「いや、あのね? 存在だけでエロいんスよ」
「本当にそれはどうしろと? ……女性を対等と見て接する男性が少ないのは認めるけど……そんなに私は特別なことをしているつもりはないんだよ」
「そうじゃないんスよ。やっぱ副会長は何にも分かってないんスね」
「そうかそうか。では
私に出せる精一杯の威圧感を出しながら目の前の女生徒……生徒会書記である
元はと言えば君がいきなり変な話を始めるのが悪いと思うんだけど……直近の相談会でも苦言を呈されたことだし、ここらで身近な人間から意見を取り入れるのも悪くない。
彼女……夢咲さんは、何気に中学生からの付き合いである。
中学生の時も私は副会長だったが、彼女もまた書記としてともに時間を過ごしてきた。
茶髪の片目を隠したショートヘアかつ、常にダボッとした制服を着こなす彼女は、傍から見ても大変可愛らしく、小動物的な要素が散見していた。
まあ、極度のめんどくさがりやだしジト目がデフォだから、私が夢咲さんに対して小動物みたいな可愛らしさを覚えることはなくなったんだけどね。
それはともかく、そこそこ長い付き合いである彼女とは気兼ねなくお互いのことを言い合える戦友のような関係性だ。
外を出れば熱い視線と劣情を抱かれる私としては、気を張らなくても良い唯一の人間であり、彼女もまた私のことを性の対象としては見ていないだろう。
……いや、それは嘘かもしれない。
客観視した性の目線はあるものの、彼女が私に対して危害を加えないだろうという一種の信頼のもとに成り立っている関係性……とでも言おうか。
まあ、先日獣のような咆哮をあげながら私の欠点を指摘した有村さん曰く、私は他者の視点に鈍感らしいから、仮に夢咲さんが私に劣情を催していたとしても気づかないだろうけど。
生まれてこのかた実力行使で襲われたことは無いし、あまり警戒しすぎるのも良くないと思うんだけどなぁ。
「相変わらず副会長は鈍感ッスねぇ〜。やれやれ」
「そうは言われてもね。他者の感情を察することがどれほど難しいか」
「んなメンタリストみたいなことをしろ、って言ってるわけじゃないんスよ。客観的事実と行動からある程度の事情の予測と警戒をしろってだけで」
「言葉に表すと更に難易度上がってないかい?」
やれやれと頭を振りながらジト目で私を見る夢咲さんは、こいつは頭までお花畑だな相変わらず、みたいなことを言いたげな視線だった。実際一年前にこのセリフ言われたしね。
「簡単に説明するとっスね。脇が甘いんスよ、副会長は」
「なるほど?」
「日常の仕草だったり接し方。距離感が近いのは最近自覚したみたいッスけど、それだけじゃない。──首筋の汗の拭き方、暑さで紅潮した頬、たまに廊下でスッ転んだりするドジの踏み方。おのれは漫画の住人ッスか? 一々やることなすことエロいんスよ……!!」
「なんか一部どうしようもないの入ってない?」
謎に熱量が高い夢咲さんの圧に押されつつも、有村さんと似たようなことを言っているなと感じる。
これだけ付き合いの長い夢咲さんも言っているのだ。やはり、私にはどことなく詰めの甘さや、行動や所作が扇情的に見える部分があるらしい。
「うーん、どうしたものか。何か解決方法があったりしないかい?」
そう彼女に問い掛けると、待ってましたと言わんばかりに瞳がキュピーンと輝いた……気がした。
どこかその表情は怪しげな笑みに満ちているようであったが……私の気の所為だろう。
「ま、鈍感な副会長サマには解決方法なんてサッパリ浮かばないッスよねぇ〜」
「うん、さっぱりだ。なにせ鈍感である自覚も無いからね」
「そこで言い切っちゃうのがなぁ……」
「欠点を欠点のままにしておく道理はない。君の言葉が解決に繋がるというのなら、しっかりと傾聴しなければと思うよ」
「こんのクソボケお真面目ちゃんがよォ……近い近い近い」
手を握りながら「だから教えておくれよ」と頼み込むと、まるで梅干しを全力で舌で味わってるかのような渋い表情をしながら、早口でボソボソと何かを呟いていた。
「精神統一精神統一……ふぅ〜……、はい。ズバリは特訓すれば良いんスよ。特訓」
「特訓? なんの?」
「私は思うんスよ。副会長がこう他人の視線に鈍感なのは、羞恥心が無いからじゃあないかと」
「失敬な。私にだって人並みに羞恥心くらいあるさ。スピーチで噛んだ時とかすっごい恥ずかしい」
「あのあと頬染めて言い直すのくっそエロいんスよね」
「何で?????」
日常の私の行動全てがエロチックに変換されている件について。判定おかしくないかい??
「ごほん……それで。羞恥心が無いというのはどこから発展したの?」
「他人の視線に敏感になるってことは、見られていることにストレスを感じたり、嫌悪感……またはそれに付随する感情を覚えている時ッス。男の人とか特にそうじゃないッスか? 女性に見られることでストレスが発生するから、自衛として過度にゴテゴテした服装を着る。衆目に晒すことを嫌う。とどのつまりは防衛本能ってわけッスね」
「まあ、言いたいことは何となく分かるよ。でも、羞恥心とはどう関係するんだい?」
確かに、見られたくないから人の視線を過度に気にするという症状は理解できる。前世でも実際そういうことがあった気がするし。
特にイジメられてた時は人の視線にビクビクしてたっけ。転生してそこら辺バグったけども。
……あぁ、なるほど。彼女が言いたいことはそういうことか。
「副会長は見られることにストレスを一切感じないッスよね? そこがわりかし人としてヤバメではあるんスけど、そうじゃないなら一段階スケールを下げて嫌悪感を羞恥心にシフトするんス。副会長が見られることを多少なりとも恥ずかしいと思えるようになれば、人の視線も分かるようになると思うんスよ」
「なるほど理に適ってる」
「──というわけで副会長にエロいことして良いッスか??」
「──────なんだって??」
この後輩……スケベの香りがする……