私の術式があまりにも産廃すぎるんだが?   作:家葉 テイク

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連休中にこの章をなるべく進めたいため、連続更新です。
最新話まで追いついていない方はリンクの色などにご注意の上お読み直しあそばせ。


第20話 呪毒進運 ─伍─

 領域が、終了する。

 雲上の世界が収束し、泥にまみれた庭園の姿に戻っていく。砕け散った領域の外郭、物質化した呪力の破片がまだ舞っている最中に──私たちが動き出すよりも早く。

 

 

『まだ…………まだァッ!!』

 

 

 腹に大穴をあけたまま、滂沱が両手を広げた。

 直後、神泉苑の湖が泡立ち、「雲」となって広がっていく。

 スピード重視、滂沱の背丈くらいまでの高さしかないが、私達全員を覆う程度の範囲の「雲」だ。

 術式が焼ききれていない!? まさかこれは、()()()()()ということか……!

 

 …………!!

 

 私は即座に決断し、()()する。

 

 

『油断……したな!! 俺の領域は、己の呪力で外郭を作らない分消耗が軽い!! ()()()()()()()()使()()()()……()()()()()()()()()()!? つまりィ!! 再度!!』

 

 

 領域展開

 

 絶界「……同じ策を二度打つって、そりゃあ凡策だろう」

 

 

 再び発現した、遮るもののない蒼天の世界。

 しかしそれは、直後にまたしても砕け散ることになる。

 

 バギン、という音がした。

 まるでガラスが割れるような甲高い音とともに、無限の蒼穹はいとも容易く砕け散った。

 それに伴って、世界も元の泥濘の庭園へと戻っていく。領域に使用した「雲」は消滅する縛りなのか、あたりには「雲」ひとつなかった。

 

 

『なッ……嘘だろ!? まだ領域を展開する程度の余力は……!!』

 

「自惚れるな。お前の領域が、既に私に通用しなくなっただけだ」

 

 

 どしゃり、と。

 大きな音を立てて落下したのは──()()()()()()()()()()()()()()()()()()蛇匣(ナーガ)」である。

 

 私がやったことは、非常にシンプル。

 領域を展開される直前、大量に放たれた「雲」の中で私は──

 

 

「(「蛇匣(ナーガ)」、頼んだぞ……!)」

 

 

 領域から戻って来た黒焦げの「蛇匣(ナーガ)」の下に足を突っ込み、そして全力で蹴り上げた。

 五メートルの巨体でも、今の私の呪力強化なら数メートル程度なら蹴上げることは可能だ。「蛇匣(ナーガ)」自身にその動きをサポートするように動かせばなおさら。

 そして「蛇匣(ナーガ)」が文字通り雲の上に移動した直後、領域が展開される。この時点で私と「蛇匣(ナーガ)」は領域を隔てて接続が断絶されてしまっている訳だが、問題はない。既に「蛇匣(ナーガ)」には「自分が壊れるのも構わずのたうち回りながら落下しろ」という命令を残しておいてある。

 式神「蛇匣(ナーガ)」はその指示に愚直に従い、のたうち回りながら落下したのだ。そしてその結果──領域の外郭を成していた「雲」を大きく乱すことに成功。領域は解除された、という訳だ。

 

 

「一度弱点の割れた領域を工夫なく再度展開する。その杜撰さ。そういうところだよ、私が言っているのは」

 

 

 そして、最早滂沱には、領域展開をさせるだけの時間は与えん!!

 ヤツが領域を展開するには、「雲」の操作と掌印の二工程が挟まる。私たちの連携ならば、十分に封殺可能!

 

 

「佳子、叩くぞ! もう二度と領域を展開させるな!!」

 

「がってんですよ!!」

 

 

 私と佳子は、硬直している滂沱へ素早く駆け寄って戦闘を再開する。

 滂沱から見て右手側に回り込んだ私は、両手に呪力を籠めて跳躍する。見え見えの攻撃でカウンターも食らいそうではあるが──こっちには佳子がいる。私が跳躍したと同時に、佳子は地面を舐めるような低空の姿勢で滂沱に肉薄し、足払いを仕掛ける。

 全く真逆の方向からの攻撃に、滂沱は迎撃を諦め、咄嗟に後ろへ飛び退くことで対応する。

 私はこのまま地面に穴をあけて「壺」を作ろうとしたが──佳子が足払いに使用した右足が私の着地地点に残ったままだったのを見て、瞬時に意図を理解する。

 

 着地。ただし、地面にではなく──佳子の足にだ。

 

 

「行ってください、尊!!」

 

 

 佳子はそのまま私を滂沱の方へ蹴っ飛ばす。私はその勢いに逆らわず、飛び退いた直後の滂沱に肉薄し──ゴッゴッ!! と両拳で顔面を交互に叩く。そのままの勢いで、顔面に右膝を叩き込んだ。

 

 

『う、ごォ……!! テメ……!』

 

「……「蛇匣(ナーガ)」が健在なら此処で詰みだったんだがな」

 

 

 生憎、先ほど蹴り上げた後の着地の衝撃で「蛇匣(ナーガ)」はほぼダメになっている。まぁ必中の雷を浴びているのだ。まだ完全破壊されていないだけ御の字ではあるのだが。

 

 とはいえ、ないものねだりをしても仕方がない。

 ここから「壺」に突っ込むのは正直厳しい為、私は大人しく滂沱を蹴っ飛ばして距離を取る。すると、一瞬遅れてさっきまで私がいたところに滂沱の右フックが直撃した。……危ない危ない。やはり腐っても特級。一撃でももらったら今の私でもキツイな。

 

 

「ナイス尊! 流石天才たる私の友達ですね」

 

「自分を基準に褒めようとするの、辞めた方がいいぞ」

 

 

 適当に言いながら、私は佳子と合流する。

 滂沱はというと、けっこうグロッキーではあるが、まだ戦闘できそうな余裕はある。「雲」は……既に発現されてはいるものの、さっきあっさりと散らされたからか、警戒してすぐには展開に使いたくないらしい。

 ふと気付くと、佳子が私の横顔を見ていた。……どうした?

 

 

「……やっぱり、呪力量が増えてますね」

 

「それは問いか?」

 

「さっきから何です? その言い回し」

 

 

 …………チッ。

 

 

「ああそうだよ。呪力量は増えている。「縛り」を設けたんだ」

 

 

 「問いじゃない」とはっきり答えてくれないと、正直に答えるしかなくなるだろうが……。いや、最初から説明しておけばよかったんだが……。

 

 

「戦闘中、発言において嘘を吐かないこと。問いに沈黙を返さないこと。呪術戦は嘘偽りこそが神髄だろう? それを放棄する「縛り」で呪力量を強化しているんだ。これを「方正質直(ほうしょうしつじき)(けい)」という」

 

 

 私が勝手に縛りに名前をつけただけで、別にそういう縛りのフォーマットがある訳ではないが。

 ただ、効果は劇的だったと言っていい。単に殴打しても特級にダメージすら与えられなかった私が、今やコンビネーションを食らわせることで大ダメージを与えることすら可能になっているのだ。体感では、呪力出力は二倍~三倍くらいになっていると思う。佳子に確認した訳ではないから正確ではないが。

 

 ただ、このせいでちょっとした戦闘中の軽口にも気を配らなくてはいけなくなった。しかも、少しでも私が「これは問いかもしれない」と認識したら、本当に問いかどうかを確認しないと「問いを無視した」扱いになってしまう。そのくせ、その私の問いに相手が無視したら問いと判断して回答しないといけないし。

 だから私は、自然と相手の台詞に対して「それは問いか?」と念を押すおかしな人間になってしまった。何せ、問いと認識しておいて嘘や無言で回答した場合は(ペナルティ)として一定時間呪力出力がゼロになってしまうからな。戦闘中はほぼ死亡である。

 まぁ、裏を返せば私が問いと認識していなければ、無視してしまったとしても何のデメリットもないのだが。

 

 

『ほォ、良いことを聞いたぜ』

 

 

 ぼこぼこと呪力を泡立たせながら腹の大穴を修復させて、滂沱は嫌らしい笑みを浮かべる。

 

 ……チッ。だから言いたくなかったんだ。

 これを教えてしまえば、ヤツは「今後の戦略」を聞こうとするだろう。今はシンプルに術式が焼き切れているうちに始末したいだけだが、もしも何かしらの作戦が必要な状況になったら、質問されるだけで今後の策がバレてしまう。……我ながら面倒な「縛り」を用意してしまったものだ。

 

 

「お前の頭で上手く使いこなせるか? 私の「縛り」を」

 

 

 ただし……今は私一人ではない。佳子と一緒に、二対一の状況だ。

 私一人の思惑を聞き出したところで、それでは盤面の半分しか埋めたことにならない!

 

 

「今の私は、天才な上にノってますよ!!」

 

 

 佳子が滂沱に突進する。

 滂沱は佳子との接近戦を避ける為に浮遊して回避しようとしているようだが──

 

 

「させま、せんッ!!」

 

 

 これに対し、佳子は思い切り地面を踏みしめて対応した。

 ただの足踏みだが、雨でぬかるみ泥と化した地面は、ただそれだけで"泥飛沫"を上げた。──しかも、この泥に呪力が込められている!

 

 

『うおッ!?』

 

 

 ただでさえ消耗している状況だ。大したダメージにならないとしても、呪力が込められた物質の一撃は回避したい。滂沱は浮遊したまま防御態勢に入り──

 その間に、私は呪力が込められたことで強度が高まっている"泥飛沫"を足場代わりにして空中へと駆けあがる。

 

 

『コイツら……連携が手慣れすぎていやがる……!?』

 

「この一ヵ月、私がどれだけコイツの世話をしてやったと思っている。何を考えているかくらい手に取る様に読めるぞ」

 

「あ、尊そんな風に思ってたんですね。わたし拗ねますよ」

 

 

 滂沱の上を取った私は、そのまま踵落としで蹴り落とす。──分かってるさ、佳子。さっきの足踏みは「それ」の布石だろ?

 

 早々に踏みしめた地面から足をどかした佳子を見下ろして、私は頷く。

 そして、叩き落された滂沱が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に着地した瞬間に。

 

 シュキキキン!!!! と。

 

 滂沱の左足が腰のあたりから、「壺」に呑み込まれる。

 

 

『ぐおおおおおおおッッ!?』

 

「佳子! さらに叩き込めるか!?」

 

「──無理です!! わたしの見た未来では既に脱出されてます!!」

 

 

 一応、佳子も未来を「否定」したみたいではあるが──未来の「否定」は、「その通りの未来には到達しない」だけで、望む未来を手繰り寄せる性質のものではない。

 ゴロンゴロンと地面を転がりながら、滂沱は「壺」から離脱する。だが、ここで止まってやる義理はない。足を再生される前にどんどん畳みかけていく!

 

 

「「蛇匣(ナーガ)」!!」

 

 

 私が叫ぶと、ゴロゴロと転がっていた滂沱は辺りを確認するよりも前に鋭いアッパーを繰り出す。

 ──が、「蛇匣(ナーガ)」はいない。

 

 

「重畳。切断がトラウマになっているようで何よりだ」

 

 

 私の呼びかけで、確かに「蛇匣(ナーガ)」は動いている。だから嘘は吐いていない。

 だがそれは、重傷の滂沱への追撃ではなく、「蛇匣(ナーガ)」の現在地で蠢くことで大きな「壺」を作れという指示でしかない。確かに言葉足らずだが──勝手に勘違いしたのは滂沱の方だ。

 

 

「そして一手。無駄にしたな」

 

「はァァあああああああ!!」

 

 

 ドチュ!! と。

 滂沱のことを叩き潰すように佳子の拳が振り下ろされる。

 滂沱はすんでのところで回避したようだが、それでも躱しきれなかったらしい。右肩が拳の直撃を受けた。呪力による防御もできなかったらしく、右肩から先が拳によって乱雑に切断される。

 滂沱は最早、反撃よりも安全圏への移動を優先しているようだ。残った左手や右足で佳子にカウンターをするよりも、逃亡を優先したらしい。

 

 そして──

 

 

「尊!!」

 

「ああ!!」

 

 

 逃げようと浮遊移動を試みる滂沱に対し、佳子の左手の袖を「壺」へと変える。

 あとは簡単だ。「壺」と化した佳子の左腕で掬い取るように滂沱の頭目掛けて腕を振るい──

 

 

 スカァッ──と。

 

 

 滂沱の首が、宙を舞った。




佳子が蟲毒呪法を前提にした連携をしているのは、この一ヵ月の共同任務の賜物でもありますが、それ以上に六眼の力で尊の術式効果を把握しているのが大きいです。

※領域に伴う術式の焼き切れの描写を修正しています。すみません。
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