「あ、いや、別にぃ? 私が副会長にエロいコトしたいわけじゃないッスけどぉ? ほら、荒療治ってあるじゃないスか。私のするエロいことに羞恥心が芽生えれば副会長の鈍感さも少しはマシになるんじゃないかって感じッス」
ハチャメチャに顔を赤くしながら慌てふためく夢咲さんの言葉には微塵も説得力がない。
誰がどう見ても私にエロいことをしたいと思っているゆえの発言だと────彼女を知らない者から見ればそう思うだろう。
ふふ、私は分かっているよ、夢咲さん。
「エッ、なんでこの人急にアルカイックスマイルを……?」
夢咲さんはめんどくさがり屋で適当なところはあるけども、元来の性格としてはとっても優しいのだ。
見ず知らずの人相手でも身を切ることを厭わない精神性を持ち得ている、傍から見れば聖女のような。そんな美しい心意気を持っていることを私は知っている。
荷物を持ったご老人がいれば颯爽と手を貸し、困った人を見かければすっ飛んでいって笑顔で話しかける。
学校や生徒会での活動も率先して行っているし、私としても実のところ夢咲さんへの好感度はかなり高いものとなっている。
まあ、そんな美しい精神性を利用されて傷ついた過去も彼女にはあるから、一概にすべてを肯定するわけにはいかないと先輩として己を律しているけどね。
今回の発言とて、彼女は善意100%だと思う。
きっと不甲斐ない先輩のために身を切ってまで……他人に聞かれたらかなり危うい言葉を発してまで私のために行動しようとしているのだ。
「夢咲さんは相変わらず身を切ってまで人を助けようとするんだね」
「……どっちかというと身を切るのは副会長なんスけど……?」
私の言葉に疑問符を上げる夢咲さんは、どこか戸惑っているようで。
……いや、前も思ったように彼女も年頃の女性だから、客観視した性の目線を私に送ることもあるだろう。
だがそうだとしても、私は彼女の善意を無駄にはしたくないのだ。
「好きにするといい。私のためにそこまでしてくれるのならば、止めることはないよ」
「──はぇ? え、うぇ? 夢?」
手を広げて笑いかけるた瞬間、夢咲さんは鳩が豆鉄砲を食らったように目をまん丸にして呆けていた。
その口元からは、無意識的に涎が垂れていた。
とはいえ好きにして良いとはいえ、彼女はきっと躊躇って何もできないだろうと、私は制服のボタンをプチプチ外し、ワイシャツが露出した状態になる。
白地のワイシャツには、男性用の下着がドドンと透けていて、夢咲さんの熱視線が私の胸元に集まっていた。
……うーむ、どうにも男性の上半身にエロスを感じる文化が無いためか、ジッと見られたところでまったく羞恥心を感じることがないなぁ……。
だからこそ無防備だと怒られるわけだが。
「ちょ、副会長、なにして」
「そのままだと君もやりづらいだろう?」
「ヤ、ヤりづらい……え、良いんスか……? マジで……? 勝確……? 私、ここで大人になるんスか……?」
ブツブツと彼女を顔を真っ赤にしながら呟いている。
君のほうが恥ずかしがってどうするんだ……。
……さて、彼女の決意に従ってどこまで私も身を切るべきか。
当然だが、貞操を明け渡すつもりは無い。
というか夢咲さんの方が嫌に決まっているだろう。興味があったとしても、好きでもない男としたがる女性は……いや、この世界に限っては当てはまらないだろうが、夢咲さんは無いさ。
うーん、下半身は羞恥心以前に人としての尊厳を失くす気がするからダメだね。
となれば、夢咲さんには私に接触してもらって確かめる方法を取るのが一番かもしれない。
「夢咲さん」
「ひゃいっ!! な、な、なんスか!!」
「嫌かもしれないけど、私に触ってもらえないかな? 羞恥心が芽生えるか確かめたいんだ」
「さ、触る……ごくり。な、なんで副会長のほうが乗り気になってんスか……!! いや、役得だけど……!!」
夢咲さんは喉を鳴らして私の体全体を舐めるように見渡す。
なるほど。これも羞恥心を芽生えさせるための行為かな? 残念ながら微塵も芽生える気配はないけど。
そもそも中学時代に一瞬だけだけど裸とか見られたしね。今更感はあるかもしれないけど、今回は私から見せたわけだしちょっと違う感覚かも。
「──いいよ」
「……アッ、あっ……うっ」
夢咲さんがゾンビのようにふらつきながら近づいてくる。
傍から見ても怪しげな色に瞳が染まっていて、本能のままに動いているような気がする。
「ほ、本当に良いんスよね? 後から訴えるのとか無しッスよ??」
「そんなことするわけないじゃないか。私から頼んだのだから」
「そ、そッスよね」
すると、私の目の前まで来た夢咲さんが恐る恐るといった様子で手を伸ばしてくる。
私と彼女の身長差は30cmほど。
かなり小柄な彼女が触れようとしたのは私の顔のようで、触れやすいように私は屈むと、一瞬彼女の目線が私の胸元に集まる。
「み、見え……うぅ……」
彼女の茶色の髪が私の視界を覆う。
次の瞬間、ぼうっとした表情で私の頬を触る夢咲さんの表情が見えた。
ふむ、いきなり胸元とかに触らないってことは、やっぱり夢咲さんは自分を律することができているに違いない。
となれば目線とか表情は演技……すごいな夢咲さんは。
大女優もびっくりの演技力だ。
私が感心していると、彼女は不意に瞳をぐるぐるさせたまま、体までもふらふらと揺れ始め──
「うぅ、うぅ……あう……も……ダメ……ッス……」
──そんな言葉を言い放ってぶっ倒れた。
「──あ、あれ……?」
もしかして、本当に限界だった……?
☆☆☆
私は昔から断れない性格だった。
別に人の役に立つことが好きだったわけじゃない。誰かに良い顔をしたかったわけじゃない。
ただただ──集団から省かれたくなくて。
嫌われたくなくて。イジメられたくなくて。
そんな浅い考えでいたからか。
小学生に得た無自覚な悪意は、中学生になると自覚ある悪意に変わり──私はクラスの女王様的な人にずっとパシられることになった。
アレ買ってきて、コレ買ってきて、この課題やってきて。
犬のように頷いて尻尾を振り続ける日々。
嫌だなんて言えなかった。
女王様は──彼氏がいたから。
幼なじみの男の子と付き合っているから。
たったそれだけのことで、絶対的な権力を持っていた。
女王様がすべてを支配する教室。
この構図は中学生の間、ずっと変わらないと思っていた。
──そんなある日。
「このクラスに夢咲さんという生徒はいるかな?」
──王子様がやってきた。
この学校のたった一人の男子生徒であり、圧倒的な顔面力と優しさを誇る伝説的な人。
普通の男の人は、女性というだけで嫌悪したり嫌な顔をする。
それなのに、この人だけは誰にでも分け隔てなく優しいのだと神格化されていた。
そんな人が私を呼んでいる。
一体なんの用なんだろうか。
「え〜、副会長さん、夢咲に用事あるの? それ、あたしじゃダメ〜?」
お前彼氏いるだろ!! とクラスの人間はそう思った。
彼氏がいると誇っていた女王様は、王子様の前で全力で媚を売っていたのだ。
だが、悔しいことに女王様は一般的に見ても容姿が優れていたから、きっと私の用事もすぐなくなるだろうと思っていた矢先、王子様はニコリと笑って──
「うん、ダメだね。私は夢咲さんに用事があるんだ」
「えっ……」
──と言い放った。
にべもない勢いの返答に、女王様は硬直した。
硬直してる間に、王子様は私を視認するとパッと顔を明るくさせて近寄ってきた。
「確か君だよね、夢咲さんは。ほら、この前ノート落としただろう? 持ってきたんだ」
「あ、ありがとうございます……」
──なんだ。ノートを渡しに来ただけか。
私はちょっとガッカリしたし、女王様も納得したような表情を見せていた。
そうだ、こんなものだ。人生は。
物語のような展開なんてあるわけが──
「ごめんね。拾った時に丁度ノートの中身を見てしまった。──綺麗な字だったよ。それに、とっても見やすくて、意義のあるノートだった」
「え、あ、ありがとうございます……うれしいです」
かぁと顔が赤くなる。
王子様にべた褒めされる経験なんてあるわけがない。たとえそれがお世辞だとしても、私の一生物の宝物になることは間違いないし──宝物はこれで終わらなかった。
「君を生徒会書記に任命しようと思ってるんだ。まあ、最終的に決めるのは生徒会長だけど、必ず通してみせる。君が欲しいんだ、夢咲さん」
「──へっ!?!?!?」
まるで物語で見た告白シーンのように王子様から放たれた一言は、教室中を騒然とさせた。
「王子が夢咲を!?」
「なんでェ!!」
「脳が……震える……アッ」
「いやぁぁぁあ!!!」
「んほおおおお!!」
いや、正しくは阿鼻叫喚か。一部変な人いるけど。
しかし、王子様はなんで騒がれているのか分からないといった表情で、とてもじゃないが告白したとは思えない様子だったから、私は察した。
きっと本心なんだろうけど、この人天然なんだ、と。
それでも嬉しい。私のあるがままを見て選んでくれた事実が、たまらなく嬉しかった。
「待ちなさいよッ!!! どうして夢咲が選ばれるのッ!! 普通はあたしみたいな人間でしょ!?」
──あぁ、またあなたは邪魔をするのか。
断れない私を、邪魔するのか。
過去の事実が頭をよぎり、私は俯く。女王様の言葉になんの反論もすることができなかった。
すると、ぽんっと頭の上に温かい温もりが広がるのを感じた。
ぱっと顔を上げると、王子様が私の頭を優しい表情で撫でていた。
「私が夢咲さんを選んだ理由は言った通りだよ、
「あ、あたしだって字綺麗だし、成績だって夢咲よりも良いわ!」
「でも……君には思いやりがないだろう? ──言っておくけれど……君の好き勝手な振る舞いを生徒会は無視していない。ここにいる夢咲さんに無理を強いたことは把握しているんだ」
「っ、そ、それは夢咲が勝手にやってることだから! なあ、夢咲!」
「あ……いや……」
言葉が出てこない。
断れない。私は変われない……そんな思考に陥った私に手を差し伸べたのも、やはり王子様だった。
「ふふ、生徒会に入ったからにはノーと言えるようになるまで訓練に付き合おうじゃないか。おっと、まだ入るって言ってなかったね」
「──は、はいります! 入らせてください!」
「ノーと、言っても良いんだよ?」
「こ、これは私の本心です!!」
ハッキリ言い切ると、王子様は少し驚いた表情で笑って──
「──そうか。ちゃんと自分の気持ちを言えるじゃないか」
と言った。
そこから王子様は副会長になって、思ったよりポンコツで天然で無自覚鈍感スケコマシ副会長だと分かったわけだが……。
副会長にいいとこ見せるために人助けしまくったらなんか勘違いされてん
私そんな高尚な人間じゃないし、バッリバリに副会長のことエロい目で見てるんスけど!?
なにその私になら何されても良いみたいなエロすぎる信頼は!!!
これ以上私の性癖歪めないでくださいッスよォォォォ!!!
おい、副会長。お前やってること完全に痴女ならぬ痴男だからな????
人様の性癖歪めすぎだからな???
まさかこんなスケベ展開からシリアスな過去編に移ると誰が想像していた……。