、注目を集める理由
東京大学発のスタートアップ支援組織・FoundXの馬田ディレクターに聞く、気候テックビジネスの可能性
「気候テック(Climate Tech)」と聞いて、その具体例やビジネスをイメージできる人はどれくらいいるだろうか──。「天気予報向けの新しいテクノロジー」などと思う人もいるかもしれない。しかし世界では今、社会課題を解決する気候テックのスタートアップが次々と生まれ、未来を担うビジネスとして成長しつつある。本特集第1回は、そうしたスタートアップ支援を展開する東京大学産学協創推進本部「FoundX」ディレクターの馬田隆明氏に「気候テックとは何か?」「気候テックが注目される理由」を聞く。
(<C>カルーセル画像:Hsueh Yi An / PIXTA<ピクスタ>)
- 第1回「気候テック」とは何か? 地球沸騰化が叫ばれる今、注目を集める理由
- 第2回
- 第3回
- 「気候テックが切り開く未来」に戻る
気候テックに眠る可能性
「気候テック」という言葉は、日本でもコロナ禍以前から気象・気候関連ビジネスを中心に使われ、気象情報を発信する株式会社ウェザーニューズでは2022年に気候テック事業部を立ち上げている(本特集第2回参照)。
東京大学の卒業生の起業、スタートアップを支援するFoundXの馬田氏は、気候テックに関して「2018~19年ごろに知って、ビジネスの可能性を感じました」と話す。
「『気候テック』という言葉は、地球温暖化で生じる社会課題を解決するテクノロジー、かつ、そうしたテクノロジーを包含する事業を指して使われています。近しい言葉に『クリーンテック』がありますが、ニュアンスとしてカバーする領域がエネルギー関連の技術などに限られます。一方、気候テックは地球の持続性に結び付くあらゆる事業を指すので、より広く多様な領域をカバーします」

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「アメリカでビル・ゲイツが気候変動ベンチャーキャピタル・ファンド『ブレークスルー・エナジー』を創設するなど、世界的な潮流を踏まえ、日本でも気候テックから大きなスタートアップが生まれる可能性があると感じました」(馬田氏)
地球温暖化対策には、次の3つの概念がある。
■気候変動やその対応状況について知る「理解」
■二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量を削減する「緩和」
■気候変動の影響を軽減する「適応」
これら「理解」「緩和」「適応」といった領域で気候テックはさまざまな形で用いられる。
「気候テックがカバーする主な領域を挙げると、『理解』に対応するような炭素排出量を把握するカーボンアカウンティング事業が先行しつつ、『緩和』に属する化石燃料由来エネルギーの再生可能エネルギーへの置換や、バッテリーやストレージの研究・開発を含むエネルギーのクリーン化、鉄鋼などの製造時に発生するCO2の排出削減などになります。ほかには自動車や飛行機などの電動化、水素の活用、鉄鋼・セメントなどの製造過程や畜牛の出すゲップから生じるCO2の排出削減、DAC(Direct Air Capture/直接空気回収技術)※のように大気中のCO2回収なども、ビジネスとしての気候テックに含まれます」
※DACに関する記事:世界最速級を実現! 大気から直接CO2を高速回収するDAC(Direct Air Capture)はCNの切り札か?
気候テックが注目されている理由
気候テックが今、注目される背景について馬田氏は「ビジネス、中でもスタートアップが海外で非常に盛り上がっていることが挙げられます」と話す。

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2021年、気候テックのスタートアップは世界で過去最高の320億ドルの投資を調達。5年間で投資額がおよそ5倍に増大した
「ベンチャーキャピタルの投資領域を見ると、非常に高い割合でお金が気候テックに流れています。特にアメリカは、バイデン政権が率先して補助金や税制を整備し、スタートアップに限らず全般的に気候テックが盛り上がりました。ヨーロッパでもルールメイキングなどアメリカとは違う形での支援が進んでいます」
アジアでは現在、中国が気候テックをリードしているという。
「中国は2020年以降、ITのスタートアップが下火になったのですが、もともと国全体でグリーン製造業に注力していた結果、気候テックのスタートアップの存在感が高まってきています。元々、中国は排気ガスの大量排出や空気汚染が問題視され、この問題を解決するために技術開発が進んでいた結果、現在の気候テックにもつながっていると聞いたこともあります」
気候テックの領域で、このまま海外先行でスタートアップの成長が進むと、近い将来、日本の産業は大きな社会の変化にのまれ衰退してしまう懸念がある。
「日本は今、気候テックに向き合わなければ、例えばCO2を排出し続けている産業が近い将来、海外の気候テック企業にシェアを奪われかねません。エネルギー・鉱物資源は輸入に頼りきりな一方、輸出は自動車がけん引しているものの、EVの台頭で今後どうなるか分かりません。そうした国の状況を見れば、日本は産業政策として、気候テックの領域で20年、30年後にも通用する企業を育むべきです。
2050年のカーボンニュートラル達成を進める中で、産業の構造がいろいろと変わっていくことは間違いありません。そうした大きな変化は既存のビジネスにとっては脅威かもしれませんが、別の見方をするとビジネスチャンスでもあります。日本の気候テックスタートアップが世界に打って出る可能性も十分あるでしょう」
では、日本では今どのような気候テックが登場しているのだろうか。
「たとえば『カギケノリ』という海藻を養殖し、牛に食べさせることで、牛のゲップに含まれるメタンガスの排出量を減少させるスタートアップ事業があります。日本は海藻関連の技術が相対的に秀でています。かつ、牛のような反すう動物のゲップ抑制は世界的な課題ですので、ビジネスとして世界へ広がる可能性は高いです。また、持続可能でありながら自然条件への依存度の高さから普及が進まない地熱発電の課題を、テックを用いて解決して生産量を上げる事業を進めている起業家もいます。これも火山国で地熱利用が研究されてきた日本ならではのスタートアップでしょう」

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牛の胃の微生物により消化分解と同時にメタンが生成され、ゲップとして排出される。メタンはCO2の約28倍の温室効果があり、気候変動の対策の一環として課題となっていた。「カギケノリ」(画像右)を飼料に0.2%混ぜて牛に与えると、メタンガス排出量が最大98%減少するという
画像提供:株式会社サンシキ
日本は他にもマテリアル、プラントメーカーの技術に優れ、世界に優位性をもって進出できる気候テックが生まれる下地がある。
だが、馬田氏は「現在の優位性だけで物事を判断するのではなく、産業の地殻変動が起こりつつある今、その機会の大きさにも目を向けるべきだと思います。現在の優位性のあるなしだけで判断してしまうと、大きな機会を見逃すことになりかねません。それに可能性の高い気候テックのスタートアップを一つでも多く育てなくてはならない状況を考えると、優位性はやり始めた後についてくると考え、さまざまな挑戦をしていったほうがいいように思います。それに世界視点で考えた場合、日本は産業的に『待ったなし』の状況でもあるからです」と強調する。
必要なのは、気候テックを担うスタートアップ人材
気候テックを活気づけ、20年、30年後の主要産業を育むことは、カーボンニュートラルの達成、気候変動の緩和と適応の観点はもちろんだが、国内外に通用する新たな産業の創出に伸び悩む日本にとって必須と言えるだろう。しかし、その実現達成にも課題がある。
「スタートアップの観点から見て、気候テックと向き合う起業家の数が足りません。世界的に見ても、投資する側には気候テックは十分認知されていますが、日本ではビジネス視点でまだまだ周知されていません。世界では多数のスタートアップが出てきているのに、日本では『環境に良いことは儲からない』と言われることもまだあります。私が知る範囲でもは、現在、日本で気候テックに取り組んでいるスタートアップは100社ほどではないかと思います」
こうした中、三菱地所株式会社が10月に気候テックに特化したスタートアップ事業拠点「0 Club(ゼロクラブ)」(本特集第3回参照)を開業するなど、ビジネスとしての気候テックを取り巻く環境は少しずつ変化し始めている。

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2024年10月1日、東京・大手町に開業した「0 Club」。馬田氏も今後、同施設でスタートアップ向けのイベントなどに参加し、気候テックを担う人材育成を後押しする
画像提供:三菱地所株式会社
「誤解されがちですが、スタートアップ観点で気候テックへ参入する場合、気候・気象などの専門知識が事前に必要というわけではありません。もちろん、あったほうがいいことは間違いないのですが、先述の海藻養殖や地熱発電のスタートアップに取り組んでいる2人は、前職はソフトウェア開発のエンジニアでした。要は、自分の強みがあろうとなかろうと、機会がありそうであればそこに飛び込んでみて、そこで学ぶ意欲があるかどうかです。
確かにビジネスモデルを練る時間や事業化のために必要なノウハウは、例えばITなど他のビジネス分野よりも多いかもしれません。だからこそFoundXでは、その部分を少しでも支援できたらと考え、気候テックに向き合っています」
気候テックがスタートアップの台頭とともに、私たちにとってより身近なビジネスとなる。
そんな未来が見え始めている。
次回、本特集第2回は、気候テックをビジネスに取り入れ企業の気候変動対策をサポートする気象情報会社へ取材、気候テックをさらに深く掘り下げていく。
- 第1回「気候テック」とは何か? 地球沸騰化が叫ばれる今、注目を集める理由
- 第2回
- 第3回
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