トップ国内【連載】脅かされる信教の自由-57- エピローグ(中) 宗教の価値否定する最高裁

【連載】脅かされる信教の自由-57- エピローグ(中) 宗教の価値否定する最高裁

国際宗教自由連合 (ICRF) 名古屋大会で講演する杉原誠四郎氏=12月9日、 名古屋市(豊田剛撮影)

「2009年にコンプライアンス宣言をした。先祖の因縁などで不安を煽(あお)って献金させてはいけない、経済状況に比して高額献金をさせてはいけない、ということは何度も指導もしてきた」

世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)の田中富広会長は本紙インタビュー(12月3日付既報)でこう強調した。その結果、献金を巡る裁判が大幅に減っただけでなく、安倍元首相暗殺事件後は献金の際の確認作業を徹底していることも付け加えた。

そんな中、今年7月、家庭連合の女性信者が教団に献金の返金を求めないとした「念書」を無効と判断した最高裁判決があった。家庭連合側が勝訴した一審と二審の判決を破棄し、審理は東京高裁に差し戻された。

信教の自由や憲法の問題に詳しい国際歴史論戦研究所の杉原誠四郎会長は12月9日、名古屋市で開かれた信教の自由がテーマの集会に登壇し、「欺瞞(ぎまん)に満ちた稚拙で政治的なもの」と、この判決を批判した。

その効果が争われた念書は、女性信者が2015年、自身が納めた献金について「返金や賠償を求めない」ことを確認するために書かれたもの。なお、この女性は3年前に亡くなっている。

判決文は、「家庭連合の心理的な影響の下」にあり、「冷静に判断することが困難な状態にあったというべきである」としている。特定の宗教を信仰する者は、少なからずその団体の心理的影響下にあることを考えると「非常に乱暴で浅薄な宗教観」だと杉原氏は批判した。

22年12月に制定された「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律」(不当寄附勧誘防止法)が判決文に引用されている。念書の正当性に疑義を呈する根拠となっている。ただ、女性信者が献金をしたのも念書を書いたのも、同法が制定される前だ。最高裁判決でこれを引用することは、「法学の初歩的原理である遡及(そきゅう)禁止の原則に反している」(杉原氏)。

信心に基づく献金は無効であり過去にさかのぼって取り戻せると、司法がお墨付きを与えたようなものだ。杉原氏は、家庭連合バッシングありきで成立した同法と最高裁判決は、「宗教や信仰に価値がないと言っているに等しいものだから、宗教界が声を上げなかったらおかしい。国連に批判の意見を出すべきだ」と主張した。

こうして家庭連合の信教の自由が脅かされている中、信者らは全国各地で信教の自由を訴える集会を開き、さまざまな宗派にも参加を呼び掛けている。家庭連合の解散命令請求の不当性を訴えることに加え、信教の自由のために宗教各派による連帯を強めることを目的としている。

各地の会場では多くの宗教家の姿はあるものの、登壇して声を上げる人は少ない。大阪の集会に参加していた新興宗教の役員の男性は、「(家庭連合の)解散命令請求には反対の立場であるし、連帯している」と言うものの、表立って訴えることはしていないと話した。行動を共にして声を上げれば世論に家庭連合擁護派とレッテル貼りされ、「“同じ穴の狢(むじな)”のように言われる」ことを恐れているという。信教の自由に対する危機感を抱きながらも、家庭連合と距離を置いているのが宗教界では多数派となっている。

家庭連合の訴える信教の自由について田中氏は本連載の中でこう述べている。「チベットやウイグルの問題などで世界の人権活動家は動いているのに、教団が教団だけの人権を叫ぶだけでは通らない。他宗教の信教の自由にも本気で取り組む覚悟をしないといけない。教団がそういうテーマにちゃんと向き合って、関わっていくことを期待されていることも感じている」(12月2日付)

日本全体の信教の自由を懸けて声を上げ続けることが、信頼を取り戻す重要な一歩となっている。(信教の自由取材班)

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