ファナックで電磁両立性(EMC)不正が発覚した。これまでに見つかった日本企業による品質不正の中でも、かなり悪質な部類に入ると言うべき事例だ。ワイヤ放電加工機(以下、放電加工機)「FANUC ROBOCUT」を手掛けるロボカット研究開発本部が、長年にわたって組織的な不正行為を継続(図1)。欧州市場向けに必須のEMC指令に適合しない製品を出荷していた。
EMC指令とは欧州経済地域(EEA)加盟国およびトルコ域内(EEA域内)で適用されている電磁波干渉(電磁妨害/電磁感受性)に関する指令。電子・電気機器をEEA域内で販売するには、このEMC指令が定める必須要求を満たす必要がある。
ロボカット研究開発本部が不正に及んでいたのは、EMCに関する試験だ。EMC指令には、その適合性を確認するために使用される整合規格としてEN規格(欧州規格)がある。このうち「EN55011」(以下、EN規格)における試験、すなわち放電加工機からの放射性電磁妨害(以下、ノイズ)が規格限度値に収まっているか否かを評価する試験(以下、EMC試験)において様々な不正が見つかった。
合格しやすい条件を選んで試験
まず、EMC試験に合格しやすくなる方策だ。そのためにロボカット研究開発本部が思いついたのが、負荷条件(加工条件)の不正な選定である。
EN規格は測定要求事項として、試験を受ける機器(供試装置)の負荷条件を定めている。要は、機器を稼働させた際に最大ノイズが発生する負荷条件で試験せよという要求である。具体的には「機器の操作マニュアルに規定されている通常の動作手順に従う間に発生するノイズが最大となるように動作させる」必要がある。
しかも、その負荷条件を適切に選定したことを、実機の検証や理論的な検討によって証明しなければならない。さらに、その選定が技術的に妥当であることを後に検証できるように、選定結果の根拠となるデータや検討過程についても記録する必要があるところまで規定されている。
ところが、ロボカット研究開発本部は、放電加工機のEMC試験において最大ノイズが発生する負荷条件、すなわち加工条件を割り出す作業を省略した。実機の検証や理論的な検討を行わずに、顧客にとって最も使用頻度が高いと同研究開発本部が推測した加工条件(以下、推測の加工条件)を負荷条件に採用したのだ。中には、材料を加工しない無負荷の条件を選んで試験を行ったケースもあるという。
これには2つの理由が考えられる。1つは、最大ノイズが発生する条件を技術的、理論的に追求する工程を省くためだ。その分、業務の負荷を減らせる。そして、もう1つは、EMC試験に合格しやすくするためである。当然、推測の加工条件のほうが、EN規格が求める加工条件(最大ノイズを生む条件)よりも放電加工機から放射されるノイズが小さくなる。その分、EMC試験に合格するためのハードルを下げられる。
もちろん、EN規格にもとる加工条件を選んでいるため、選定結果の根拠となるデータや検討過程はもちろん、加工条件やパラメーター(後述)についても記録に残していない。これも意図的なのは明白である。記録に残せば監査などで不正の事実が見つかる恐れがあるからだ。要するに、隠蔽工作である。