今後どのように話がころがるかはわからないが、第1話だけでも太平洋戦争開戦前夜の庶民を描いた読切漫画として完成している。
作者のななせ悠は、ジャンプ+読切画像ジェネレータで私選した3作品のひとつでも見事な歴史漫画を読ませてくれた。
歴代ジャンプラ史劇読切3選 - 法華狼の日記
『続く道 花の跡』は、技術の発展史をささえた名前の残らぬ女性たちを描き、史実短編漫画として完璧。映画『ドリーム』を連想させるが、完全に独立した中編として完成されている。技術の発展だけでは社会問題を解決できないことにも留意する視野の広さ。家父長制のなかで抑圧されていた女性たちが葛藤し、それでも残そうとしたもの。それが現在につながる構成の美しさ。
続く道 花の跡 - ななせ悠 | 少年ジャンプ+
新連載は現在の滋賀の平和祈念展示会にはじまり、1941年の少女に視点をうつす。大多数の人々が軍国主義に飲みこまれていった時代であり、第1話もきちんと読めば多くの人間は戦争に反対していない。はっきり日本の政策を批判するのは役場勤めで周囲よりはインテリと思われる伯父*1だけで、直前に伯父の妻は制裁した米国を批判している。
だからこそ、けして非道を肯定しないメッセージをどのように描くのか、当時でも存在した現在に通じる考えをどこから抽出するのか、現代の読者でも理解できる人物をどこに配置するのかが問われる。
この主人公は絵が得意な文化的な少女で、信楽焼でも楽しいものを作ろうとする。ここで興味深いのが、日米開戦前でも戦争のため日用品に鉄をつかえず、コンロなどで代用品として陶器がつかわれはじめ、工芸品はつくれなくなっている。
絵を評価されるために戦争を賛美していた時代は、戦争を賛美すれば絵を描けた時代ではあった。小説や映画もそうだった。そこで戦争を賛美しても工芸をつくれなかった信楽焼を主題にしたことで、日米開戦以前から戦争がつづいていたことと、いちはやく戦争が文化をうばうことに直面する物語として独自性が生まれている。
ちなみに2024年のジャンプ+は、数年前に連載開始した作品のアニメ化が多かっただけに、新連載の方向性に首をかしげることが多かったし、編集部への不信感もよく見かけた。
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今年のジャンププラスの新連載は表層の過激化で耳目をひくことを急ぐばかりで、人間関係や世界観の蓄積を後回しにする作品が目立ち、媒体を愛する読者からの不評も少なくないように感じている。
それだけに、もともとの作者の趣向にたよりきるのではなく、陶器監修や時代描写協力*2も入れて地味な作品をささえる体制をつくろうとしていることに感心した。