前回 「なぜ夫のほうが価値観が古いのか 昭和と令和の『夫婦関係』」 では、時代とともに変わってきた夫婦関係についてお話ししました。夫婦関係を考える上で参考になった本がたくさんあるんです。いずれもコミュニケーションのヒントがたくさん詰まっているので、皆さんにもご紹介したいと思います。まず一冊目は…。

うまくいっている夫婦は褒め方と謝り方が違う

 なぜ、うちの妻はいつも不機嫌なのか。なぜ、うちの夫は私に関心を持ってくれないのか。そんなモヤモヤとした不満を抱えている人におすすめなのが、 『不機嫌な妻 無関心な夫』(五百田達成著、ディスカヴァー・トゥエンティワン) です。

うまくいっている夫婦の話し方を分析して解説してくれます
うまくいっている夫婦の話し方を分析して解説してくれます

 著者の五百田達成さんはコミュニケーションや男女関係などを専門分野にする心理カウンセラーで、本書ではよくある夫婦の会話例を50挙げて、うまくいっている夫婦とそうでない夫婦のケースを比較しながら解説しています。

 例えば、相手を褒めるとき。「上手にできたね」「きれいに片付いているね」と善しあしを評価する言い方と、「上手にできてすごい」「きれいに片付いててびっくり」と思った感想を伝える言い方がありますが、うまくいっている夫婦は後者のやり取りをすると言います。

 評価というのは、「自分のほうがよく分かっていて相手をジャッジする」という関係になるので上から目線になりがち。相手をカチンとさせかねません。かたや、感想は心で感じたことですから上も下もなく、相手に素直に伝わりやすくなります。

 また、たわいもないことでケンカになったとき。相手が先に「ごめん」と謝ってきたら、「いいよ」ではなく、「私(僕)のほうもごめん」と返すのがベストとのこと。けんか両成敗で、悪いのはお互いさまだからです。

 「いいよ」と返すと、先に謝ったほうが負けのような勝敗がついてしまいますよね。たとえ「いいよ、そんなこと気にしてないから」と一言付け加えても不十分です。寛大さを示したつもりでも、相手に伝わるのは自分が勝ったという優越感だからです。

 ちなみに絶対にしてはいけないのが、先に謝ってくれた相手に「何がごめんなのか、言ってみて」と言うことです。謝っているポイントが、自分の考えと一致しているかどうかを確かめる必要はないんですね。新たなケンカの火種になること請け合いです。さらに、「誤解を招くような言い方をしていたとしたらごめん」という政治家のような言い方もNG。誤解したほうが悪いということを言いたいだけで、謝ってはいないからです。

あなたの夫婦は恋人なのか、戦友なのか、同居人なのか。夫婦のタイプ診断も面白い
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 この本に載っているのはうまくいっている夫婦の会話例ですが、良好なコミュニケーションを築くコツとして、義父母や子ども、同僚や部下に対しても使えると思います。ミスをした部下が謝ってきたとき、「もういいよ」ではなく、「こっちも事前にちゃんと伝えていなくて悪かった」と言えたら、部下のミスを一緒に背負える器の大きさが伝わりますよね。部下の心理的安全性が高まって、信頼関係が深まるに違いありません。

こだわるポイントが夫婦で違うのはなぜ

 よく、男性は女性から相談を受けたときにアドバイスをしてはいけない、と言いますよね。男性は解決してあげようという親切心からアドバイスするわけですが、女性が求めているのは共感やねぎらいで、アドバイスではないからです。そうした男女のギャップが原因で夫婦げんかになる人には 『夫婦のトリセツ 決定版』(黒川伊保子著、講談社+α新書) がおすすめです。著者は脳科学が専門で、脳の男女差について研究されています。

本書はシリーズ展開。『夫のトリセツ』『妻のトリセツ』も併せて読むと理解が深まる
本書はシリーズ展開。『夫のトリセツ』『妻のトリセツ』も併せて読むと理解が深まる

 例えば、親の法事の日取りを決めるとき。夫が妻に「いつにしようか?」と聞くと、妻は「そういえばお義姉さん、この前のときの料理がまずいって言ってたわね」と返します。夫は、「その話、今関係ないじゃん」と思いますが、妻の中ではちゃんと関係があるわけです。お義姉さんがまずいと言っていた → 別のお店にしたほうがいい → お店の都合を聞いて予約を取れる日に法事をすべき、とつながるからです。

 さらに、「冬物の喪服は古いから、夏物の喪服を着たいわ」と妻が付け加えた場合、それも、妻の中では日取りとつながる話なのですが、夫は「料理や喪服の話はもういいから、さっさと日にちを決めたい」とイライラします。最短距離で結論を出したい夫 VS いろんな条件を織り込んで結論を出したい妻。話が平行線をたどって、お互いに、「こいつは、なんて話の分からないやつなんだ、ろくに話もできやしない」と険悪なムードになりがちでしょう。ただそれも、あらかじめ男女の脳の違いを知っていれば、脳の違いのせいだと割り切れて、波風を立てずに済むのです。

 もっとも、なんでも割り切って“無風”に済ます必要はありません。著者の黒川さんはケンカの火種を「怒りの弾丸」と言っていますが、被弾率を0にするのではなく、「10発を5発に減らそうというのが本書の目的である」と言っています。なぜなら、たまにはお互いに言いたいことを吐き出すことも、良好な夫婦関係の維持に必要だからです。

 波風を立てないようにしようと、聖人君子みたいにしていたら息が詰まりますよね。ストレスがたまって、大爆発を引き起こす恐れも。「私はこんなに気を使っているのに、なんであなたはおかまいなしなのよ!」「俺ばかり我慢していてどうしてきみは好き勝手するんだ! と…。平和を最優先すると、それはそれで危険なのかもしれません。

無意識に口にしてしまう「ずるい言葉」にご注意を

 さて、次に紹介するのは、10代から60代まで幅広い層におすすめの1冊。 『10代から知っておきたい 女性を閉じこめる「ずるい言葉」』(森山 至貴著、WAVE出版) です。

 この本の著者はジェンダーや差別について考える社会学者です。女性が読むと共感の嵐で、自分らしく自由に生きるヒントを得られ、男性が読むと女性に対して言ってはいけないフレーズを学べ、悪気なく言っている禁句に気づくことができます。そして、そうした「ずるい言葉」に言いくるめられない対処法も参考になります。

左が『女性を閉じこめる「ずるい言葉」』、右は『あなたを閉じこめる「ずるい言葉」』
左が『女性を閉じこめる「ずるい言葉」』、右は『あなたを閉じこめる「ずるい言葉」』

 例えば、夫が頼んでもいないトイレットペーパーを買ってきたとき。妻が「この間買ったばかりで、しまうところがなくて邪魔なんだけど」とこぼすと、夫は「腐るもんじゃないんだから、別にいいだろ。細かいことを言って、お前が男だったら殴ってるよ」と返したとします。この「お前が男だったら殴ってるよ」が禁句です。相手が男性でも殴っちゃダメですし、著者の森山さんは、そういうことを言う人ほど本当に相手が男性だったら殴れない人だと指摘します。自分より力の弱い女性だから言えることで、自分はお前より力が強いんだぞ、と威圧しているに過ぎないわけです。

 女性を威圧する男性の肩を持つつもりはありませんが、いわゆる「男らしさ」をアピールすると、手っ取り早く自分が優位に立ててラクなんだと思います。女性が「女らしさ」をアピールして、過度な庇護(ひご)を求めるのも同じことでしょう。いずれも時代に逆行するジェンダー観で、どんな相手とも良好な関係を築く上で邪魔になる過去の価値観です。

「『男らしさ』『女らしさ』のほか、『男は度胸、女は愛嬌』『男気』『女子力』なども、もはや今にフィットしない禁句でしょうね」
「『男らしさ』『女らしさ』のほか、『男は度胸、女は愛嬌』『男気』『女子力』なども、もはや今にフィットしない禁句でしょうね」
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取材・文/茅島奈緒深 写真/鈴木愛子